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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

INDEX|32ページ/47ページ|

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「あの、キリヤさん、薬の予備ってないんですか?」
「ないな」
「じゃあ取り返さないと。転送陣、よろしくお願いしますね」
「……ふん」
 そっと二人の間に割って入った意図を、キリヤも察してくれたらしい。それ以上は何も言わず、ソレンスタムの後を追っていった。
「さあ、エドアルドを探そう。それで転送陣の方に連れて……連れて行くってどうやるの?」
「知らないわよ、バカ」
 他に選択肢はないようだけど、暴走しているエドアルドを誘導することが自分に可能なのか。そんな器用な戦い方が出来るとも思えず、だからといって逃げ出すわけにもいかず、カペルは自分の力を確かめるように剣を抜いて光りに捧げてみた。
 なまくらという程ではないせよ、エドアルドが一撃入れればへし折れてしまいそうな印象がある。いや、それは見る者の気分のせいだろうか。
 ふいに、ヴィーカに袖を引かれた。
 赤い目に笑みを浮かべ、鼻頭をこすりながらヴィーカは言う。
「兄貴、おいらも手伝うからさ。なんとかして助けようぜ」
 気持ちは伝わる。
 ヴィーカの強がった笑顔にそれが確認できると、カペルはその笑みに答えた。
「……そうだね。よろしく頼むよ、ヴィーカ」
 新月の民とコモネイル、ハイネイルだってわかり合えるのだ。リバスネイルだって、きっと……。
「へへ」
「アーヤも手伝ってよ。蜘蛛の相手はしなくていいから」
「う、うん」
「じゃあ早速——」
 エドアルドを探そう。
 そう言いかけたところで、視線の先、屋根の上に黒い固まりが見えた。赤い双眸をこちらに向けたかと思うと、それは漆黒の翼を広げ、屋根の上から一直線にカペルへと突進してきた。
「アーヤ、ヴィーカ、離れて!」
 言い終わるやいなや、エドアルドの大剣がカペルの構えた剣と衝突し、衝撃が二人を中心に同心円を描いて駆け巡った。
 辛うじて堪えられたのは一瞬で、その間にアーヤとヴィーカは後ろに飛んで距離を取れたものの、カペルは吹き飛ばされ、後方に積んであった木箱に激突する。
「カペル!」
 そこから這い出ると、エドアルドは頭を抱えて悶絶していた。
 燃えるような漆黒の翼は、内部から吹き出る感情の象徴だ。抑えきることも出来ず、自分の身を苛むほどの激痛に抗いながら、エドアルドは再び、その赤く焼けた目でカペルを見る。
「カ……ペル……、ドウシテ……オマエ……ナ……ンダ……ドウシテ……」
 どうして……。
 それは絶望の言葉。
 そして、誰かに助けを求める言葉。
「シグムント……サマ……」
 だが、彼が求める人はこの場にはいない。
 苦しげに伸ばされた手が空を掴み、身体をよろけさせる。
「エドアルド!」
 カペルの声にエドアルドが反応する。
 そうだ。それでいい。
 僕を見るんだ。そして、追いかけてこい。
「必ず治してあげるから」
 だから、治った後のことを考えるなら、君はここにいちゃいけないんだ。
 エドアルドが猪突する。
 それを辛うじてかわしながら、カペルは転送陣の方へと走り出した。


 倒せど倒せど次が現れる。
 女王蜘蛛を中心にして際限なく出現する蜘蛛の処理に追われ、ユージンとミルシェは本体に近づくことさえ出来ずにいた。逃げ遅れた一般人を庇いながらでは本来の力も発揮できず、敵の数に比してこちらはたった二人。打てる手も思い浮かばない。
 こんなときにあいつがいてくれれば……。
「きりが無いね」
「ママのおなかからどんどん次が出てきてるわよ。あれは生んでるんじゃないわね。召喚魔法みたいなものかしら」
「いずれにせよ、まだ逃げ遅れている人たちもいる。あまり大きな魔法は使えないよ」
「でも、このままじゃ小さい子たちが街中に拡散しちゃう……きゃっ!」
 横合いから飛びかかってきた蜘蛛に、ミルシェが悲鳴を上げる。
 ユージンが咄嗟に杖を振り上げた。
 すると、蜘蛛を遮るように地面から岩石の壁がせり出してそれを遮った。
 ロウズ——地中の成分を再構成し、至近に岩石の壁を生成、一時的な遮蔽物を作り出すこの魔法は、ユージンにとって、詠唱を破棄し、呼吸するのと同様に使える魔法の一つだった。
 身体に馴染んだそれが条件反射の速度で発動し、これまでも幾度となく仲間の窮地を救ってきた。それもすべて、無茶なところのあった幼なじみに付き合わされてきたせいで身についた、癖のようなものだ。それを思い出すと、戦闘中にもかかわらず、少し感傷的な気分にもなるのが今のユージンだった。
 それは油断なのだろうか。
 避けがたいとも思えるその一瞬の隙をついて、別の蜘蛛が、今度はユージンに襲いかかる。辛うじて杖を間に割り込ませ、喉を食いちぎろうと迫ってくるその蜘蛛を押しのけようとしたが、吐き出された糸が杖に絡まって取れずに膠着した。
「くっ……」
「ユージンくん!」
 ミルシェは武器になるようなものは持っていない。護身用にとナイフや杖を進めてみたりもしたが、必要ないと言われた。確かに、彼女が持つには無粋だと思える。もし彼女がナイフを持ち合わせていたら、この蜘蛛を引きはがしてくれただろうか。それを想像してみたが、やはり彼女にはそういう役回りはさせられないともユージンには思えた。
 だからといって、黙って噛みつかれるわけにもいかない。僕にはまだやらなきゃいけないことが残っているんだ。
 だが、その思いとは裏腹に、絡みついてくる蜘蛛の向こうからもまた、別の蜘蛛が数体飛んでくるのが見えた。身動きの取れないままでは、それらを退ける術がない。
「動かないでください!」
 ふいに少女の声が聞こえた。
 それが自分に対しての言葉かどうかはわからなかったが、いずれにせよ動けるような状態じゃない。そうユージンが判断したのも一瞬、視界の外から一本のクナイが飛来し、絡みついていた蜘蛛の口を貫いた。それによってユージンの杖を絡め取っていた糸が切断されると、その蜘蛛が一瞬宙に浮く。
 声の主は蜘蛛の真横へ風のように飛び込むと、小さな身体から最大限の衝撃を生むためにその場で身をひねって回転する。旋風のごとき渾身の回し蹴りが蜘蛛の頭をとらえ、その衝撃に耐えきれなかった蜘蛛がユージンの身体から引きはがされた。はじき飛ばされた蜘蛛は壁にぶつかって潰れ、悲鳴をあげる時間も無く絶命した。
「遅くなりました」
 《影》の戦装束を身にまとう姿は、シグムントと旅に出る前に会ったときと比べれば、ずいぶんと様になって見えるようになった。にこりと笑うコマチの顔を見てそんなことを思った刹那、こちらに飛びかかろうとしていた蜘蛛の群れが一瞬にして両断されていくのを視界に入れると、肩の荷がいくらか軽くなったように思えて、ユージンは身体の力が抜けるのを感じた。
「少々手こずったが、オルトロスは何とか撒いてきたぞ」
「トウマ!」
 ミルシェと二人ではとても対処しきれないと思えていたユージンにとって、これほど頼もしい援軍は他にはない。そう思える幼なじみの顔を見ると、落ち着きを取り戻したユージンの頭はすぐに次の展開を予測しようと回り始めていた。
「ずいぶんと大きな蜘蛛だな。敵襲か?」
「トウマ、ここをを頼めるか? こんなところでは戦えない。一般人を遠ざける必要があるんだ」