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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

INDEX|39ページ/47ページ|

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 力に取り付かれ、昔の面影などほとんどない。実験材料を見る目でこちらを観察する男は、ただ観察の結果を知らせるだけの声音で言葉を継いだ。
「だが、つまらぬ死に方だぞ、それは」
 怒りが月印の姿となって手の甲を焼き、持った鎖鎌の柄が軋む音を聞いたキリヤは、その扱い方を教えてくれた兄弟子の姿を頭の隅へと押しやると、目の前の敵に向かって大地を蹴った。


 ヴィーカを押しのけて盾となるその兄の姿を、アーヤははっきりと見た。射線に重なり、エドアルドを止めるための一矢が放てなかった。その先で、大切な仲間の剣が、仲間の大切な人を貫いてしまった。
 ……こんなこと、あっていいの?
 想定していなかった事態に、アーヤの思考は白濁していく。
 直後に耳をつんざいたエドアルドの絶叫が、虚脱した心に痛みと悲しみを伴って切り込んでくる。その感触に怯え、アーヤは思わず身をすくませた。
「エドアルド!!」
 その一瞬の心の空白に、カペルの声が反響する。その声音は、遊離しかけた意識を引き戻すのに十分で、アーヤは正気を取り戻すと、腰の矢入れに手をやりながらエドアルドの姿を目で追った。
 これ以上、エドアルドに仲間を傷つけさせるわけにはいかない。もしそんなことになったら、リバスネイル化を治療できたとしてもエドアルドの心が持たない。ヴィーカの兄を貫いた後のエドアルドの絶叫が、彼がその感触を確かに感じているということを教えていた。
「あのバカ……」
 本当は思い切り頬を引っぱたいてやりたい。みんなに心配をかけて、周囲に迷惑もかけて、それでいて、まだ暴れようとしているのだ。
「治ったらお説教なんだから、覚悟しなさいよね」
 エドアルドの名を呼んだカペルもまた、同じ気持ちなのだろう。他の誰かを傷つける前にエドアルドの注意を引き、それを自分で引き受けようと言っているのだ。あれだけ悪し様に言われたのにもかかわらず、カペルはまだエドアルドのことを仲間だと思ってくれている。アーヤはそれが嬉しかった。
 カペルを追うエドアルドの姿を見遣り、泣き崩れたヴィーカの背中を見ると、アーヤはその元凶となった男の方へと視線を流した。
「どうした、キリヤ。その程度か!?」
 鎖鎌での攻撃は変則的で、その使い手を初めて見たアーヤには予測できない動きばかりだったが、同じ武器の使い手同士だとそうでもないらしい。怒りをあらわにしたキリヤの攻撃を、ヘルドは涼しい顔をしてかわしている。鎌と鎌がぶつかって火花が散る。その向こうに見えたヘルドの余裕の笑みが、けして相容れない相手なのだということをアーヤに理解させた。
 キリヤがヘルドと刃を交え始めると、それまで交戦していたソレンスタムがヴィーカの側にやってきた。英知の目が見据える二つの動かない影。ソレンスタム様なら、と淡い期待を抱いたのも束の間、目を瞑って首を横に振るのが見え、アーヤは落胆するほか無かった。
 いくら頑張っても、全てを救うことが出来るわけじゃない。わかっていても胸の痛みが止められるわけではなく、自らの非力さを再確認させられると、くやしさにアーヤは唇を噛んだ。
 それを知ってか知らずか、キリヤの攻撃を受け流しつつ、ヘルドが哄笑しながら言った。
「そちらばかりが大人数というのも気が引けるだろう」
 高々と掲げられた右手に、月印が赤く光る。そこからほとばしった月の力が四方に飛び散ると、まるで準備されていたかのように、それを受けた地面や岩盤の壁、岩石の表面に召喚の魔方陣が滲み始める。肌をざわつかせる不快な共鳴音が弾け、それぞれの魔方陣が漆黒の翼を模した怪しげな色の光を放つと、そこから同色の球体がごとりと音を立てて吐き出された。
「ソーサリーグローブと言う。ただのおもちゃだが、その名の通り魔法を使う。気をつけたまえ」
 ヘルドが言うと同時に、その球体がぶんと音を立てて浮かび上がる。手の届かぬ高さを飛び交い始めたそれは、互いにぶつかり合いながら軌道を無秩序に変化させていて、ヘルドの言うとおり、その動きはガラス玉をぶつけ合う子供の遊びを連想させた。だが、それがそんなかわいいもののはずもない。球体のそれぞれが帯電していくのを頭上に見たアーヤは、咄嗟にその場を離れた。
 瞬間、全ての球体から雷撃が降り注ぎ始める。
 カペルとアーヤ、エドアルドもそれをかわしていたが、動かないヴィーカは別だ。ソレンスタムが殺到する雷撃を防いでいなければ今頃はやられていただろう。
 雷撃特有の刺激臭が鼻をつく。降り注ぐ雷撃をかわし、キリヤがヘルドに押され始めたのを見て取ると、アーヤは残りの矢の数を確かめた。敵の数を考えればいくらか心許無い。それでも、皆が手一杯の今、自分がやるしかない。
「カペル、ちょっとだけ一人で踏ん張りなさい!」
「ええっ!? 手伝ってくれないの、アーヤ!!?」
「情けない声ださないの!!」
 まったく、ほんとに頼りないんだから……。
「あれは全部わたしが叩き落とすんだから、そっちはそっちでなんとかしなさい!」


 受け止めた斬撃が、芯に響く。
 攻撃の力を受け止めきるのは諦め、ドミニカは力の流れに沿って自ら飛んだ。それでも減殺しきれなかった衝撃に体勢を崩されると、そこにもう一人のリバスネイルが攻撃を仕掛けてくる。
 だが、それは全て想定の範囲内。
 余裕を持って攻撃をかわすと、隙を見せたリバスネイルを蹴り飛ばす。
「力の強さは相手が上か。だが」
 唇に滲んだ血を親指で拭いながら、ドミニカは敵の様子をもう一度伺った。
 敵の手に光る月印。それを縛る赤い鎖を見たドミニカは、彼らが何者であるかにおおよその見当がついていた。
 新月の民。
 太刀筋が直線的すぎるのは、理性を失ったからという理由だけでなく、単純に、訓練を積んでいないだけなのかもしれない。獣の力と速度を持った攻撃はそれだけで十分に驚異だったが、所詮は力に振り回されているだけだ。そう結論づけたドミニカの中で、目の前の強敵に対する興味は、リバスネイル化に至った経緯に対してのものへと移っていった。
「ようやく手に入れた力の代償が、これか……」
 同情と、力を求める心への共感と、それを御しえない者へのわずかな侮蔑、新月の民に対する刷り込まれた差別意識もあったかもしれない。それと、救う術を知らない自分に対するもどかしさ。ない交ぜになった感情で敵を見据え、ドミニカは槍を上段に構え直した。
 カペルの要領を得ない説明によれば、一度透明化するところまで落ちたリバスネイルを治す手立ては、今のところ無いらしい。
 それならどうすればいい?
 このまま暴走を続けさせるのか、それとも……
「やるしかない、か」
 二つの黒い影がにじり寄ってくる。双眸に光るのは血涙にも似た赤だ。降り始めの雪が街並みを染めていく中では、あまりにも異質なその姿が、この世界に居場所を失った彼らの状況を皮肉なほどに物語っていた。
 それを悲しいと感じたドミニカが、白銀の世界に揺れる二つの黒い影と相対したそのとき、それとは別の、鮮烈な色彩がもう一つ混じり始める。
 ケルンテンの街に、金色に光る月の雨が舞い散り出した。