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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

INDEX|42ページ/47ページ|

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「早くしないと……この雨の中じゃ、エドアルドが……っ!」
 視線を外していた隙に、ソーサリーグローブの一つがこちらへと突っ込んできていたことに気付き、アーヤはすぐに態勢を立て直す。だが、咄嗟に矢を引き抜こうとした手の動きが鈍い。それでもなんとか射た矢が巨大な砲弾と化したソーサリーグローブを迎撃するが、先ほどまでとは違い、その矢には硬質の球体を止めるだけの力はなかった。
 避けることは出来ない。それなら……。
 この一撃はもらうと腹をくくり、アーヤは反射的になけなしの月の力を月印に注ぎ込み、防御のための障壁として展開する。ぐっと歯を食いしばり、敵の一撃を待ちかまえた瞬間だった。
 アーヤとソーサリーグローブの間に割って入った小さな影。
 甲高い金属音は、ヴィーカの持つ短剣がソーサリーグローブの一撃を受け止めた音だった。刃の腹で受け止め、猫を思わせる柔軟な足腰で突撃の衝撃を減殺しきると、ヴィーカは目の前の球体を蹴り飛ばした。腰に下げた小さなバッグから別の短剣を引き抜き、大地に転がったそれに投擲する。月の力を乗せたその刃が球体の皮膜を突き破ると、弾けた欠片と一緒になって、ソーサリーグローブは爆散して消えた。
「ヴィーカ!?」
「へへへ、いつまでも泣いてたら、兄ちゃんに笑われちまうよ」
 振り返り、鼻をこすりながら言うヴィーカの目は真っ赤に腫れていた。
「それに、これ以上みんなに迷惑は掛けられないから……」
 すべてを受け入れられるほど、ヴィーカの身に降りかかった出来事は小さくないはず。目の前にはまだ、ヘルドも、エドアルドもいるのだ。それでも笑ってみせるヴィーカの強さは、この子の長所でもあると同時に、その身を滅ぼしかねない危うさもはらんでいると感じられたが、いまはそれに助けられる思いだった。
「ありがと、ヴィーカ」
「へへへ」
 腰のバッグにはまだいろいろと入っているらしく、先ほど投げた短剣のスペアもあるらしい。投げつけたときの引き抜く勢いで予備のそれが飛び出していたのをしまいながら、ヴィーカは照れ臭そうに笑った。
「ん? ヴィーカ、それってコマチさんのクナイじゃ……」
「盗んだんじゃないぜ。落とし物を拾っただけだからな」
「もう……。ふふふ」
 得意げに言うヴィーカを見、少しだけ軽くなった気分で笑った直後、異様な絶叫がアーヤとヴィーカの耳をつんざいた。
「ぐああああああああああああ!!!」
 エドアルドかと思ったのも一瞬、それがソレンスタムたちの方から聞こえてきたことに気付いて、アーヤはそちらへと視線を流す。
 漆黒の翼と甲冑へと変えていた姿を留めきれず、炎にも似た何かに変わった月の力がヘルドの身を焼き焦がしている。全身を苛むその苦痛に悶え、顔の半分を焼く漆黒の炎の下で、赤く燃える目が光を失いつつあった。
「月の雨は、毒にもなる……」
 独りごちた言葉に冷たい汗が頬を伝い、アーヤは身を震わせると、エドアルドの姿を視界の端に捉えながら矢を弓につがえた。敵と定めたものへと視線を戻し、今は自分のなすべきことを、と逸る自分に言い聞かせる。
 必ず間に合う。必ず間に合うから……。


 地獄に業火があるのだとすれば、その色はきっと闇夜にも似た黒だ。その業火に身を焼かれ、悲鳴にも似た絶叫をあげる兄弟子を見遣ると、キリヤの脳裏には過去の記憶が駆け始めていた。
 この鎖鎌は、兄とも慕ったこの男に扱い方を教わった。
 武器は使い慣れたものが一番良い。おまえは薬師だから薬草を採る鎌の扱いを覚えるのが良いだろう。そう言われて手ほどきを受けた。別に武器の扱いなど覚えたいとも思わなかったし、結局それが役立つ場面もほとんど無かったが、身体がなまれば頭の回転も鈍ると師匠に言われ、鍛練だけは続けていた。
「ば、馬鹿な……、まだ時間はあったはず……ぐっ」
 漆黒の炎が半分を隠したその表情には、まるで昔の面影はない。力に魅せられ、心の奥底にあった衝動をむき出しにして吠えるヘルドの姿に、キリヤは胸を突かれる思いだった。
 なぜなら、この兄弟子の姿は、同時に自分の姿でもあるからだ。ヘルドが力を求めるようになった理由。似た感情を持ったキリヤには、それがよくわかる。
 ヘルドは、師に近づきたかったのだ。ハイネイルである師に並ぶ力を得ることは、コモネイルであるヘルドやキリヤには無理な話で、必然的に、キリヤは知の探求で近づこうとした。だがヘルドは違う。力を求め、ハイネイルであるソレンスタムと同等の力を得ようとした。力を以て師に近づきうる方法としたのだ。そしてたどりついたのが、リバスネイル化の制御だったのだろう。月の力を無尽蔵に使うため、身体を作り替える。そういう意味では、ハイネイルとリバスネイルは同じものだ。それに気付いたとき、キリヤはその月印という体系に恐れを抱いた。だがヘルドは、きっと喜悦の笑みを浮かべたに違いない。
 今は苦悶を浮かべるだけのヘルドの目がこちらを見るのを確かめ、キリヤは武器を構え直す。
「そいつを寄越せ、キリヤアアアアアアアア!!」
「渡すかよ!」
 ケタ違いに出力の上がった力で大地を蹴り、ヘルドが文字通り鎌首をもたげて突っ込んでくる。それをかわし、背を向けたヘルドに向かって、キリヤは反射的に鎖鎌の分銅を撃ち放った。見えているはずもなかったそれを易々とかわすと、ヘルドがその鎖を掴み、腕に巻きつけるようにして放さない。強烈な力に引き寄せられるのを何とかこらえながら、キリヤは獣の姿をした兄弟子を正視した。
「治療薬だ……その、治療薬を寄越せええええ!!!!」
 伸ばされた手に月印に呼応して風が渦を巻く。ヘルドから放たれたその風の塊がキリヤを襲った。大気の刃が皮膚を小さく切る。小さな痛みが頬や手に感じられたそのとき、腰にぶら下げていた革袋が風にすくわれていくのをキリヤは見た。 
「しまった!」
「ふははは、そいつはワタシが……なに!?」
 ヘルドの視線の先に、風に飛ばされた革袋が落ちる。それを拾い上げた少年の姿に、ヘルドが言葉を失った。
「へへへ、ヴィーカ様を舐めるなって言ったろ? こいつは返してもらうぜ」
「クソガキがぁあああ!」
 先ほどまで見せていた余裕は欠片も残っておらず、怒りをむき出しにしたヘルドが飛ぶようにヴィーカを追いかける。理性と知性を削り捨て、感情と衝動に飲み込まれていく様をさらけ出しながら、獲物を追う獣よりも浅ましく駆ける姿を見、キリヤはヘルドの腕に絡みついたままの鎖を引いた。使いたいくはないがこの戦いが終わるまでは仕方ない、と開放していた月印から痛みが走る。それでも、行かせるわけにはいかなかった。
「ジャマをするなあ!」
 振り返って叫びながら鎖を振りほどこうとした刹那、ヘルドが全身を痙攣させてその場にひざをついた。暴走が悪化する月印に身体が悲鳴を上げ始めたのだ。それを無視してでも月印を開放し、暴走する翼の下に持ち上げた鎌で、ヘルドは鎖を切り落とそうとした。
 いつのまにか近づいていたのか、その腕をソレンスタムが掴んで止めた。
「もうよしなさい、ヘルド」
「う、うるさい!!」