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その心

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街の中心部にそびえたつ城は、周囲を人工的に作った掘で囲まれ、街とは明確な区別がされていた。
その城は幾重にもなった城壁をもち、中心に近くなるほど広大なバラの庭園や湖としか思えないような池、豪華な社交場など生活圏を兼ねた造りとなっている。
日中は忙しなく動き回るメイドや兵士たち、貴族たちも宵闇の今は最小限しかおらず、静寂に包まれていた。

 その城の主、帝人は部下の青葉とチェスの対局中であった。
2人がいる部屋は所謂プライベートルームであり、帝人専用の部屋である。
部屋の中には広すぎるベッド、テーブル、タンス、暖炉等、どの家具も煌びやかな装飾が施され、頭上のシャンデリアが部屋を照らしている。
帝人は齢15にして一国の主となった、この国の王である。
この年齢の為か帝人の外見は手足が細く、髭などもちろん蓄えていないし、絹の下に隠れている体つきからも、とても逞しい肉体など備えているようにはみえない。帝人はこの国の大多数を占める民族の血が濃く受け継がれており、そのため国民と同様の黒い髪を持っていた。唯一異なるのはその瞳の色、であろうか。


 帝人は手持ちのナイトをくるくると手で弄びながら、青葉の次の一手を待っていた。

「まだ決まらないの?青葉君」
「もう少し待ってくださいよ、王」

青葉と呼ばれた少年は、盤上から顔をあげ、帝人を見る。
帝人よりもやや長めの黒髪、大きな瞳はまるで少女とも少年とも見える中性的な印象を周りに与える。
青葉は最近になって帝人の直属の部下となった少年だ。
少年は本来、この国の不穏分子の一人であったが、帝人の手腕に惚れ込み、現在では帝人の腹心にまで上り詰めた。

「もう、大分待ったつもりなんだけどな」
帝人はため息をつきながら、窓から城の外を見やった。
もう日付が変わるような時分だからか、外の明かりはほとんど見当たらない。
シャンデリアの人工的な光が帝人の横顔を照らす。
青葉はそんな帝人を食い入るように見つめる。

(やっぱり、王の瞳は素晴らしいな…)

帝人の瞳はこの国の大多数の者と違い、やや青みを帯びており、それは日中でも確認できるし、綺麗だと思う。
しかし、夜はまた格別だ。闇の色と青が混ざり合い、青葉がそれまで見たことのないような深い色となって、青葉を魅了するのだ。

青葉は、その瞳に自分が映りたくなり、その欲求のまま帝人を呼ぼうと口を開く。


「王」

しかし、先に帝人を呼んだのは青葉の声でなく、自身の声とは違う、やや低めの、しかし耳触りの良い声だった。

「折原…!」

青葉は突然現れた男を睨む。
折原と呼ばれた男は、ドアにもたれながらこちらを、王を、見ていた。
釣り目がちな瞳の色は赤く、整った顔・柔和な笑顔からは人が好さそうな印象を受けるような青年であった。
細見の身体に黒い服を身にまとっており、腰にはサーベルを携えられている。
サーベルには決して派手ではないが、細かな金や銀の装飾が施されており、一目で位の高い者であると分かる。
折原は年齢は帝人や青葉よりも上であるが、帝人の腹心の一人だ。
帝人が王を戴く前、それこそ幼少のころから帝人の世話をしており、帝人からの信頼も厚い。
また、折原は情報収集に長けており、隣国や国の不穏分子等の情報は折原から得られていると言っても過言ではない。
青葉は帝人の直属の部下となって日が浅い自身より、帝人の信頼を得ている折原が好きではなかった。憎いと言い換えてもいい。

「確か、あんたは隣国の情報収集中って聞いてたんですけどね」
「よく知ってるねぇ。そう、今帰ってきたところなんだ」

睨みつける青葉に、折原は両手を挙げて肩をすくめる。

「新しい情報を手に入れたからね。我らが王にご報告に来たんだよ」

だから、そう睨まないでくれないかなぁと折原はその目を細めた。


 それまで黙っていた帝人は折原を労うために口を開いた。その声は少年独特の高さを残していたが、聴く者の心を落ち着かせるような、そんな音であった。
「ご苦労さまでした。新しい情報はまた後で聞かせてもらいます。今夜はゆっくり休んでください」

これを聞いて喜んだのは青葉だ。
帝人が就寝するまでの相手をできるのは、自分だと確信したためだ。

「良かったですね。王が心優しい方で。…王が心配されるので、とっとと戻ったらどうですか?」

青葉は表情を愉悦に染め、折原に言う。

「そうしたいのは山々なんだけどね。これ結構重大な情報なんだよね」

―隣国の情勢が変わったって話。

折原は最後の一文を殊更ゆっくりと言葉にし、その瞳を猫のように細めた。





作品名:その心 作家名:晃月