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manjusaka

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「シャカ、ごめんなさい!でも……おいら、な…何も…してないもん!おいら、ただ…ムウさまにお遣い頼まれて…ちょっとだけ、ほんのちょっと、楽ちんしようとしただけなんだ。本当だよ?嘘じゃないよ?でも……ふぇ……ちょっ…うぐっ…迷子……になっ……」

 がたがたと小さく震え、最後には涙声になって上手く説明できなかった。

「もうよい……ムウに命令されたわけではない、ということだな」

 コクコクと貴鬼が頷くとようやくシャカからの耐え難いほど重圧が解かれ、貴鬼はへなへなとその場に座り込んだ。
 スッと貴鬼の横を通り過ぎたシャカにまた緊張しながら、その姿を盗み見る。不意をついてシャカが振り返ったものだから、貴鬼はまた固まるしかなかった。

「おまえは誰と話していたのかね?」
「え?誰って……」

 ほら、シャカのすぐ近くにいる子供だよ?と貴鬼は指し示したが、ゆっくりとシャカは見遣るような仕草をしたのち、小首を傾げた。

「誰もおらぬ、が?」
「ええっ?だってほら、そこに」

 何の冗談とばかりに貴鬼は立ち上がり、シャカの前まで進み、そして子供のすぐ横に立った。相変わらず無反応な子供はシャカにも貴鬼にも関心などないとばかりに、たださわさわと風を受けて葉を鳴らす樹を眺めてばかりだった。
こんなにもはっきりと貴鬼には見えているのに、シャカの目は節穴―――いや瞑っているのだから、やっぱり見えていないのだろうかと「ほら、ここに」とその子供の肩に手をかけた。

「……え?嘘……」

 子供の肩に留まるはずだった貴鬼の手が、するりとすり抜け、驚きの声を上げる。こんなにもはっきりとしているのに、実態がないだなんて――貴鬼は混乱するばかりだ。

「本当だよ?嘘じゃないよ!?ここにいるんだ……でも、でも……この子――」
「そこに、子供がいるのかね?」

 混乱する貴鬼にシャカは咎める風ではなく、ただ静かに尋ねるばかりだったから、貴鬼も少し冷静になれた。

「うん……おいらより、ちょっと小さい子。えっと…シャカとおんなじ髪の色で――」

 そこまで言って貴鬼はハッと息を呑んだ。

「―――なるほど」

 シャカはシャカには見えぬ存在に向かって、まるで話しかけようとするかのように膝を折って、視線を貴鬼とほぼ同じ高さまで降ろしたのだ。結果的にその行動は貴鬼にとっても、シャカの端正な貌がひどく間近となった。
 貴鬼はどんどんと心臓がうるさく跳ねるのが本当に厭だと思いながら、シャカとシャカに見つめられたまま、樹を見つめ続ける子供を交互に見比べた。もしかして、この子供は―――。

「貴鬼、とか言ったか。教えてくれ、その子は何をしているのかね」
「ずっと、この大きな樹を見つめているよ……シャカ……あっ!」
「どうしたのかね?」
「あのね、シャカ……今、この子……少しだけ、笑ったよ」
「笑った?」
「うん……とっても綺麗……あれ…?おかしい…な……なんだか、急に……」

 無表情だった子供の顔。ほんの少しだが口角が緩く上がったのだ。そして樹を見つめていたような姿勢から天を仰ぐように顔を上げ、より一層発光が増したように見えた。ふうわりとその子の周囲を風と光が包んで、とても綺麗だな、と貴鬼が思うと同時にひどく眩しい、と貴鬼は手を翳そうとしたけれども、うまくいかずに急激な眠気に襲われて、そのまま意識を失った。
 どさりと草花に伏した貴鬼をシャカは慌てることもなく抱え上げた。そして貴鬼が示した辺りをシャカは複雑な表情を浮かべながら眇めた。

「―――嗤う、か。おまえは待っているのか、ずっと……ここで」

 白い吐息のような言葉を残してシャカは貴鬼を管理者まで届けるべく静寂に包まれた花園を後にする。
 今はまだ花咲かせぬ沙羅双樹が大きく風に揺れた。



Fin.
作品名:manjusaka 作家名:千珠