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猛獣の飼い方

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12.時々甘えん坊になります





自分勝手に蠢く舌、甘く噛みついてくる唇。
肩を抑えつけている手が熱い。苦しくなって身を引こうとすれば、逃がさないとばかりに頭を強引に抑えつけられた。

乱暴で、それこそ仕掛けている当人のようなキスだ。いいや、キスなんて呼べもしない。スマートさの欠片もない、粗野で野蛮な一方的な略奪。快楽を引き出して、気力を根こそぎ奪っていくような触れ合い。

瞼を開くと、そこには切羽詰まった顔があった。絡みあう舌が立てる下品な水音より、その表情はずっと俺を興奮させる。その顔は…ズルいよ、シズちゃん。

「―――っ、臨也」

低く、甘い声が俺を呼ぶ。その声すらも、悪くない。

「……んっ、シズちゃん………」

俺の口から出たのは、信じられないくらい甘く媚びた声だった。
なんだこれ、なんでこんな気持ち良いんだよ。





***



「――ちゃん、シズ…ちゃん……」

ああ、うるさいなぁ。
寝てられないじゃないか。

まどろみの中、俺はそんな文句を抱いていた。が、脳が覚醒する事によって耳に届いた情報を冷静に分析する。これは、俺の声だと。

慌てて目を覚まし、今見た夢に驚愕する。
頭を抱えて蹲れば、なんかモコモコした手触りがする。ベッドの斜め向かいにある鏡には、前足を頭に回してちっさくなって蹲る猫が映っている。俺だ。なんだ、戻ってないんじゃないか。

しかし今は、そこら辺はどうでも良い。
問題は、あの甘ったるい声を隣で寝ているシズちゃんに聞かれたか否か、それだけだ。

夢の中でシズちゃんに猫耳や尻尾が生えて翻弄しまくった所はいい。それは間違いなく俺の願望だ。けれど"シズちゃんからキスされて、それに縋る俺"を自分の脳が造り出したとは到底認めたくないかった。一番ベストなのは、シズちゃんが寝てる事。そうすれば、これは俺だけの黒歴史として記憶の底に埋没させる事が可能だ。お願いだ、シズちゃん寝てて…!!

「………シズちゃーん?」

小さく、小さく尋ねてみた。
反応が無かったので、眠っているシズちゃんの方をようやく見る事が出来た。

すやすやと眠るシズちゃんの顔は、いつも通りで。ちょっと安心しながら尻尾で頬を擽ってみる。大して意味のない行動だったのだが、その瞬間シズちゃんの顔が真っ赤に染まった。

「…もしかして、ずっと起きてた?」

「――――手前、うっせぇんだよ」

俺と決して目を合わせないシズちゃんの顔は、どんどん、どんどん赤くなっていく。
俺、どんな寝言を言ってたんだ?

「………シズちゃんのむっつり」

「ばっ…!そりゃ手前が…!!」

寝言の詳細を説明してくれそうなシズちゃんだけど、ごめん。正直聞きたくない。
聞けば聞く程、俺に自殺願望が芽生える事は確実だからね。

聞きたくない。
だから、目の前の唇をペロリと舐めた。

ぽかん、と動きを止めたシズちゃんの目の中には真っ黒な猫が映っている。

シズちゃんが好きそうな声で可愛く鳴いてみせる。いくらシズちゃんでも、これで誤魔化されるなんて思っていない。けれど、忘れてくれればいいな、とは思った。

「…………ばーか、何誤魔化してんだよ」

言葉は辛辣。だけど、その響きは本当に柔らかくて。
俺は、愛される為に存在すると言っても過言ではないこの外見がもたらした結果に驚愕するしかなかった。

シズちゃんの腕に抱きしめられて、ゆっくりと頭を撫でられる。
"まるで恋人みたいだ"そう、思ってしまった辺り、俺の頭は寝過ぎて蕩けたらしい。




猫になった自分を見た朝、俺は俺の世界の終わりだと思った。
だけどどうだ?終わったはずの世界は、今まででは考えられない沢山の出来事を運んでくる。

知らなかった温もり、柔らかく触れる手の優しさ。甘く響く、低い声。
どれも今までの俺には必要なかったモノなのに、今は何より大切に思えている。

馬鹿だな、ようやく俺は気付いた。いいや、認める事が出来た。ずっとずっと、欲しかったモノが何かって。





「あのさぁ、シズちゃん」

「…なんだよ」

シズちゃんの腕の中。毛並みに沿って撫でる大きな手。ゴロゴロと勝手になる喉の動きを、もう隠そうなんて思わない。

「特別に俺、シズちゃんに飼われてもいーよ」

シズちゃんが優しいなら、俺の事を好きでいてくれるなら。猫でもいいや。毎日ブラッシングしてもらって、毎日撫でて貰えるならそれでいい。

恋とは実に恐ろしいね。人を愚かにする。でも、今の俺は猫だ。人ではないし、人に戻る方法も分からない。
だったら、今は――シズちゃんだけの猫で居たい。

「臨也」

「…なに?」

「俺は中途半端は嫌いなんだ」

「だろうね、知ってるよ」

俺を撫でていた手が、止まる。
中途半端な猫なんていらないって事?さぁ、どうやって丸め込もうか。

そんな事を考えていたら、シズちゃんの両手が軽々と俺を持ち上げた。うん、人間の時だって片手で持ち上げてくれたもんね。むしろ今の方が丁寧だ。

「飼うなら死ぬまでだ。途中で逃げんなよ」

「………うん、」

「よし」

俺の目を見ながら、シズちゃんが満足そうに頷いた。


ああ、シズちゃんの目の中の俺は随分と幸せそうだ。

羨ましいなんて、思わないけど。









時々甘えん坊になります
(思いきり甘やかすのも、飼い主の仕事です)











猛獣の飼い方/end
作品名:猛獣の飼い方 作家名:サキ