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ムキムキと兄さん

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「………誰だ?」

やはり、兄は寝室に居た。青白い顔で眠ってはいるが、きちんとベッドに入り柔らかな毛布に埋もれている。
ドイツは一旦安堵するが、いや、問題はそこではない。今問題なのは、そんな兄を心配そうに見守る謎の男だった。

「ん?俺かい?俺は皆のヒーロー・アメリカだぞ!」
「……成る程すまない、治療中に兄貴が倒れてしまったんだな。今日はもう無理なようだから、また後日来てくれないか」

人間、あまりに想定外のことが起こると逆に冷静になるのかもしれない。ドイツは、見知らぬ不審人物に対して思わず素で「誰だ?」と問うてしまった。そしてそれに対する返答を聞いて、即座に患者だと判断した。精神病の治療までこなす(つもりだったらしい)兄貴は正に万能の天才だな、と感心しかけたところで、目の前の精神病患者A(推定)から否定が入る。

「俺は何処も悪くないぞ!それに、帰る場所なんて此処以外にないよ」
「自覚してないんだな、すまない。兎に角、今日はもう自宅へ帰ってくれ。保護者の連絡先は分かるか?」
「だから、俺は此処しか居場所がないんだよ!なんならプロイセンを起こして確認してくれよ!」
「お前の妄想にダウンした兄貴を付き合わせられるか!いいから早く出ていってくれ…!」
「…うぅーん……」
「「!!」」

当然ながら噛み合わない会話を続けていると、眠っているプロイセンが苦しげに唸った。枕元で騒ぐ2人の声が煩いのだろう。静かな環境で休ませてやりたいドイツは、迷惑な精神病患者A(推定)の腕を取って丸イスから立ち上がらせる。取り敢えず、詳しい話も別の部屋でしたい。すると超絶迷惑な精神病患者A(推定)は、何するんだい!と喚き出した。

「いいから静かにしろ、兄貴が起きるだろう!」
「君の声が大きいんじゃないかな!!」
「お前の声の方が明らかに大きい!!!」
「分からず屋だなぁ、君は!……あ、もしかして君がプロイセン自慢の弟かい?」

思わぬ言葉に、ドイツは一瞬固まった。

「さっきから兄貴兄貴言うからもしかしたら…と思ったんだよ!アハハハ、彼の言う通り、融通の利かない頑固な性格してるね!」

フリーズから解凍したドイツの頭に、ようやく小さな疑念が浮かぶ。この目の前の男は、本当に患者じゃないというのなら一体何だ。ああ見えて警戒心の人一倍強いプロイセンが、疲労でダウンしているとはいえ、赤の他人の前で寝入るだろうか。

「お前は一体、兄さんとどういう関係…」

何故か出会ったその時から薄らいでいたドイツの警戒心が、ここへ来てようやく戻って来る。ヘラヘラ笑ったままの不審者を睨み付けながら問いかけた瞬間、

「こんにちは、お取り込み中のところ失礼するよ」
新たな訪問客が、音も気配もさせずにやって来た。


プロイセンの超能力:【ヒーリング】あらゆる病と怪我を治す(誰であろうと、治療を依頼されれば拒めない。治療後は激しい疲労に襲われ、その疲労度は治した病気や怪我の具合に比例する)
作品名:ムキムキと兄さん 作家名:竹中和登