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東方project ~責任取ってよね~

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 一見すれば狼のように見えるソレは常識に外れて大きい。
 獰猛な眼光が見下ろすように俺を捉える。

 ヤバい。これは、死ぬ。
 心臓が早鐘のように脈打ち、ドクンドクンと聞いたこともない大きな音を立てて体中に血を送っている。

 逃げなきゃ死ぬ。

「あ、あ……」

 無理だった。
 足が、体が動かない。
 目の前の化け物から目を離せない。
 視線を外した瞬間に殺される。視線を外さなくても一緒だ。どちらにしろ俺はもう――。

「何をしてるのっ! 逃げなさいっ!」

 背後からぶつけられた声に正気を取り戻す。
 思わず後ろを振り返ると同時に俺の視界を横切って行く小さな人形の群れ。

 ……人形?
 ってか、飛んでなかったか?
 浮かんだ疑問に、それまで感じていた恐怖も逃げ出すことも忘れて人形たちを目で追った。
 ただ、振り返った瞬間にでかい狼に睨まれたので数歩後退したが。

 戦っている、人形たちが。
 槍を持って、剣を持って。勇敢に、賢明に。
 宙に浮いた人形たちはよく訓練された軍隊のごとき動きで巨大な狼を翻弄し、一太刀入れ、狼の攻撃をひらりと躱して自分たちの何倍もある巨体に槍を突き入れる。
 それはまるで舞踏のように思えた。
 スカートを翻し、髪を躍らせ、確実に目の前の怪物の命を削って行く。

「すげぇ……」

 と、思わず口にした感嘆の言葉。
 俺のその言葉に気をよくしたわけではないだろうが(そもそも聞こえているかどうかも怪しいが)、人形たちの攻撃がより激しさを増す。
 それに押されるようにして巨大な狼が、後ろへ後ろへと追いやられていった。

「はぁ、呆れたわね」

 ため息混じりに放たれた言葉に、声の方を振り返る。

「っはー……」

 その美しさに息を呑んだ。
 肩の辺りで切りそろえられた絹糸のような金髪は、風をはらんでふわりと躍り、透き通るかのごとく白い肌は白磁の陶器を思わせた。
 まるで出来過ぎた人形と間違えそうになるほどに整った顔立ちは、しかしサファイアに似た青い瞳に映る感情の色合いによって絶妙なバランスで人間らしい美しさを保っている。

 生まれてこの方、こんな美少女を見たことはない。
 うちの神社の近所はおろか、むしろ日本でこれだけの美少女に出会うことなんてまずないだろう。
 ……ただ、奇跡的な確率で今この瞬間に出会うことができたからと言って彼女とどうこうしようなどという考えに至るほど、俺は勇者の心を持ち合わせていない。

「どうかした?」

 耳に心地のいい声が、俺の鼓膜を震わせる。

「あ、いや、えっと」

 と、俺は答えに困った。
 美少女がどうのという以前に、普段から妹以外の女の子と会話をするなんてことが殆どない俺は、こういう時に自分の考えを言い繕う技術に明るくない。
 故に、俺に罪はない。

「――すごく綺麗な? いや、可愛い? ……と、とにかくすっごい美少女だなぁって思って、えっと、見惚れてたんだけど……ってこんな状況で何言ってんだ俺っ? あ、でも、そう思ってたのはほんとだよ? 髪さらさらで色も綺麗だと思うし、肌は白くて女の子っぽさが出てるっていうか、それに瞳の色がすごく綺麗だよね、宝石みたいでさ……っ」

「え……、あっ。……あ、ありがとう?」

 俺に罪はないっ。
 肺と声帯を酷使して一気にまくしたてたせいで、息が切れるし喉がカラカラだ。
 それに頭の悪そうな褒め言葉(?)を連発していたような気がするし。

 顔色を窺うように目の前の美少女を見る。
 沈黙だった。お礼の言葉を言ったきり黙ってしまっている。
 困ったような表情で俺から目を逸らしているが、よく見るとその頬は少しだけ赤く染まっているような気がする。……俺の目が節穴でなければの話だが。
 ともかく、一応のところ俺のなけなしの褒め言葉(?)をしっかりと《褒め言葉》として受け取ってくれたのだろう。
 だが、その愛らしい仕草がこの沈黙を長引かせる一助になっていることは言うまでもなかった。

 あぁ……、もう今すぐここから逃げ出したい。
 さっきの狼みたいな怪物に睨まれた時よりも逃げ出したい。
 っていうかこの際だからウサギの巣穴でもいいから穴があったら入りたいし、穴が無くても掘削機を貸してくれれば地球の裏側まで掘り進む勢いで穴を掘って見せるのに。
 なんてわけのわからない心境で、俺は自分の心と目の前の美少女が落ち着きを取り戻すのを今か今かと待ち詫びていた。