Change,change,change!
中立兄妹の場合
何かがおかしい。
微かな異変に気づいて、目を開く。
何が、というのはわからない。ただ、何かがおかしいと脳が危険信号を発していた。
他人の気配は無い。誰かが侵入したということではないのだろう。
というか侵入者がいたならば何らかのトラップが発動し、家中に警報を発しているはず。
部屋の中には特に変わったところはないし、周りの空気も落ち着いている。特に代わり映えのしない普通の朝だ。
ならば、何がおかしい。
眉を顰めながら身を起こす。と、そこで何かが引っ掛かった。
世辞を交えてもあまり体格がいいとは言えない。そんな体つきをしていることは、普段から自負している。
鍛えれば良いというものではなかった。世の中、努力だけではどうにもならないこともあるのだ。
が、それでも――自分の身体は、ここまで華奢で頼りないものではなかったはず。
妹手製のパジャマ(デザインも揃いのものだという)から突き出た手首は細く、白く、柔らかなもの。
手のひらをじっと眺め、自分の右手で左手を触ってみる。
はっとした。
まさか、そんな馬鹿なことが現実に起こりうるだろうか。
心臓の鼓動が急速に回数を増すのを感じた。
脳が発する危険信号は最高潮に達している。
自分の脳が導き出した異変の正体――それを必死に否定しながら、逸る気持ちを必死に抑えて、部屋を出た。
目指すは、洗面所。
扉がきちんと閉められた妹の部屋の前を通り過ぎる。
自分の予想が正しいとするならば、この扉を開けることで疑問は解消するかもしれない。
が、それは嫌だった。怖くて扉を開けられなかった。
年頃の妹が眠る部屋に断りも無く入るなどというはしたないことはできない、と自分を無理やり納得させて、そのまま部屋の前を通り過ぎる。
気持ちを落ち着けようと深呼吸しながら階段を降り、素足でぺたぺたと冷たい廊下を踏む。
どうやら動揺しすぎてスリッパを履くのすら忘れていたらしい。
覗く足はやはり小さくて、嫌な予感がさらに増して行く。ああ、誰か嘘だと言ってはくれまいか。
たどり着いた目的地。
扉を開ければすぐ正面の鏡に、自分の姿が映し出されるはず。
怖い。軍人にあるまじきことではあるが、恐れを感じる自分の心を抑えることが出来ない。
ええい、ままよ!
思い切って扉を開ける。
目の前に映し出された自らの姿を眺め――
数秒の後、家の中に銃声が鳴り響いた。
作品名:Change,change,change! 作家名:あさひ