二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【同人誌】残照の面影〈上〉【サンプル】

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 じっくりと、我が子の姿を、ただ眺める。
 おかしなものだが、それだけで何時間でも過ごせるように感じている。何においても無駄を厭い、特に時を無為に過ごすことなどできない性分だと言うのに。
 子ができるとは、こうした変化のあるものか。
「どうしますか?」
 ふいに、望美に訊ねられる。
 何のことかと振り返ると、横たわったままの妻は、
「名前、どうしますか?」
 改めて問う。
 それは、もう一つしかない。今この時からすれば、先の未来まで知っているからではなく、妻の懐妊が分かったときから、男であればこの名前を、と考えていたものだ。
「万寿と名付ける」
 泰衡が言うと、えっ、と望美は少し驚いたような声を上げた。
「もう決めたんですか?」
 今度は妻の傍らに寄って、眉を顰める。
「不満か?」
「いえ、そうじゃなくて……お義父さんたちにつけてもらったり、相談してからかなって、思っていたから」
「そのつもりは、一切なかったが」
 父の二人目の子として生まれた泰衡の幼名は、小次郎とされた。妾腹の兄は、太郎とつけられた。泰衡は、二番目の子どもだった。それでも、正室の子であるがゆえに、総領は泰衡がなるものと、彼が生まれた時点で、ほぼ決まっていた。だからこそ、兄より秀でなければならぬと、母に言われて育った。いずれ自分にも子ができたら、太郎だ次郎だと、生まれた順を示すような名はつけまいと、考えてきた。
 そうですか、と妻は応え、
「まんじゅ」
 ゆっくり、噛みしめるように、子の名を口にする。
「ヨロズの万に、コトブキの寿と書く」
 字面を教えると、人差し指で空中に字を書く振りをして、笑みを浮かべて泰衡を見た。
「たくさん、いいことがありますように――って意味ですね」
 良い名前だと思います、とも言う。
 元服すれば、表立って名乗ることはなくなる。仮初めのようなものだ。だが、そこにこそ純粋に親の願いを託せるのではないか。
「万寿」
 子の顔を見やりながら、彼女は呼びかける。


***********(後略)**************************