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井戸ノくらぽー
井戸ノくらぽー
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真夏の昼の薄桜鬼(サンプル

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プロローグ・1


「ねー、一体何なのさ、この集まりは。僕これから用事があるんだけど」

 一学期中間テストも終った、初夏の薄桜学園。二年生の沖田総司は、理科準備室で逆向きにした椅子に腰掛けたまま、口を尖らせて明らかに不満げだった。理由はただ一つ、放課後に呼び止められて、教室に残されているからだ。

「待て総司。雪村の緊急提案なのだ」
「す、すみません沖田先輩、もう一人が来たら始めますので」

 親友の斎藤一が総司を宥めに入ると、唯一女子学生である一年生の雪村千鶴も申し訳なさそうに頭を下げる。

「今日は試験だけだから頑張って早く来たのに。もう眠いよ」

 総司は辺りを憚らず大欠伸を漏らす。その横で風紀委員長でもある一がやや眉を顰(ひそ)めた。

「当たり前だ、試験でなくても遅刻してはダメに決まっている」
「でもさ、みんな昼飯もまだだし、早く話しよーぜ、千鶴」

 千鶴の幼馴染でもある二年生の藤堂平助が立ち上がる。同じく席についている他の一年生、千鶴の従兄・南雲薫と山崎烝も苦い面持ちだ。

「そうだよ。テスト中は学食が閉まってて、購買部のパンもすぐ売り切れちゃうんだからさ」
「うん、ごめんね薫」

 すると、廊下から甲高い靴音が近づいて来るのが聞こえた。足音は教室で止まり、入ってきたのは生徒会長・風間千景たち三年生だった。千景は戸口に立っていた千鶴と、教室内の総司たちを見回した。

「ふん、我が妻のたっての頼みで来てみたが、この者たちは一体何だ」
「それはこっちの台詞だね。千鶴ちゃんが待ってたのってこいつらなワケ? 僕たちを待たせていいと思ってんの」
「重役が最後に来るのは当然の習いだろう、副会長」
「招かれざる客って気が大いにするんだけどね」

 睨み合った総司と千景の間に火花が走る。千景の後ろにいた会計の天霧が止めに入ろうとしたその間を縫って、千鶴がそそくさと教壇の前に立った。書記の不知火はにやにやしながら事の成り行きを見守っている。黒板にはいつの間にか山崎が文字列を書き始めていた。

「なになに……文化祭演劇?」

 平助が怪訝そうな声を漏らした。途端に総司と千景も黒板に向き直る。

「……どういうことだ? 雪村。演劇部はなかったはずだが」

 一が気を取り直して質問する。

「はい。だからこそ、作りたいと思ったんです。ほら、うちの学園はまだ男女共学になったばかりですし、新しい部ができたら、学年を超えて生徒全体の交流になると思うんです」千鶴が頬を紅潮させながら早口に答える。「どう……でしょうか」

 千景が着席しながら訊いた。

「しかし一体どうして今頃なのだ? そういうことは春に始めるものではないか、もう夏だぞ」
「どうしても、文化祭ネタにしたかったんです!」
「雪村くん、何の話をしているんだ」
「しかも思いついた時は冬だったんだよ、全く計画性がないよねー」

 山崎がつっこみ、薫が誰ともなく言い放った。はい、すみません。

「つか、なんで演劇なの? 千鶴、中学で演劇部だったっけ」
「平助くん……それはね……」

 彼らは千鶴の次の言葉を待った。

「それは……作者の思いつきです!」
「だから、何の話をしてるんだよ!!」
「だって、演劇部なかったし……春にはあんまり入りたい部活がなくて。それに、やってみたい劇があるんです」
「もう決まってるのか」

 一同が呆気に取られた。総司はまだむっつりとしている。千景は少し興味を持ったようだ。

「で、何の劇がやってみたいのだ? お前がヒロインで俺がヒーローならば、何も反対することはせん」
「はい、やってみたいのはコメディなんです。演劇っていうとやっぱりシェークスピアかなと思ったんですけど、その中でもストーリーがわかりやすくて面白いものと思って、これです」

 千鶴が出して見せたのは『真夏の夜の夢』だった。

「真夏の夜の夢、ね……。文化祭は秋だけど?」薫がまた嘲笑混じりに呟く。「しかも、登場人物の男女比は一対一。うちには女子が一人しかいないってのに、一体どうするのさ」
「そこなんですけど、」千鶴は軽く息を吸って吐き出した。「男女逆転にしたら、もっと面白くなるんじゃないかなって。で、私はパックがやってみたいんです」
「はあ?!」

 その場に居た千鶴以外が頓狂な声を上げた。

「パックというのはヒロインなのか? 我が妻よ」
「いいえ、ヒロインというよりは妖精役です」
「では俺は何の役をやればいいのだ」
「……一番強い役とかはどうでしょう?」
「それで、妖精とやらと愛し合う役なのだな」
「いえ、その……」
「僕、パス」

 席を立ったのは総司だった。「別に演劇なんて僕やりたくないし。やりたい人が勝手にやったらいいよ」
「沖田先輩……!」

 明らかにショックを受けている千鶴を残して、総司は教室を出ようとした。ところが、

「なるほど、素晴らしいじゃないか!」

 快活に笑いながら入って来たのは、薄桜学園長の近藤勇と、教頭の土方歳三だった。

「若人が自発的に企画を立てて実行する、いいお手本じゃないかね。このような先輩たちの姿を見れば、新入生たちもきっと学園を盛り立てていくやる気が出ることだろう。ん? どうしたんだ、総司」
「えっ、い、いやあ、そうですよね近藤さん! 僕、ちょっと原作を買いに行こうと思って。どんな役でも頑張りますよ」

 足止めを食らった総司は、慌てて笑顔で取り繕った。

「そうか、それは楽しみだなあ! じゃ、君たち、必要な物が有ったらなんでも言いなさい。私のポケットマネーでなんとかしよう。気をつけて帰るんだぞ〜」

 近藤は上機嫌で去って行く。総司は笑顔を解くと、溜息をついて席に戻った。

「おい、俺は別に義理立てなぞせんぞ。我が妻と恋人役を演じるのでなければつまらん」
「そうはいかねえよ、万年生徒会長」

 残っていた土方が千景に睨みを利かせた。「お前の失点はもうこれ以上つけると即退学だ。それは困るっていうなら、学園の運営に協力するこったな」
「教師の分際で生徒を脅す気か?!」
「土方先生、流石にそれは……」

 他の生徒たちもざわめいたが、千景は思案したのち答えた。

「……では、千鶴がヒロインをやるというのなら乗ってやる」
「うん、うん、そうだよな! やっぱ千鶴がヒロインじゃなきゃ俺たちもやる気出ねえって」平助も頷いた。「じゃあ早速、配役決めよーぜ」
「待て」制したのは一だった。「雪村……それでいいのか?」
「はい、皆さんが協力してくださるんだったら、私もその役で頑張ります」
「そうか。あんたがそれで良いと言うなら、俺は何も言うまい」
「ヒロイン・ハーミアは雪村君ということで決定ですね? それでは、残りの配役を決めていきましょう」

 山崎はそう言うと、黒板に配役を書き始めた。周りからは全員一致の拍手が起こった。
 
 ハーミア:雪村千鶴

 満足げに立ち去ろうとする土方に、千鶴はそっと耳打ちをした。

「もしかして、先生、風間先輩に劇をやらせるためにあんな事を?」