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最強のプレゼント

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はじまりは10年以上前になる。
 悪友に連れられて同行したアリエスの離宮で、ロイド・アスプルンドは至高の存在に対面した。
 母君によく似た黒い髪、意志の強さを宿した利発な瞳は、皇族の紫。
 なんて美しい人だろう。
 はじめて出会った、小さな皇子に、ロイドは真剣に見惚れていた。


「はじめまして、ルルーシュ殿下。突然で恐縮ですが、僕をあなたの騎士に選んでくれませんか?」


「気にすることはないよ、ルルーシュ。こいつは変人で、目を開けたまま寝言を言う癖があるんだ」


「性悪に言われたくないなぁ。ルルーシュ殿下、僕は真剣に本気ですから、どうか選ぶと言ってください。閃光のマリアンヌ様にはかないませんけど、これでも軍人としては優秀ですし、ナイトメア研究者としても一流ですよ」


「まあ、本当のことだが、自分で言うと信憑性が薄れると思わないかい、ロイド?」


 シュナイゼルにこんな口の利き方をするロイドにも驚いたが、それを楽しんでいるような義兄にも驚いて、ルルーシュは目を見開いて、二人のやりとりを聞いていた。
 顔には大きくどうしてと書いてあるのが見て取れた。
 実際に、ルルーシュは声に出して、ロイドに疑問をぶつけた。


「アスプルンド卿はシュナイゼル義兄上の学友だと聞きました。あなたは義兄上の騎士ではなく、僕のような継承権の低い皇子に忠誠を捧げようというんですか?」


「どうか、ロイドとおよびください。誰でもない、ルルーシュ殿下のために、生きて死にたいと思ったのです。どうか、僕の忠誠を受け入れてはくれませんか」


「今の僕には決められません。だけど、それでもいいのなら、時々遊びに来てはくれませんか。ナイトメアの話を聞かせてください」


「僕に対してそんなに畏まらなくてもいいんですよ。僕はあなたの僕なんですから。いつでも殿下の好きなときにお伺いいたします」


「わかった、ロイド。待っているから、自由に遊びにきてくれ」


「イエス。ユアハイネス」


 ロイドを連れてきたシュナイゼルを半ば無視して、約束はとりつけられた。
 約束の日からずっと、ロイドとルルーシュは、年齢差も身分も無視して、友人のように過ごした。
 時にはアリエスの離宮で、時にはロイドの研究室で、二人の親密さは増していった。
 それから数年後、ロイドはルルーシュからようやく騎士昇格への条件を出された。


「新型ナイトメアですかぁ?」


「そうだ。僕が騎士を持つのはまだ早すぎる。でも15にもなれば、専任騎士を持つことも許されるだろう。その時最強のナイトメアに乗ったお前が僕の騎士だと発表したい。……子供っぽいと笑うか?」


 ルルーシュは頬を赤く染めて、ロイドを見上げた。
 なんて可愛らしいんだろう。僕の皇子はと、ロイドは有頂天だった。


「とーんでもない。今すぐ殿下の騎士になれないのが残念ですけど。きっと殿下の誕生日に最強のナイトメアと最高の騎士をプレゼントいたしますから、待っててくださいねー」


「ああ、楽しみに待っている」




 そう約束をして、7年の年月が過ぎた。
 約束の日は2年も前のことだ。
 約束は守られなかった。
 誓った2ヵ月後に最愛の殿下と妹姫が日本へと送られてしまい、そこで命を落としたと告げられたために。
 主は死んでいないと、ロイドには確信があった。
 だが、もう軍にいる意味はなかった。
 ルルーシュと約束した新型ナイトメアの研究のためにだけ、ロイドは心血を注いだ。


「色は白がいいな。黒い騎士服を着たお前にきっと映える」


 そう言った主の願いどおりの、最高のナイトメアをロイドは作り上げた。
 軍を退いて特派の主任になったあとは、ロイドがナイトメアに乗ることはなかった。
 けれど、主のためのナイトメアには最高の状態でいて欲しかったから、最高のパーツを見つけ出した。
 ロイドにとって、スザクはあくまでも、ランスロットのためにパーツに過ぎなかった。
 それでも、主のかつての親友だったと知って、一応大切に扱っていたというのに。
 主を捨てたブリタニアへの皮肉としてつけた裏切りの騎士の名は、そのパーツ自身の名となった。
 ロイドはルルーシュが死んだなどと、一度も信じたことはなかった。
 探さなかったのは、自分の行動が、かえって主を追い詰めることになるかもしれないと思ったからだ。
 心だけは、永遠にルルーシュの騎士のつもりだったから、主を不利にすることだけはできなかった。
 ゼロの姿を映像で見たとき、それが主だと一目でわかった。
 そして、アシュフォード学園で、成長した主の姿を見つけたロイドは、ランスロットのために選んだ最高のパーツが、最悪な粗悪品であることに気がついた。
 主のためのナイトメアのパーツが、主を危機に陥れるなんて。
 ロイドの忠誠心はブリタニアにははじめから無い。
 この身は、ただひとりの愛しき皇子のもの。
 ならば、選ぶべきはただひとつ。


「やっぱり今日しかないよね」


「行くんですか?」


「うん。主は僕の全てだからね。セシルくんはどうするー? ラクシャータも向こうにいるらしいよぉ」


「どさくさに紛れて合流します。私にとっても、あの方は主ですから」


 12月5日。
 その日、特派からロイド・アスプルンドとセシル・クルーミーは特派から姿を消した。
 ナイトメア、ランスロットと共に。



 黒の騎士団アジトでは、小さくは無い騒ぎが起こっていた。
 白兜が急に近くに現れたからだ。
 もしや、急襲かとパニックに襲われた隊員もいたが、ゼロの一声で静かになった。
 白兜からは、奇妙な通信が届いており、それを聞いたゼロが、戦闘の用意は必要ないと言ったのだ。
 通信は、『7年前の約束を果たしに来ました。あなたの僕より』とあった。
 アジトの前に佇む白兜の前に、幹部やカレンの制止を振り切って、ゼロはひとりで対面していた。
 仮面に隠された内心はわからないが、ゼロは悠然と白兜に手を伸ばした。


「よくきたな。わが騎士よ」


「はーい。よくわかりましたねぇ。僕が僕だって」


 ゼロの呼びかけにも驚いた騎士団のメンバーだったが、白兜の中から出てきた軽そうなブリタニア人の姿を全員が胡散臭そうに凝視した。
 それにも気にせず、ふたりは会話を続ける。


「約束の日から2年過ぎたが、わざわざ今日やってきたのだ。お前しかいないと思っていた。お前だって、私が私だとわかっていたのだろう?」


「当然でーす。僕はあの出来損ないのパーツとは違いますから。はじめてゼロを見たときから、主だってすぐわかりましたよ。色々考えすぎちゃって来るのが遅れましたけど、約束の日に行くというのもロマンチックかなと思ったものですから。許してくださいねぇ」


「待たせたのは私のほうだ。お前はきっと、待っていてくれていると思っていた。だが、信じて裏切られるのは、もうたくさんだったんだ。私のほうこそ許してくれロイド」


 仮面の中で、きっと主は泣いている。
 ロイドは静かにゼロの手を取り、そっと口付けた。

作品名:最強のプレゼント 作家名:亜積史恵