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ゾンビが幻想郷入りした日

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その日は蒸し暑く、夏の太陽がさんさんと紅魔館を照らしつけていた。

 「お嬢様、少しだけ待っていて下さい。今すぐ日傘を
   とりつけますので・・」
 紅魔館にいる数多くの妖精メイドを束ねる、紅魔館ただ一人の人間、
 十六夜 咲夜はそこにいた。
 こんなに日が出ているのに、お嬢様はテラスに出たいというのだ。
 この暑さだから、きっとすぐお部屋に戻ってしまうだろうに・・・。
  まぁ仕方ない、すぐに時を止め、速攻日傘を持ってきて、日傘を
 テーブルに取りつけ、お茶とお菓子の用意をし、時を動かす。

  「さすがね、咲夜。・・・あぁ、パチェも呼んできてくれるかしら?
   あと・・そうね、今日は紅茶は冷たいのが良いわ。
   良いかしら?」
 さすがに行って戻ってきた後の注文が可哀想だと思ったのだろうか?
 真面目な顔をして聞いてくるお嬢様を見て少し笑ってしまった。

  「ちょっ・・?!何よ、・・・もういいわ! 
    私は部屋に戻るから後片付けでもしててよ。
    いいわね?」
 仕事が増えてしまった・・。仕方ないか。

  「それにしても、今日は本当に暑いわね・・。」
 時を止めて、さっきとまるっきり逆の事をする。ああ、そうだった、今日は
 フランお嬢様とお勉強する日だった。

  「う~ん、ちょっと鬱になってくるなぁ。あ、そこのあなた達、
   後片付けよろしく頼むわね。」
 私は喋っていた妖精メイドに後を頼んで、妹様のいる二階に向かった。

  「咲夜、ここ、もう一回読んでよ!早く~!」
  
  「フランお嬢様、もう3回目ですよ。続きを読みませんと・・
    このお話はいつまでたっても終われませんわ。」

  「んと~、炎は人魚姫の体をあっという間に舐めつくしてしまった!!
    あははっ、あはははははは!あはははははっ!!!!!」
フランお嬢様はいつの間にか手にレーヴァテインを構えていた。

  「フランお嬢様・・!おやめ下さい!」
 はぁ・・パチュリー様の本が、また一つ破壊されてしまった。
 すぐに時を止め、フランお嬢様を抱きしめた。こうすると、
 何故か暴走が止まるのだ。

  「・・・・・?咲夜?」
  
  「今日はもうおしまいです。ベッドの横におやつを用意しておきました。
    フランお嬢様の好きなマカロンですよ。
    では、御用があったらお呼び下さい。それでは・・」
 何か言いたげだったが、あれ以上いるとまた気が揺らいでしまう。
  さっさと退出することにした。

  「・・・・・・・・・・・・!?」
 部屋を出ると、一人の妖精メイドが私に向かって襲いかかってこようとして いた。
 
  「ひっ・・!?」
 青白い肌、まるで犬・・・オオカミのような歯。鋭い爪。
 妖精のくせに、かわいらしさはまるでゼロ。悪戯にしては出来が良すぎる。
 だが一応聞いてみることにした。

 「ねぇ貴方、それは何のイタズ・・・!??」
 私の首筋をロックオン。決まりだ、これは・・・・

 「ゾンビだかキョンシーしだか知らないけど、掃除も出来ないようなメイドはいらないのよ!くらえ・・・え?」
 いきなり目の前のヤツが消えた。前には誰もいない。ということは・・

 「フランお嬢様・・?」
 
 「咲夜、今の・・何?お化け・・・?ふっ飛ばしたけど・・ねぇ・・咲夜?」
 
 「いえ、私にもよく…分かりません。フランお嬢様はお姉さまの元へ行って下さい。何か・・嫌な予感がします・・」
 そういうなり私はすぐに博麗神社へ向かった。
 よく見ると里はもう気持ち悪い動きをするものばかりだ。
 私は急いだ。何かとんでもないことが起きている気がする。

 「霊夢!居るんでしょ、幻想郷が大変なことになっているのに、
  貴女、何をして……!??」

 「咲夜・・・・?ふふ、見てのとおりよ・・・う・・・」
 霊夢は座敷に激しく吐血しながら、そこにいた。血なまぐさい。
 「・・・紅魔館のメイドじゃない。いまさら何に驚けというのかしら?」
 いつものすかした顔だが、その目には、大量の涙があった。 
 「紫…?な、なな、なにが起きたの・・・?!」

 「・・・・・里を・・・・見た・・・?」
 聞いてはいけない。きっと、それは私の想像をはるかに超えるひどい物・・・!! 
 
 「宮古芳香の額の札の封印術が緩み、解けてしまった。 本来少し位知性は残るはずなんだけれど・・・・なぜか彼女は理性を失い、ただの人食いになった。そして・・それからは早かった。命蓮寺からすぐにここまで広がった。もう霊夢は・・・・」
 話についていけなかった。何故御札がはがれた? 何故紅魔館まで来た?
 何故、何故、何故、どうして……

 「どうして・・・こんなことに・・・・・・・?」
  
 意味のわからない物が心の中で渦巻き、精神を貶めてゆく。
 一つ、思い浮かぶことがあった。

 「お燐さんは?よく知らないけど、少しくらい死体の話が聞けるんじゃないの?」
 とにかく、解決に導ける手があるなら、何でもいいと思った。
 
 「死体の話が聞けるから何?喰らいつくのは本能で行われることなのよ?それに、相手を選ばずに襲いかかるし、・・・貴方の期待した言葉は私には返せないわ。」
 
 「じ・・じゃあ私たちはどうすればいいのよ!?」
 自分でも驚いた。こんなに声を荒げるのは初めてだった。

 「………咲夜、一つ…だけ…聞いて。」

 「れ、霊・・・夢・・・?!」

 「私…博麗の巫女は、…幻想郷でただ一人の存在。そして…は、博麗の巫女は、幻想郷のバランスを…生きているだけで保っているの。でも・・・私はもう・・・後一時間もしないうちに死んで…しまう・・。私が死ねば、決界は崩壊し、あっちの世界と繋がってしまう。人間を妖怪が襲ってしまう。あの生き物が人間を殺してしまう。そうしてはいけない…!!
咲夜、最後のお願いよ・・・」

 「・・・・・・・・・・・何・・・・?」
 
 「永遠亭に能力者を全員集めてちょうだい!人間の方は、・・・うう、いま藍と橙に集めさせてスキマの中に入らせてい…うぁっ!・・・・・・るから、急いで・・・・紫、頼むわね・・ああ、私もよ」

 「わかった。紫、永遠亭につないで!」

 「もうやっているわよ。咲夜、ついていくから紅魔館でも白玉楼でも好きなとこに行きなさい。」

 「…そうするわ」

 「霊夢、……さよなら」

 「………じゃあねなんて私らしくないわ……あんた達が戻るまで生きてるわよ」

 「………そう」

 森、湖、紅魔館、竹林、山、三途の河、白玉楼…巡り巡って、永遠亭についた。宮古芳香以外のほぼすべての能力者は揃った。

 「……咲夜」
 お嬢様が私を呼ぶ。

 「はい」

 「どこに行っていたの?心配したのよ…本当に。美鈴は…美鈴がぁ……!!!死んでしまった!!!!!あぁぁ・・・・!!!」

 「………お嬢様、悲しまないでください。美鈴は紅魔館を守りました。それ以上お嬢様が悲しまれると、きっと美鈴も悲しみますわ……。」
作品名:ゾンビが幻想郷入りした日 作家名:kurux2