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たとえばこんなハローウィン

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ルルーシュは疲れていた。
 今日はハロウィン。
 お祭り好きのミレイ会長の号令で、アッシュフォード学園では大規模な仮装大会が催された。
 ミレイの強い要望で、吸血鬼に扮したルルーシュは、会場の準備や大量のお菓子作り、教師に提出する書類作成と大忙しだった。
 バレンタインはまだいい。大量だが受け取るだけでいいのだから。
 しかし、ハロウィンはお菓子がないと本当にイタズラされてしまうのだ。
 特に学園一の美形生徒会副会長であるルルーシュは、男女共に大人気で、手作り菓子やイタズラ目当てで押しかける人数も半端ではない。
 それをすべて捌いて、ナナリーとささやかなハロウィンパーティーを共に過ごした後に、黒の騎士団のアジトにきたルルーシュことゼロは、ここもかと仮面の中で溜息を漏らした。


「どうしたゼロ?」


 C.C.が訊ねてくるのを、ルルーシュは無言で浮き足立った団員たちに顔を向けた。


「ああ、あれか。賑やかなことだが、たまにはいいんじゃないか。お前が指揮してやれば、やる気も上がると思うがな」


「お祭り騒ぎは、もうたくさんだ。今日は見逃すが、参加するのは断固として断る」


「もてる男は大変だな。だが一応お約束なんで言っておこうか、Trick or treat ゼロ?」


 にやにや笑いながらこっちを見るC.C.に、ルルーシュは渋々といった感じで懐からカボチャのクッキーの小袋を取り出した。


「やっぱり用意していたか。誰かその気になるかもしれないしな」


「私に対してそんなことを言う奴はお前ぐらいだ。だが念のためにな。イタズラで仮面を剥ごうとする奴はいないだろうが、お前がやりそうだと思ったんだ」


「失礼な男だな。私もやっていいか悪いかの区別ぐらいつくぞ。でも他にも言って来そうな相手がいるだろう」


 その言葉に首を傾げるゼロに、背後から小さな声がかけられた。


「ゼロ! Trick or treat!」


「たとえば、こいつとかな」


 C.C.が笑いながら指差した相手は、四聖剣の朝比奈だった。
 朝比奈は、気配を消してルルーシュの背後に立つと、にまにま笑いながら答えを待っていた。
 ルルーシュは正直本気で驚いた。
 お調子者なのは知っていたが、四聖剣はゼロに距離をとっていると思っていたからだ。
 まして、尊敬する藤堂が従うことを決めたからという理由とはいえ、リーダーにこんなことを言う相手だとは思わなかったのだ。


「正気か? 朝比奈」


「ひどいなゼロったら。これでも勇気を振り絞って言ったのに。それで、お菓子をくれるの? それともイタズラさせてくれるの?」


 どうやら本気で言っているらしい。
 ルルーシュはちょっとだけ途方にくれた。
 玉城あたりはまだ予想の範囲内だったが、朝比奈は眼中になかったからだ。
 イレギュラーに弱いルルーシュは、ちょっとあたふたとして、懐を探ったが、持ってきたはずのお菓子が無くなっていた。


(なんでだ。後二つは入れておいたはずなのに)


 ふと見ると、C.C.がお菓子の袋を3つ持っていた。


「お前、なんで……」


「気にするな。私はC.C.だからな。ということで、今ゼロはお菓子を持っていない。思う存分イタズラしてしまえ」


「ちょっと待て! 勝手なことを言うな! 朝比奈、お前も本気にするな!」


「少しぐらいいいじゃない。もちろん仮面をとったりしないからさ」


「じゃあ、何をするつもりなんだ」


 戦々恐々としながら、ルルーシュが朝比奈を見つめると、想像もしない答えが返ってきた。


「ちょっとだけ、ゼロを触らせてよ」


「はあ?」


 朝比奈が何を考えているのか、ルルーシュにはまったくわからなかった。
 だが、C.C.は何かを知っているようで、笑いながらふたりを引きずり出した。


「ここじゃあ不味いだろうから、ゼロの私室でやるといい。これが今日だけの特別サービスになるかどうかは、お前しだいだ。頑張れよ朝比奈」


「ありがとうC.C.! 今度ピザ奢るね」


「いい心がけだ。お前の気持ちが通じることを祈っておくよ」


 わけのわからないことをC.C.が言い出して、ルルーシュは軽くパニックになった。


「何を言っているんだ! 私はこんなお祭り騒ぎには参加しないぞ!」


「C.C.にはお菓子あげてたじゃない。お菓子が無いなら、おとなしく俺にイタズラされてよ」


 ついにゼロの私室に二人を放り込むと、C.C.はクッキーを頬張りながら出て行った。
 二人っきりになった途端、ルルーシュは開き直った。
 どうとでもなれと投げやりになっただけだったが。


「どういうつもりだ、朝比奈?」


 怒っているというより、戸惑っていルルーシュに、朝比奈はゼロの仮面をするりと撫でると、さっきとは打って変わって真面目な顔で囁いた。


「一度でいいから、ゼロのこと触らせて? ホントは何度でも触りたいけど、ゼロが嫌なら、仮面だけでも我慢するからさ」


「私を触って楽しいのか?」


 理解に苦しむと、ルルーシュは首をひねった。
 嫌われてるとは思わないが、敬遠されていると思っていたのに、何を考えているのだろうかこの男は。


「好きな相手は、男としては触りたいものじゃない?」


 何か変なことを聞いた様な気がする。
 ルルーシュはもう一度訊ねた。


「なんだって? お前が何を言っているのか、私には理解できないのだが」


「ああ、だからさ! 俺がゼロを好きだってこと!」


 好き。好きってどういう意味だっけ。
 ルルーシュは混乱した。


「お前は、変態なのか?」


「どうしてそうなるのさ!」


「だって、普通仮面の同性を好きにはならないだろう?」


「まあ、俺もそう思うけどさ。好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない」


 本気で叫ぶ朝比奈を見て、ルルーシュは少しだけ落ち着いた。
 そうか、なんだかわからないが、こいつは俺が好きなのか。
 同性に告白されるのは慣れているルルーシュは、状況が呑み込めると、冷静になってきた。


「朝比奈。それは一時の気の迷いだ。あとで後悔するからやめておけ」


「そんなこと、何度も考えたよ。だから、確かめるために触らせてって頼んでるんだよ」


 意味がよくわからない。
 わからないが、朝比奈が本気であることはわかった。
 仕方がないなと、ルルーシュは妥協することにした。


「わかった。少しだけなら、私に触ってもいい。変なところを触るなよ」


「本当に? やったー! 優しくするからね」


 仮面の男に言うには不適切な言葉が返ってきたが、こいつは変な奴なんだと認識したルルーシュは、その発言を流した。
 朝比奈の手は、まず仮面を何度も撫でてから、腕を触って、腰に触れた。
 腰を触ったとき、朝比奈はいきなり叫んだ。


「細っ! ゼロ、これ細すぎるよ。ちゃんと食べて寝てる? 女の子より細いよこれ!」


 コンプレックスを刺激されて、思わずルルーシュは朝比奈を蹴ってしまった。


「うるさい! 黙って触れ!」