瀬戸内小話1
はぜる
時折、唐突にこの男を殺したくなる。
自分勝ってな正義を振りかざし、その尺で人を計ろうとする。
貴様に我の何が分かるというのだ。分かった振りをして、偉そうに。
「……おい、毛利。殺気が出てるぜ?」
縁側で煙管をふかす鬼が、振り返りもせずに肩を竦めてみせる。
今、小刀でも投げつけてやれば、あっさり刺さって死んでしまいそうな広い背中。
「おっかねぇから、やめてくれ」
からりと笑う。でも、その背は晒されたままで。
信頼か、それともまたこの男の勝手な正義感の成れの果てか。
くしゃり紙を丸めると、小刀の変わりに投げつけてやった。