瀬戸内小話1
ひらりひらり
ひらりひらりと舞い落ちる。
それは花びらのような。
それは雪のような。
「真っ暗の闇の中でよ。俺の上に降って来るんだ」
寝転んだまま天井を見上げ、鬼は言う。
「……白くて、綺麗で、儚い。あれ、何だろうな。決して掴めやしねぇ。変な夢だ」
問いかけの形をしていても、答えなどあるはずもない。だから、応じてもらおうとも思っていない独り言。
なのに珍しく、部屋の主が振り返る。
「それで?」
続きを話せと促してくる。そんなたたいした話でもないのにと、鬼はちらりと男を見て、また天井を見る。
「俺のまわりに積もっていく。そんだけ」
「……そして、埋もれて窒息か?」
「かもしれねぇが、そんなヤバいもんには見えなかったぜ」
それは淡雪のようだから、風が吹けばまた舞い上がる。だから永遠に、己のまわりにひらりひらりと舞い続ける。
「……でも、何なんだろうな、あれはよ」
見ているだけで、胸が切なく締め付けられる。
「我にも、覚えがある」
文机に向い直し、筆を手に取り男は呟く。
「闇の中、白々とした冷たい雪のようなものが、我のまわりに降ってくる夢は」
たわいない会話だが、男がこうして自分の見た夢を語ることはめったとない。珍しいこともあるものだと、鬼は横へ寝転がって男の背を見る。
「それで?」
続きを促せば、たいしたこともないように返される。
「埋もれ死ぬ」
「……物騒だな」
大仰に言いのけてやれば、ふんと鼻で笑われた。
「本当に分からぬのか?」
「……だから、何の話だ」
頭のいい奴は、話をどうも端折がちだ。鬼が文句を言えば、やはりさらりと男は返した。
「白いそれは、我と貴様が殺した命よ」