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瀬戸内小話1

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可愛い



「……こいつは、いいもんだな」
 堺の商人達の中には、異国の品をより早く手に入れようとして土佐で張る者が幾人もいる。
 そういう商人達が運ぶ情報を求め、元親は港町の下屋敷に彼らをよく招いた。
 もとより人が好きでたまらない性格で、知らぬ話を聞くのは実に楽しい。
 元親の気さく過ぎる性格にほだされた商人も多く、商売は二の次に土佐へ来るものも増えた。そんな彼らがたまに持ってくる珍しい商品に元親は目を輝かせ、その反応に商人達もまた喜ぶ。
「面白い品でしょう? 元親様ならば贈る相手も多ございましょう。ひとつしかないので、喧嘩になるといけないのですが」
「言ってくれるぜ」
 からりと笑う鬼の手には、異国から持ち込まれた小さな布。透かしてみれば向こうが見える穴が幾つも開いているが、解れることはない。
「なに、しばらくは俺の目を楽しませてもらうさ」
「元親様は、見た目に似合わず美しく可愛らしいものがお好きですからね」
「悪かったな」
 商人は揃って口が悪い。軽く睨んで、大口を開け鬼は笑った。


「…………、それで、なぜ我に見せる?」
「綺麗なもんのお裾分けさ」
 珍しく吉田郡山城ではなく、瀬戸内海近くにある草津城に滞在している元就の下を、元親が尋ねたのはそれから1月も経たった頃。
「うちの女達にはみな見せた。だったら次はお前ん所だろう」
「……さっさと帰れ」
 至極当然とばかりに言う鬼に溜息を吐くと、元就は手を振る。
「おいおい、せっかく見せに来たっていうのに」
「貴様は馬鹿か」
 頭が痛いと脇息にもたれ掛かる。
「女が喜ぶ品を、我に見せるのは厭味か?」
「そんなんじゃねぇよ」
 閨で抱かれるのは女も元就も同じと言いたいのか、と暗に問えば、鬼はからりと笑う。
「ただ、俺が好きな物だから、好きな奴には見せてやりたいのさ」
「貴様は、本当に……」
 姿に似合わず、可愛いものが好きだなと、ぼそり、元就は呟いた。

作品名:瀬戸内小話1 作家名:架白ぐら