瀬戸内小話1
椿の花
生垣沿いに咲く赤と白の花々に、目を細める。
風流は嫌いではないが、特別に愛でようとは思わない。
それは時間の無駄であり、得になるものではないから、礼儀にかなう嗜み程度で十分。
それでも、この冬の季節、この花だけは愛でる気になる。
床の間に飾られた一輪の花に、おやと目を細める。
「アンタが花を飾らせるなんて、珍しいな」
多くの書物と文が並べられた座敷の奥で、赤い花はひっそりと咲き誇る。
毛利邸内で花はあちこちで見かけることがあっても、この主の部屋に花があることは稀だ。
「……その花は、嫌いではない」
「へぇ」
部屋の主は硯に向かったまま、事も無げに応える。
ものの好き嫌いを言うことなども、この男にしては珍しい。
筆を置くのを見計らい、腕を伸ばす。
「珍しいな」
「貴様は先ほどから、それしか言わぬ」
払う手を気にも止めず背ごと抱けば、好きにしろという意図の溜息が聞こえる。
「……なぜ、椿を?」
悪戯に耳朶を食んで聞けば、首を反らされた。
「武士ならば」
逃げる髪の隙間から、それは零れる。
「かくありたい」
受けるように、椿の花がぽとりと落ちた。