二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

あなたと会える、八月に。

INDEX|118ページ/159ページ|

次のページ前のページ
 

◆2

 大変なことになりましたね、とニュースを伝えた女が、隣に座る訳知り顔の男に言っている。
 そうですね、と男は頷く。カタルヘナ家は確かに主星有数の大貴族であり、広大な土地や財産、経営している、あるいは何らかの形で関わっている企業を多く抱えているけれど、その分、相当な負債を抱えていたようですからねと男は言う。
 ここ最近の彼は、と男は、今となっては故人となってしまったカタルヘナ家の主−−ロザリアの父について、たぶん直接会ったこともないだろうにまるで親しい友人であるかのように続ける。跡取りの娘と共に傾きかけた家を建て直しつつあったところでしたが、と。そこで意味ありげに顔を顰め、男は告げる。
 まだ二十歳の娘さんだそうですが。
 そんな若いお嬢さんに、いったい何ができるというんでしょうね。
 「……下衆<げす>ヤローが……!」
 「ゼフェル」
 思わず吐き出したゼフェルの悪態に、画面を見たままジュリアスが注意する−−酷く押し殺した声で。それなりに『長いつきあい』となったリュミエールとゼフェルは、その声だけでジュリアスが、たぶん二人よりも心底憤っていることを知る。もちろん、ゼフェルに対してではない。そして、この画面の向こうでぺらぺらと調子よくカタルヘナ家の『惨状』について語っている男にでもない−−人ではない、何かに対して激しく憤っている。
 そのとき、コンシュルジュにフロントからドアボーイの一人が手に通信装置を持って駆け寄ってきた。ドアボーイから何かを告げられるとコンシュルジュは、はっとしてその通信装置を受け取り、話し始めた。
 「……カタルヘナの……コラ様?」
 とたんにジュリアスが反応してコンシュルジュを見る。
 「……あ、はい。わかりました。キャンセルはお受けいたします。ご事情は……はい……はい、お悔やみ……申し上げます……あの」
 コンシュルジュがジュリアスに向かい、頷く。
 「はい、ジュリアス様は今、私の目の前にいらっしゃいます。替わります」
 そう言ってコンシュルジュは画面を操作するパネルと通信装置の両方を持ったまま、三人をロビーの隅のソファへ案内した。そしてパネルをゼフェルに、通信装置をジュリアスに渡すと一礼してそこから離れた。
 「……コラ」
 ジュリアスが声をかける。リュミエールとゼフェルの耳にも、コラの『ジュリアス様……っ!』と呼ぶ悲痛な声が通信装置を通して聞こえ、思わず二人とも目を閉じてしまった。そのようなことをしても声は否応なしに聞こえてくるし、ましてや事実が変えられる訳でもないものを。
 ただジュリアスだけが、画面に映るロザリアの父の、在りし日に撮影されたらしい映像を見つめている。
 その上に重ねている。
 ジュリアスからすれば、たった二週間前に見た、彼の笑顔を。



 「ご容赦ください……今年は海へ行けません」
 コラが告げる。
 「事情は今、知った」ジュリアスはなるべく何の感情も含めず続ける。「ロザリアはどうしている」
 「それは」
 「どうした、そこにはいないのか?」
 「いえ、あの」
 通信装置の向こうから、人の声が聞こえている。
 「誰かいるのか」
 「あ、はい、あの……もうすぐ葬儀……ですので……」
 小さく嘆息してジュリアスは言う。
 「ロザリアは葬儀の……準備で忙しいのだな」
 「は、はい、そうです、そうなんです。本当はジュリアス様と通信がつながれば替わりたいとおっしゃって」
 「……コラ」
 コラの早口の言葉を遮り、ジュリアスはあたかもそこにコラがいるかのように前を……画面を見据え、言う。
 「何故ロザリアが出られないのか、申してみよ」
 「ですから」
 「このような重要なことを私に直接話さないなどという……無礼なことをロザリアは決してしない」
 コラが絶句している。構わずジュリアスは続ける。
 「たった一言、二言で済むことであったとしても、事が事だ。ロザリア自身が私に知らせるのは当然だし、そのような礼節を弁えぬ娘ではない」
 そうジュリアスが言っている間にも、コラの背後で人の声−−怒号らしきものが聞こえてくる。
 「……申せ。あの声は何だ」
 そうジュリアスが言うなり、ごご……っと何かを被せるような−−たぶん手で集音部を覆ったらしい音がする。
 コラを気の毒に思う。
 けれど私は、事実を認識したい。
 「今、報道番組を見ている……良からぬ話をしている輩ばかりだが」
 息を呑む音がする。どうやら図星らしい。初めてジュリアスは、ニュース画面から目を伏せた。
 「ロザリアは、どうしているのだ」
 「……ジュリアスさまぁ……っ!」通信装置の向こう、とうとうコラは完全に涙声になってジュリアスの名を呼んだ。そして一気に小声になって言う。「債権者の方たちが先ほどから押しかけてきていて……」
 ロザリアはその対応に忙殺されて肝心の葬儀の準備もままならないと、コラは何度もむせながら言った。
 「……」
 一瞬、ジュリアスは考え込んだ後、コラに尋ねる。
 「葬儀の正客は大神官か」
 いきなり質問されてコラは詰まりつつも、そうです、と言った。
 「どこで、何時からだ」
 そうジュリアスが言うなり、リュミエールとゼフェルは顔を合わせる。ジュリアスがどうするつもりなのか、二人は察知したからだ。それどころか、リュミエールが声をかける間もなくゼフェルは、身を翻して先ほど来た道を取って返し、行ってしまった。
 「カタルヘナ家内の聖堂にて……あと二時間後……ですが?」
 ジュリアスは頷くと、きっぱりと告げる。
 「私も参列する」