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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆15

 残った一本の鍵を握るとロザリアは、同じくジュリアスを見つめながらそれを自分の胸に押し当てた。
 「明日……門を取り払うつもり……だったの」
 「……そうか、それなら」
 「いいえ」勢いよく首を横に振ってロザリアは、小さく叫ぶように言う。「やめる、やめるわ……! でも」
 「……でも?」
 少し困ったような表情になってロザリアは問う。
 本当は嬉しい……とても嬉しい……けれど。
 「そんなに聖地を抜けても……良いの?」
 首座の守護聖たる……あなたが。
 「八月のような、一日聖地を空けての休暇は取れぬから」ふっとジュリアスは笑う。「なかなかそなたの誕生日にぴたりと合わせて……という訳にはいくまい。そなたとて主としての仕事があるだろうし……だからまあ、この館で一週間ほど、か。それでも聖地では日中の半分にも満たない。それに」
 空を仰いでジュリアスは、ぽつりと言った。
 「女王陛下には……奏上済みだ」



 アンジェリークに……言った?
 もちろんロザリアは、ジュリアスの手前、そのようには言わなかった。
 「……陛下……に?」
 空を見たままジュリアスは頷いた。
 「喜ばれたぞ。喜ばれたと同時に……泣かれた」
 「……え?」
 「何故そなたを聖地へ呼ばないのかと泣きながら言われた」
 何か言おうとする、ロザリアの唇が震える。
 「『ロザリアが私に会いたくないから、二人は時の流れが異なるのに別れ別れで暮らすのか』とまで言われて往生した」
 「そ、そんな!」
 思わずジュリアスの肩をつかんでロザリアは抗議する。
 そんなことはない−−ああでも、十七歳の頃は確かにそうだった……けど。何もかも……アンジェリークは肯定され、わたくしは拒否されたと思ったあの頃は。
 でも今は。
 今は−−



 「わかっている」
 肩を掴まれた手の上に、自分の手を重ねてジュリアスは、ロザリアを見つめつつ言う。
 「そなたにはそなたの生き方があり、責任もある」
 目を伏せつつロザリアは、こくりと頷く。わたくしにはカタルヘナ家の主としての……それが聖地におけるさまざまな務めより重いか軽いかは関係なく。
 「私もそうだ。守護聖である限り、その職務を全うする。だから……私の全てをそなたに差し出すことはできない」
 苦笑してロザリアは頷く。
 ええ、わかっていてよ。
 もしも宇宙や……あるいは女王陛下に何かあれば、あなたはわたくしを置いて行ってしまうでしょう。あの、女王交替−−宇宙の移行のときのように。
 それでも。
 「それでも」ジュリアスは肩に重ねた手を外し、両手をロザリアに向けて広げる。「八月には海へ行く。そしてそなたの誕生日にはここへ来る」



 「わたくしも、そう」
 再び流れ落ちる涙をそのままに、ロザリアは言う。
 「わたくしも、あなたに全てはあげられない」
 もしも最初から全てをあなたに差し出せたのであれば、女王試験自体、辞退していた。けれどわたくしはそれを受けるために聖地へ行った。
 そして今はカタルヘナ家の主として、それなりに仕事をこなし、充実感もある。
 そういえば。
 あの海の小屋を買った話から、負債を完済したと言ったときのあなたの顔を思い出す。
 あのときあなたは、たぶん……初めてわたくしの失敗を……願った。十七歳のときは、きっぱりと聖地から送り出してくれたあなたが。
 けれど自分の、光の守護聖という職務を大切に思うのと同時に、わたくしの生き方も尊重してくれた。
 だから諦めた−−同じ時間に生きるということを。
 そう。あなたにはあなたの、わたくしにはわたくしの場所。
 しかも。
 「しかもわたくしはあなたを残し、やがて去ることになる」
 だけど。
 『ジュリアスでなければ嫌なの、ジュリアス以外は嫌なの』という言葉どおり−−



 広げられた腕の中へ飛び込むとロザリアは、ジュリアスより先にぎゅっとその躰を抱き締める。抱き締めて告げる。



 わたくしはあなたしか、愛さない。
 あなた以外の誰をも、わたくしの人生にかかずらわせない。



 だから、いいの。
 わたくしはとても幸せなの。
 だって、これまでも。
 そして、これからも。



 あなたと会える、八月に。





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