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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆11

 ゼフェルが運転し、リュミエール、そしてアンジェリークが乗ったエア・カーを、ジュリアスとロザリアは見送った。車体はあっという間に小さくなり、やがて青空と陽射しの光の中に溶け込んで見えなくなってしまった。



 ジュリアスに、最後のわがままを聞いてもらったの、とアンジェリークは言った。
 石のこともあったけれど、どうしてもあなたに会いたかった。
 会って話がしたかった。
 黙って飛空都市から−−私から去ってしまったあなたと。
 ロザリアに向かい、そう言ってアンジェリークはロザリアを見据える。
 「……女王候補ロザリア。試験をどうしますか?」
 そういうことか。
 わたくしは、中途半端に出てきてしまったということ−−
 ロザリアは理解する。理解して、アンジェリークの前で跪き、宣した。
 「わたくし……ロザリア・デ・カタルヘナは、女王試験を放棄いたします」
 そう言った自分の、何が変わったのかロザリアにはわからない。けれどアンジェリークは少し寂しげな顔をしてロザリアを見つめた。
 「もうあなたの声は聞こえないのね……」
 見つめてぽつりと呟いた。



 もう何も見えないのに空を見上げたままのジュリアスに、ロザリアもまた空を見上げて言う。
 「……寂しい?」
 「……違うと言えば嘘になる」ロザリアを見ずにジュリアスは答える。「私なりに、存在した場所だったから」
 「そう……でも」
 こつん、とジュリアスの脇腹を小突いてロザリアは、ちらりと睨みながら言う。
 「サクリアがなくなりつつあるってわかったのは、今ではないでしょう?」
 それはそのとおりらしい。空からゆっくりとロザリアの方を見て、ジュリアスは苦笑する。
 「……まあな」
 「どうして教えてくださらなかったの? そうしたらわたくし」
 八月以外の時を、切ない思いで過ごすこともなく−−
 「こればかりは、どの程度で消えるか私にもわからぬからな」ぽんぽんとロザリアの肩を軽く叩いた後それを抱いてジュリアスは続ける。「そなたにとっては一年後か、五年後か、十年後か……」
 「……それもそうね」
 納得したように頷くロザリアに、ジュリアスはぷっ、と吹き出して笑った。
 「まっ。笑うことはないと思うわ」
 「そうだな……」
 言われて素直に笑うのをやめるとジュリアスは、ロザリアを見る。
 「……相談に乗ってくれるな」
 「もちろん」微笑んでロザリアは頷いた。「とりあえず……休暇が終わったら、家へ帰りましょう」
 「家……か」
 ジュリアスが、噛み締めるように言う。
 「ええ、家よ」快活に言ってロザリアは躰を少し捻ると、真正面からジュリアスを見る。「わたくしの……そしてあなたの家」
 くす、とロザリアが笑う。
 「わたくしのエア・カーでね」
 「そなたが運転するのを見るのは心臓に悪いと言っているであろう」そう言ってジュリアスはロザリアを見る。「私が運転する」
 「え?」
 「これでもゼフェルから習っていたのだ。さすがに今日は陛下を乗せる訳にはいかないから、リュミエールと共に先に次元回廊や他の乗り物を使っていただいたが」
 ああそれで後から来たのかと思いつつロザリアは、心の中で少しだけ涙を流す。
 物心ついた頃からいた聖地から出て、この人なりにこれからのことを、いろいろ思っているのだろう。
 けれどその思いを押し隠してロザリアは、つんとジュリアスの胸を突き、呆れ顔になって言う。
 「あなたが運転する方がよほど恐くてよ。初心者は先達の側で学びなさい」
 「何を言……」かつてジュリアスが言ったことに引っ掛けたロザリアの言葉に文句を言いかけたもののジュリアスは、くっ、と笑う。「……まあ、いい。どのような腕前か見てやろう」
 「偉そうだこと」
 「悪かったな」
 笑ってそう言った唇が、ふと引き締まるように閉じられてロザリアを捉える。そしてそれは再び静かに開く。
 「ロザリア……よろしく頼む」
 「こちらこそ」
 そう答えたロザリアの、頬にジュリアスの手が添えられた。
 「もう……」顎を引き上げられながらロザリアは、呟くように言う。「八月にだけ会える人じゃ……ないのね」
 「……そうだ」
 ロザリアの唇にジュリアスの言葉が、その唇ごとゆっくりと降ってくる。



そうして八月だけでない時が、一斉に動き始める。





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