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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆10

 テントに入るとロザリアは、羽織ったシャツごと自分の躰をきゅっと抱き締めた。袖がすっぽりと腕を覆い、それどころか余ってしまっているし、裾は膝上あたりまである。大きなシャツだと思った。
 そして密かにロザリアは、このシャツを自分のものにしてしまおうと目論んでいた。そのような考え自体、まったくもってカタルヘナ家の娘らしくない。
 それでも。
 そそくさと、海岸へ着てきたブラウスとパレオを身につけ、しっかりとシャツを腕に掛けると、コラと共にゆっくりと戻ってきたジュリアスを出迎えた。ジュリアスは肩からタオルをかけていたけれど、胸元から腹にかけて素肌が見えていて、ロザリアは少しだけどきりとした。けれど濡れて脚にまとわりつく麻のパンツを気持ち悪そうに引っ張っては軽く振り、少しでも乾かそうと試みているかのような様子が可笑しくて、見咎められることのないように笑った。
 そうして、ロザリアがジュリアスの前に進み出ると、動きを止めてジュリアスもロザリアを見た。
 真っ直ぐジュリアスを見つめ、ロザリアは言った。
 「ご迷惑をおかけしました。そして……」
 深く頭を垂れる。
 「ありがとうございます」
 頭を上げてロザリアは、再びジュリアスの顔を見て息を呑んだ。
 今までも確かに笑顔は何度か見たことがある。どれほど厳しいことを言っても、この笑顔ひとつで一瞬不満に思ったことが霧散する。
 けれど今日のそれは破格の威力をもってロザリアを魅了した。
 「私は、そなたの役に立つことができたのだな?」
 ……本人はおおよそ気付いていないようだが。それにしても「役に立った」とは、なんて変わった言い方をするのだろうとロザリアは思った。
 ジュリアスは笑ったままロザリアの頭をぽんぽん、と軽く叩いた。
 「潔いな、ロザリアは。偉いぞ」
 虚を衝かれた。
 ふだんなら子ども扱いはしないで、とすぐに叫びたくなるようなやり方だった。なのに今、とてもそれが……嬉しかった。
 そしてふと、いつだったか、同じように感じたことを思い出す。
 妙な既視感。
 複雑そうな表情になっていたのだろう、ジュリアスはくく、と笑うと「子ども扱いは不愉快か?」と言った。
 その表情までもが、いつかどこかで。
 「行きます」
 思い出せないので、とりあえずツンとした振りをしてみせてロザリアは、テントを出た。歩きながらロザリアは、ふと思い出して、明後日の夕食は何が食べたいかとジュリアスに聞いた。
 「今回はわたくしがお招きするのだから、お尋ねしておかなくてはね」
 そう、明後日はジュリアスの誕生日。八月十六日だ。
 「そのような先のことより、今日の夕食の方が気になるが」後ろから笑いを含んだ声がする。「すっかり空腹になった」
 「まあ!」
 くすくすと笑ってロザリアは海岸からホテルへ戻る道を行く。記憶の欠片を掴みきれないままロザリアは、しかしそれを放置することにした。そんな昔のことは構わない。今。そしてこれからが大事だ。
 ええ。そう。
 わたくしは、ジュリアスが好きなのよ。
 心底ロザリアはそう思った。
 大好き。
 だから来年も次も、その次の年も、ずっとジュリアスのお誕生日は祝い続ける、と。