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飛空都市の八月
飛空都市の八月
novelistID. 28776
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あなたと会える、八月に。

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◆3

 そうして私は昨日この海岸にやってきた。確かに聖地でそれほど時間を費やさないから、この休暇の過ごし方はある意味私向きのやり方と言えた。ただ、私が聖地の外で休暇を取ることは伏せられた。他の守護聖たちの、格好の聖地抜け出しの口実になってしまうからだ。まあ、土の曜日のほんの少しの時間に不在であるだけだし、各々自由に休みの日を過ごしているから、気付かれることはあるまい。
 海というもの自体、初めて見るというわけではない。とはいえ、視察で海のある地へ行ったときには遠目に眺めるだけで、波打ち際にまで行ったことがなかったから、波の打ち寄せる様子が実に不思議に思えた。単調な動きと音を伴い、寄せては返すのみなのに、何故か見ていて飽きることはなかった。それにしても……靴に砂が入って往生したので、その後は近寄らず、まだこの舗装された道から見るのみだ。それでもこの潮風に吹かれていると、夜は髪がべたついて困ったものの清々しい気持ちになった。
 まだ一日しか過ごしていないが、ホテルはなかなか快適であった。
 ホテルの者が私の正体を知っているかどうか、私はあえて聞かなかった。ディアは毎年八月の一ヶ月を手配済みと言った。だから聖地での隔週土の曜日のいつに行ってもそれなりにホテルで過ごせるのだとも。
 そのような無駄なことを、と私は言ったが、ディアは静かに首を横に振り、言った。
 「女王陛下も私も、あなたのことを大切に思っていますから」と。
 私が疲れているとでも言いたいのか?
 そのようなことなど、決してないのに。
 翌日−−つまり今日、私は街を歩いてみることにした。目的なしに歩くという行為をしたことがないので、そのとりとめのなさに私は戸惑い、少し疲れた。道行く人々は皆、家族や知り合い−−恋人同士、とでも言うのか?−−であり、もちろん私のように一人で行く者もいたが、それにしてものんびりと歩くこと自体を楽しんでいるようで、私みたく、何かしなければならないといつも思っているような者には真似ができないような気がして、気が重くなりつつあった。
 そのようなときに、あの少女を見かけた。
 一度目はそれほど気に掛けたわけではない。青紫色の巻き毛が柔らかそうだと、ふと目に止めたぐらいだ。
 二度目は小さいのに一人でいるのだな、と思った。
 そして、三度目。