あなたと会える、八月に。
「そなたの側仕えからは止められたのだがな」
リュミエールの方を見てジュリアスは、二人の驚愕に構わず、手に持っていた巻紙−−楽譜を出してみせた。
「たぶん……ピアノの譜面だと思うのだが」
「……はあ」あまりの唐突さに返って落ち着いたのか、リュミエールは素直に覗き込んで頷いた。「そのようですが……」
「これを手っ取り早く一ヶ月で弾けるようになるには、どのようにすれば良い?」
「一ヶ月……ですか?」
「一ヶ月……だと?」
先にぴん、と来たのはゼフェルだった。
「そういえば今日……あんたの」
微かにジュリアスは、片方の口角を上げてみせる。
「……今度『八月に会える』ときまでの宿題らしい」
ゼフェルが何か言おうとした瞬間、横でリュミエールが小さく叫んだ。
「泳ぎだけでなく……ピアノも、ですか?」
「そうなのだ、リュミエール。あの『子ども』には、ほとほと手を焼く」
「……どういうことだ?」
そう言ってゼフェルがジュリアスとリュミエールを交互に見る。
「あの……?」
リュミエールもまた、ジュリアスとゼフェルを見る。
そして、二人は一斉にジュリアスを見た。
「……そなたたちには……本当に感謝している……」
苦笑しながら、ジュリアスが言った。
作品名:あなたと会える、八月に。 作家名:飛空都市の八月