Wizard//Magica Infinity −5−
あれは、今と同じ…初夏の出来事だった。
セミの泣き声、川のせせらぎ、
夏の始まりだった。
「今日も暑いな…外に出たくない」
築数十年が過ぎた民家の窓際に白いワンピースを着た少女が無限に降り注ぐ日光の下から逃れるように屋根の下でくつろいでいた。
−コヨミ~たまには外に出て皆と遊んできなさい−
「やだ。友達とは学校で遊んでいるし、休日ぐらい家でじっとしていたい」
そう、その少女こそが私だ。
この時の私は何の変哲もない、ただの少女だった。
皆と同じように学校に登校して、皆と同じように休日を過ごす。
そしてこの面影村で一生を過ごすのだなと、夢と希望も持たずただ平凡な毎日を満喫していた。
家の奥から聞こえてくる母親の声。
外に出て遊んでこいと何度も私を急かそうとする。
だけど私は昔から暑いのは嫌いだった。
自分からは外に出て行きたくはない。
−コヨミちゃ~ん、あ~そ~ぼ!−
「あっ…」
−ほら、友達も誘ってるみたいだし、外に出て遊んでいきなさい!−
その時には、私にも友人と呼べる親しい仲が存在した。
誘われたのなら断る訳にはいかない。
私は若干暑いのを我慢して麦わら帽子をかぶり数人の友達と一緒に外を駆け回るのであった。
−−−面影村は昔から変わらない。
見慣れた田園、何度も出会った村人、変わらない風景。
長い年月をかけてもこの光景は全く変わらない。
私は友達と一緒に田園を駆け回る。
特に理由は無い。
ただ、無邪気に走り周るのが楽しかった。
時には田んぼの中に入り泥だらけになったり、時には川に遊びにいってザリガニや魚を取り、広大に広がる花畑で冠を作ってみたりする。
もちろん、都会にあるようなコンビニ等の施設は一切無い。
それでも私達はこの生活に充実していた。
都会と違ってこの村には人と人とのしがらみなんてものは無い。
通りがかった人は皆知り合い。
ばったり合えば世間話がはじまる。この村ではごく当たり前な事。
村で行われるイベントも各々が一致団結して全力で取り掛かる。
携帯もないから何か用事があればその人の元へと直接出向く。
この面影村は、人と人との繋がり合いから生まれた村なんだ。
だから私はこの村が好き。
一生ここで過ごしたって構わない。
人間関係が薄い都会なんて行きたくない。
そんなところに行くことになるなら、私は意地でもこの村を出ていかない。
そう…私は子供だった。
それが…当時の「16才」の私。
−あれ…あの人達誰だろう。この村じゃ見かけないね−
−外の街からきたのかな?−
「うん…そうだと思う」
だけど、世界は今のままではいられない。
変わり続ける…それが、私が望んだ事とは正反対だとしても−−−。
−−−全ては、見慣れない人達がこの村に押し寄せた事から始まった。
「面影村が…ダムの下に…?」
−ダム開発計画?ふざけるなっ!!−
−私達の村はどうなっちゃうのよ!?−
−あんたら役所の人間は、俺達がこの住み慣れた村から出てけっていうのか!!−
3~4人の大人が、村の役場出張所に訪れた。
この村では全く合わない高級そうなスーツ。手元にはスケジュール帳やらパソコン。
全てが新鮮だった。
気になった私はその人達の後を追う。
だけど、この行動は間違いだった。
たまたま、役場出張所での大人達の会話を私は聞いてしまった。
それは…私にとって死刑宣告のようなものだった。
『ダム開発計画』
計画の内容は至ってシンプル。
丁度、山に囲まれたこの面影村を開発しダムを作る。
このご時勢だ。減り続ける水資源の確保が目的なのだろう。
つまり、このスーツを着た大人達は、県庁から送られてきた人間なのだ。
目的は…想像通り。
この村に住む住人は面影村からの立退きの令が県庁から出されたのだ。
「そんな…面影村…無くなっちゃうの?」
大好きなこの村。
なのに…大人達の都合で私の幸せが無くなってしまう。
嫌だ…それだけは絶対嫌だ。
絶対にダム開発計画を阻止しなくては…!
−奴ら…俺達を邪魔者扱いしやがって…−
−都知事は私達の意見も聞かないで承諾したのね…選挙の時あれだけ応援したのに…−
その日の晩、村では緊急集会が行われた。
場所は学校の会議室。
集まったのは全村人達。
その中には私もいた。
私だって同じだ。このままでいられるわけがない。
私も抵抗したかった。
この村がなくなっちゃうなんて…絶対に嫌だ。
−反対運動だ!それか署名活動を…−
−そんなことしたって…都会の人間はこんな辺境の村の事、誰もかばってなんかくれないべ−
−じゃあ俺達のふるさとはどうなるんだよ!このまま奴らにしたがえってか!?−
「抵抗しよう!村の入口にバリケード張って、資材の運搬を邪魔するの!」
−コヨミちゃん…−
「あと、都庁に入って直接抗議!あいつらだって私達に何の連絡無しに勝手に決めたんだ!殴り込みする覚悟で戦わないと!」
−…そうだ、コヨミちゃんの言うとおりだ!−
−誰も助けてくれないんだ!俺達でこの村を守ろう!!−
私の声と共に村の人達の士気が高まった。
皆、考えていることは同じだ。
この村はダムになんてさせない。
私達が守るんだ!!
それから私達の戦いが始まった。
「ダム開発計画反対!!!!」
−はんた~いっ!!−
−お前達!これは市からだけではなく、都庁からの令も出ているんだ!!−
−あんたらに拒否権は無い!−
−拒否権は無い!?ふざけるな!!−
−勝手に決めたくせに、ふざけたこと言わないで!!−
「私達の村を壊さないで!!この人でなし!!」
私達の意見も聞かずに次々にダムの資材が村へと運ばれようとする。
村人は徹夜で村の入口にバリケードを張り運搬を妨害する。
その前に私達は「開発反対」と書かれた看板を持ち開発業者と格闘していた。
次々とあちこちから聞こえてくる罵声。
今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな勢いだ。
何日も何日も業者との戦いが続いた。
雨の日も、風の日も…それでも私達は止まることがなかった。
−この場所のダム開発計画は既に都庁の承認を得ている!君たちは今すぐここから退かなくてはいけない!!−
−これ以上抵抗するというのなら武力を持って行使する!!−
−やつら…警察呼びやがった!!−
−卑怯者!!自分達じゃなにもできないからって力でなんとかしようだなんて!!−
「け…警察…でもっ!!」
次第に、反対運動の規模は大きくなった。村人を手に負えなくなった開発を受け持った業者は警察を呼び、無理やり村の中へ入ろうとしてきた。
業者はともかく、警察と真っ向勝負となれば誰もが結果は見えていた…。
だけど私たちは一歩も後ろへ引くことなく、対抗するのであった。
それから何週間経っただろうか…一日中声を上げ続け、寝る食べるを最小限に抑えた結果、私達村人の活気は次第に薄くなっていった。人間にも限界というものがある。するとどうだろうか…この反対運動に無意味と感じた村人がぼちぼちと現れ初め、自ら引越しの準備をする家庭が増えていった。最初は村の入口に座る場所が無い程埋め尽くされていた人の姿は次第に無くなり、反対運動をするのは極数人だけとなってしまった。
作品名:Wizard//Magica Infinity −5− 作家名:a-o-w