Wizard//Magica Infinity −5−
なんで?
私達の故郷が奪われるんだよ?
どうしてそんな簡単に諦められるの?
「はぁっ…はぁっ…ダム開発!はんた~っい!!」
−コヨミちゃん…−
「げほっ…ダム開発!」
−もう…諦めようよ…−
「っ!!…そ、そんな!おじさん!!最初はあんなに反対してたのにっ!!」
−でもコヨミちゃん…これは、運命だったのかもしれないよ…−
「…っ!!…運…命?」
おじさんの口から出た『運命』という言葉。
この言葉がどれほど私の心に突き刺さっただろうか。
ふざけるな…と感じた。
そんな運命…わたしは絶対受け入れられない!!
−コヨミちゃん…悔しいけど、これがこの村の運命だというのなら…俺達は受け入れなければ…−
「運命!!?ふざけないでよ!!」
−っ!?コヨミちゃん?−
「そんな運命…私は信じられない!!」
運命って…私の知っている運命はこんな辛いことじゃない。
運命は自分で決めるものなんだ。
他人に強要されたことが運命だなんて信じられない。
私はその場を後にし、走った。
どこに走ったのかは覚えていない。
気付けば周りは木々だらけ…森の中へと入っていた。
ただ、目の前の現実から逃げたかった。
木から伸びた枝が私の腕や足を切り刻む。
心臓が破烈するかのように心拍数を上げる、肺に空気が足らず激痛が走る。
「あっ…」
ついに木の幹に足を引っ掛け大きな音を立てて激しく転んでしまった。
「痛た……うっ…くぅ…」
今まで溜めるに溜め込んでいた感情が涙となり私の目に溜まり始める。
それが限界へと達した時、涙は止まることなく流れ続けた。
ぶつけようのない怒りと悲しみがこみ上げる。
私は何度も地面を叩き、大声を上げた。
嫌だ…もう嫌だ。
こんな事で、私の幸せが無くなっていくんだ…。
なにもかも…この、美しい自然も…慣れ親しんだ村の人達も…
私の…なにもかもが…。
−君のその願いは奇跡に値するものなのかい?−
「え…?」
ふと、頭上から可愛らしい声が聞こえてくる。
−君のその想いは、全ての現実を凌駕するものだとしたら…君は何を願う?−
私はいつの間にか泣き止んでいた。
地面に這いつくばっていた私は頭だけ上げ、その声が聞こえてきた方向を見つめる。
太陽の光と重なり、その『なにか』がよく見えない。
白い可愛らしい…生物に見えた。
−僕は君の願いを一つだけ聞いて、それを現実にすることができる…どうだい?君は一体何を望むんだい?−
「私…は…」
私は、何故気付かなかったのだろう。
目の前に起こっている。不可思議を。
「私…私はっ…!!」
そんな都合の良い話なんてあるわけなかった。
だけど、全てに限界を迎えていた私はそのなにかに賭けるしかなかったのだ。
−言ってごらん…君の願いを−
「私は…!」
そう…全ては子供だった私の罪だ。
運命とは…まさにこの事を言うのだろう。
運命とは『奇跡』であり…『残酷』だ。
「私はっ…この村が大好き!!いつまでも…いつまでもこの村の風景が変わらないっ!!この時間がずっと続いてほしいっ!!!!」
それが、私がインキュベーターに祈った願い。
この時、この言葉と共に…
私の何もかもが…止まってしまった。
「…はっ!」
目を覚ますと、そこには見慣れた天井が映った。
私の部屋だ。
確かあのあと…私は力尽きて…誰かに運ばれたのかな?いつも寝るときに着るパジャマになっている。
私は今だに混乱する頭のまま普段着に着替えようとクローゼットの目の前に立った。
−カタッ−
「何か落ちた…?…なに、これ」
クローゼットを開けようとしたとき、自分の身体から綺麗な水晶の塊のようなものが落ちた。紅色に光輝く…とても綺麗だった。
そのまま普段着へと着替え茶の間へと出る。普段ならお母さんがいるのに何故か居なかった。買い出しに行ったのかな?
家を出て村を見渡す。
だけどどこにも人影が見当たらない。
普段なら自分の畑を手入れをするおじいさんが何処かに居るのだが今日は珍しく誰も外に出てないみたいだ。
気味悪がった私はこの村で一番人が集まるであろう役場出張所へと出向いた。
するとどうだろうか…沢山の人が何か騒いでいるようにみえる。
けど何故だろうか、騒いでいる…と言うよりは何かを喜んでいるように見えた。
私はそこに近づき、状況を確認する。するとその人ごみの中に最後の最後まで粘っていたおじさんの姿が目に映った。
「おじさん、なにかあったの?」
−あぁ!コヨミちゃんかい?良かった!目を覚ましたんだね?−
「う、うん。ねぇおじさん、何かあったの?みんなは何をそんなに喜んでいるの?」
−あぁそうか、コヨミちゃんは寝てたから知らなかったんだね!−
「…え?」
−ついさっき、この村のダム開発計画が中止になったんだよ!!ダムは別の場所に建てることに決まったんだ!!この村は救われたんだよ!!−
「…ッ!!」
願いが…届いた。
本当に…夢じゃないだろうか?
ダム開発中止への動機はよくわからなかった。
けど…きっとこれは奇跡だ。
私の願いは、本当に届いたんだ!!
私は喜んだ。
やっと…救われた。
努力が報われた。
やっぱり、運命なんて他人が決めることじゃない。
自分で切り開くものだったんだ!
そして…一時の幸せが戻ってきた。
けど…
私の本当の運命は、既に決まっていた。
決められてしまった。
幸せは、長くは続かなかった。
本当の『絶望』は始まったばかりだった。
作品名:Wizard//Magica Infinity −5− 作家名:a-o-w