FATE×Dies Irae3話―2
「どういうことだよ、一体!?」
士郎は声を荒げて問い質す。
昼休みの屋上は閑散としていた。
この寒空だ。
わざわざ好き好んで屋外で食事をとろうなどという奇特な輩は、少なくともこの学園にはいないらしい。
今ここにいるのは、彼と司狼、そしてセイバーの三人だけだった。
「? 申し訳ありません士郎。質問の意味がよく分からないのですが」
「そうだぜ大将。何の説明もなしにこんなところに連れてきたと思ったら、何だよいきなり? 話が見えねえよ」
訝しげに眉を寄せるセイバー。どうやら士郎の憤慨の理由が、本気で分かっていないらしい。
一方の司狼はと言えば、にやついた笑みを隠そうともせずに、あからさまにとぼけてみせる。
「だから! 何でうちの学校に転入してきたのかを訊いてるんだ!」
「おう、そのことか! いいアイデアだろ? これなら学校にいる間、ごく自然に、誰にも不審がられることなく、セイバーもお前の護衛を務められる。しかもお前がマスターだってことも気取られねえ」
「遊佐の言うとおりです。実に理にかなっている。それが何か問題でも?」
「うっ……! 確かに司狼の言うことはもっともだけど、でも、それにしたってどうして俺に一言の相談も無いんだよ?」
セイバーはバツ悪そうに咳払いをし、
「申し訳ありません。私も士郎にはあらかじめ話しておくべきだとは思ったのですが、遊佐がどうしても秘密にしておきたいと言ってきかなかったものでして……」
「当然。こちとら色々骨を折ったんだ。これくらいのお楽しみがあってもバチはあたんねえだろ? いやー、お前の間抜け顔っつったらマジ傑作だったぜ」
「……段取りをすべて任せきりにした手前、極力彼の意向は尊重するべきかと愚考した次第です」
「妙なところで律儀だよな、セイバーって……」
士郎はぐったりと肩を落とす。
「おいおい、何シケた面してんだよ? そう不貞腐れなさんなって。今朝のサプライズにゃ、たしかにお前をからかおうって意図もあったけどよ、それと同じくらい、喜ばせようとも思って気を利かせてやったんだぜ」
「気を利かせた?」
「おうよ。ほれ」
司狼は馴れ馴れしくこちらの肩に腕を回し、ひそひそと耳打ちする。
視線で示されたその先には、訝り顔のセイバーの姿。
そこでようやく、司狼の言わんとしていることを悟る。
動揺ばかりが先に立って今までちっとも意識していなかったが、何と言うか、その……
「男のロマンだよなー、制服姿ってのはよ。セーラー服も悪かねえが、これ(ブレザー)はこれでそそるよな? まあ色気に欠けるのが玉に瑕だがよ」
しみじみと、司狼。
「……発言が親父くさいぞ、お前」
「そうかい? ま、しゃーねえだろ。見た目こんなだが、実年齢はもう中年だしよ。つーか話逸らしてんじゃねえよ。ほれ、感想は?」
「うっ……! ま、まあ役得としては十二分だとは思う」
「だろ?」
「? どうしたのです、二人でひそひそと。私の立ち居振る舞いに何かおかしなところでもありますか?」
「い、いや! 何でもないんだ、セイバー! ところで遅いなー、遠坂の奴! 自分からこんなところに呼び出しておいて!」
昼休みに屋上で。
今朝、別れ際に凛にそう言われたのだ。と、
「ごめーん。お待たせ」
噂をすれば、とばかりに、凛が姿を現す。
その瞳が、司狼とセイバーに向けられる。
「あら、二人もいたんだ。ふーん……その制服(かっこう)。もしかしたらとは思ってたけど、噂の転校生ってやっぱりあんたたちのことだったんだ。なるほど、うまいこと考えたわね。ねえねえ、せっかくだからあんたも二人に倣ってみない、アーチャー?」
「笑えない冗談はやめてくれ、凛。第一、セイバーと違い私にその必要はあるまい」
どこからともなく聞こえてきたその声は、霊体姿で凛の傍らに侍るアーチャーのものだった。
「あら、つれないわねー。何も生徒をやれなんて言わないわよ。あんたって割とスーツとか似合いそうだし、教師役なんてどうかしら?」
辟易と溜息をつくアーチャー。
「無駄話はそれぐらいにしたまえ、凛。昼休みもそう長くはない。早く本題に入らないと、午後の授業が始まってしまうぞ」
「はいはい、分かってるわよ。……三人とも、お昼はもう食べた?」
「いや、俺たちもちょうど今来たところだったから」
「つーか、俺とセイバーに至ってはこいつに無理やり連れ出されたもんだから、飯、教室に置きっぱなんだけど」
「今から取りに戻ってたらそれこそ時間が無くなっちゃうわ。あんたとセイバーには、私と士郎が分けてあげる。それでいいわよね、士郎?」
「ああ」
食事をとるべく、唯一のベンチにぎゅうぎゅうで腰掛ける。
士郎は手製の弁当を広げ、凛は購買のサンドイッチの封を開ける。
「? 何よ遊佐? そんなにじろじろ見なくったって、ちゃんと分けてあげるわよ」
「ばーか。別にがっついてるわけじゃねえよ。……ただ、ここのサンドイッチはまともなんだなと思ってな」
「はっ?」
「ああ、いい。こっちの話だ。ちょいと学生時代を思い出した。それだけのことだ」
「それで遠坂。わざわざこんなところに集まって、一体何を話しあうって言うんだ?」
聖杯戦争や黒円卓についてなら、すでにさんざん屋敷で話し合ったはずだ。
「何って、そんなの決まってるじゃない。この結界について、よ」
言って、ぴんと上を指差す凛。
「結界?」
「……なるほど。多分そうだろうなとは思ってたけど、士郎、やっぱり気づいてなかったのね」
「簡潔に説明するとだ。今この学校にゃ、発動したが最後、人の精気を根こそぎ絞りとっちまうようなえげつねえ結界が、何者かによって仕掛けられてるんだよ」
「なっ……!?」
ぎょっと目を剥く士郎。
事態に気づいていなかったのは、どうやら自分だけらしい。
隣席のセイバーは落ち着いた様子で疑問を口にする。
「問題は結界を仕掛けた者の正体です。タイミングから言えば、サーバント、あるいは黒円卓のどちらかだとは思いますが……」
「確かに、黒円卓にも似たような芸をもった奴はいたがそいつじゃねえ。もっとも、カール・クラフトの息のかかった何者か、って可能性は捨てきれねえがな」
「ただ、そう考えるよりはサーバントの仕業と見るほうが妥当でしょうね。何せこの学校には、私たちを除いても、少なくとも一人のマスターと、二人の魔術師が籍を置いてるんだから」
「!? そうなのか遠坂!?」
凛はこくりと頷き、
「魔術師は魔力の有無で判別できるから、見分けるのはそう難しくないわ。だから、以前から二人ほどこの学校にまぎれているのは知ってたの。
マスターについては、向こうから接触してきたから間違いないわ」
「接触? 一体いつの間に?」
咎めるような声音で、セイバー。
「そんな怖い顔しないでよ、セイバー。別に内緒にしてたわけじゃないわ。接触してきたのはついさっき。昼休みが始まってすぐよ」
「なるほど、遅刻の理由はそれか」
「そういうこと」
「それでそいつは、遠坂に一体何の用だったんだ?」
「同盟を申し込まれたわ。けど断った」
「ほう。そいつはまた、どうして?」
司狼の疑問はもっともだった。
士郎は声を荒げて問い質す。
昼休みの屋上は閑散としていた。
この寒空だ。
わざわざ好き好んで屋外で食事をとろうなどという奇特な輩は、少なくともこの学園にはいないらしい。
今ここにいるのは、彼と司狼、そしてセイバーの三人だけだった。
「? 申し訳ありません士郎。質問の意味がよく分からないのですが」
「そうだぜ大将。何の説明もなしにこんなところに連れてきたと思ったら、何だよいきなり? 話が見えねえよ」
訝しげに眉を寄せるセイバー。どうやら士郎の憤慨の理由が、本気で分かっていないらしい。
一方の司狼はと言えば、にやついた笑みを隠そうともせずに、あからさまにとぼけてみせる。
「だから! 何でうちの学校に転入してきたのかを訊いてるんだ!」
「おう、そのことか! いいアイデアだろ? これなら学校にいる間、ごく自然に、誰にも不審がられることなく、セイバーもお前の護衛を務められる。しかもお前がマスターだってことも気取られねえ」
「遊佐の言うとおりです。実に理にかなっている。それが何か問題でも?」
「うっ……! 確かに司狼の言うことはもっともだけど、でも、それにしたってどうして俺に一言の相談も無いんだよ?」
セイバーはバツ悪そうに咳払いをし、
「申し訳ありません。私も士郎にはあらかじめ話しておくべきだとは思ったのですが、遊佐がどうしても秘密にしておきたいと言ってきかなかったものでして……」
「当然。こちとら色々骨を折ったんだ。これくらいのお楽しみがあってもバチはあたんねえだろ? いやー、お前の間抜け顔っつったらマジ傑作だったぜ」
「……段取りをすべて任せきりにした手前、極力彼の意向は尊重するべきかと愚考した次第です」
「妙なところで律儀だよな、セイバーって……」
士郎はぐったりと肩を落とす。
「おいおい、何シケた面してんだよ? そう不貞腐れなさんなって。今朝のサプライズにゃ、たしかにお前をからかおうって意図もあったけどよ、それと同じくらい、喜ばせようとも思って気を利かせてやったんだぜ」
「気を利かせた?」
「おうよ。ほれ」
司狼は馴れ馴れしくこちらの肩に腕を回し、ひそひそと耳打ちする。
視線で示されたその先には、訝り顔のセイバーの姿。
そこでようやく、司狼の言わんとしていることを悟る。
動揺ばかりが先に立って今までちっとも意識していなかったが、何と言うか、その……
「男のロマンだよなー、制服姿ってのはよ。セーラー服も悪かねえが、これ(ブレザー)はこれでそそるよな? まあ色気に欠けるのが玉に瑕だがよ」
しみじみと、司狼。
「……発言が親父くさいぞ、お前」
「そうかい? ま、しゃーねえだろ。見た目こんなだが、実年齢はもう中年だしよ。つーか話逸らしてんじゃねえよ。ほれ、感想は?」
「うっ……! ま、まあ役得としては十二分だとは思う」
「だろ?」
「? どうしたのです、二人でひそひそと。私の立ち居振る舞いに何かおかしなところでもありますか?」
「い、いや! 何でもないんだ、セイバー! ところで遅いなー、遠坂の奴! 自分からこんなところに呼び出しておいて!」
昼休みに屋上で。
今朝、別れ際に凛にそう言われたのだ。と、
「ごめーん。お待たせ」
噂をすれば、とばかりに、凛が姿を現す。
その瞳が、司狼とセイバーに向けられる。
「あら、二人もいたんだ。ふーん……その制服(かっこう)。もしかしたらとは思ってたけど、噂の転校生ってやっぱりあんたたちのことだったんだ。なるほど、うまいこと考えたわね。ねえねえ、せっかくだからあんたも二人に倣ってみない、アーチャー?」
「笑えない冗談はやめてくれ、凛。第一、セイバーと違い私にその必要はあるまい」
どこからともなく聞こえてきたその声は、霊体姿で凛の傍らに侍るアーチャーのものだった。
「あら、つれないわねー。何も生徒をやれなんて言わないわよ。あんたって割とスーツとか似合いそうだし、教師役なんてどうかしら?」
辟易と溜息をつくアーチャー。
「無駄話はそれぐらいにしたまえ、凛。昼休みもそう長くはない。早く本題に入らないと、午後の授業が始まってしまうぞ」
「はいはい、分かってるわよ。……三人とも、お昼はもう食べた?」
「いや、俺たちもちょうど今来たところだったから」
「つーか、俺とセイバーに至ってはこいつに無理やり連れ出されたもんだから、飯、教室に置きっぱなんだけど」
「今から取りに戻ってたらそれこそ時間が無くなっちゃうわ。あんたとセイバーには、私と士郎が分けてあげる。それでいいわよね、士郎?」
「ああ」
食事をとるべく、唯一のベンチにぎゅうぎゅうで腰掛ける。
士郎は手製の弁当を広げ、凛は購買のサンドイッチの封を開ける。
「? 何よ遊佐? そんなにじろじろ見なくったって、ちゃんと分けてあげるわよ」
「ばーか。別にがっついてるわけじゃねえよ。……ただ、ここのサンドイッチはまともなんだなと思ってな」
「はっ?」
「ああ、いい。こっちの話だ。ちょいと学生時代を思い出した。それだけのことだ」
「それで遠坂。わざわざこんなところに集まって、一体何を話しあうって言うんだ?」
聖杯戦争や黒円卓についてなら、すでにさんざん屋敷で話し合ったはずだ。
「何って、そんなの決まってるじゃない。この結界について、よ」
言って、ぴんと上を指差す凛。
「結界?」
「……なるほど。多分そうだろうなとは思ってたけど、士郎、やっぱり気づいてなかったのね」
「簡潔に説明するとだ。今この学校にゃ、発動したが最後、人の精気を根こそぎ絞りとっちまうようなえげつねえ結界が、何者かによって仕掛けられてるんだよ」
「なっ……!?」
ぎょっと目を剥く士郎。
事態に気づいていなかったのは、どうやら自分だけらしい。
隣席のセイバーは落ち着いた様子で疑問を口にする。
「問題は結界を仕掛けた者の正体です。タイミングから言えば、サーバント、あるいは黒円卓のどちらかだとは思いますが……」
「確かに、黒円卓にも似たような芸をもった奴はいたがそいつじゃねえ。もっとも、カール・クラフトの息のかかった何者か、って可能性は捨てきれねえがな」
「ただ、そう考えるよりはサーバントの仕業と見るほうが妥当でしょうね。何せこの学校には、私たちを除いても、少なくとも一人のマスターと、二人の魔術師が籍を置いてるんだから」
「!? そうなのか遠坂!?」
凛はこくりと頷き、
「魔術師は魔力の有無で判別できるから、見分けるのはそう難しくないわ。だから、以前から二人ほどこの学校にまぎれているのは知ってたの。
マスターについては、向こうから接触してきたから間違いないわ」
「接触? 一体いつの間に?」
咎めるような声音で、セイバー。
「そんな怖い顔しないでよ、セイバー。別に内緒にしてたわけじゃないわ。接触してきたのはついさっき。昼休みが始まってすぐよ」
「なるほど、遅刻の理由はそれか」
「そういうこと」
「それでそいつは、遠坂に一体何の用だったんだ?」
「同盟を申し込まれたわ。けど断った」
「ほう。そいつはまた、どうして?」
司狼の疑問はもっともだった。
作品名:FATE×Dies Irae3話―2 作家名:真砂