FATE×Dies Irae3話―2
黒円卓を相手どるにあたって、仲間は――たとえそれが一時的なものであったとしても――多いに越したことはないはずだ。
「理由は色々あるわね。まずそいつ、本来ならマスターに選ばれるはずのない一般人なの。一応魔術師の家柄ではあるんだけど、魔術は使えないし、それどころか魔術回路すら持ってないわ。それがどういう手品を使ったかは知らないけど、マスターの座についている。まあ手品の種はこの際置いとくとしても、戦力としては大して期待できない。それが一つ目。そしてこれが何より重要なんだけど、あいつは信用ならないわ。良くも悪くも狡猾な奴だから、とても背中なんて預けられない」
「なるほど。リスクを覚悟で仲間に引き入れるだけのメリットはない。そういうことですか?」
「ご名答。それにあいつは否定してたけど、学校に結界を張ったのがあいつじゃないって保証はどこにもないしね。というか、正直私は十中八九あいつの仕業だと思ってるわけで。そんな奴と仲良く手を組むなんてできるわけないわ」
「なあ遠坂。その口ぶりからすると、お前はそのマスターの正体も知ってるのか?」
「ええ。あなたも良く知ってる相手よ。て言うか、今朝派手にやりあったじゃない」
「今朝? ――! まさか慎二が!?」
「そうなのよ。ほんと、まさかよね」
凛は釈然としない様子で腕を組む。
「慎二……間桐慎二のことですね。やはり、そうでしたか」
「あのワカメ頭、朝のホームルームで一人だけセイバーを見てびびってやがったからな。んなこったろうとは思ってたぜ」
揃って得心するセイバーと司狼。
言われてみれば確かに、セイバーに対する慎二の態度はおかしかった。
女子の転入生――それもセイバーのような美少女ともなれば、普段の慎二ならまっさきに粉をかけるはずだ。
なのに、セイバーを囲むクラスメイトの中に、彼を見かけたおぼえがない。
「――っで、どうする気だよ、そいつ?」
「それを今考えてるのよ。仮にこの結界を張ったのがあいつだとしても、見たところ完成するまでまだ日を要するでしょうから、しばらくは泳がせておいても問題ないとは思うけど、変にうろちょろされてここぞという時に足をすくわれてもかなわないのよね。何にせよ真昼間から仕掛ける気もなかったし、まずは同盟者の士郎の耳に入れてから、とも思ったから、事を構えたりはしなかったけど。そういうあんたはどうなの? 一昨日のバーサーカーの時みたいに、また私たちに手を貸してくれるわけ?」
「冗談。俺は基本、聖杯戦争そのものにはノータッチだ。この間にしたって、ありゃ勧誘の一環としてバトっただけだしな。――っと、やっべ! もうこんな時間か!」
突然だった。
携帯の画面を確認するや、司狼は慌てて席を立った。
「ワリい。ちょいと野暮用があるんで、午後の授業はふけるわ。つーわけで、先公によろしく言っといてくれ」
「はっ? ふけるって……ちょっと、おい!」
ろくに事情を説明するでもなく、司狼はそそくさと屋上をあとにした。
「何だって言うんだ、あいつ……?」
「そういえば昨夜、昔馴染みから電話があったようですが、その関係でしょうか……?」
どうでもよさげに、アーチャーが口を挟む。
「別に構うまい。聖杯戦争には関与しないと言っている以上、さしあたって、この場に奴がいようといまいと関係あるまい。それよりも今は間桐慎二の処遇だが……凛、一つ確認しておきたいことがある」
「何よ?」
「結界の完成には今しばらく日を要するという話だったが、発動させるだけなら今の時点でも可能なのか?」
「えっ? それは――」
凛が答えを口にしようとした……その瞬間だった。
世界がにわかに血の色一色に塗り潰され、身の毛もよだつような脱力感が、ぐったりと士郎の身体にのしかかる。
「なっ!?」
「これは……!」
動揺するマスターたちとは対照的に、二人のサーバントは即座に状況を受け入れた。
「どうやら、聞くまでもないようだな」
作品名:FATE×Dies Irae3話―2 作家名:真砂