瀬戸内小話4
花
水面に浮かぶ一輪の花が揺蕩い、船縁から遠く遠くへと流れてゆく。
まるで、触れられるのを拒むかのように。
「……アンタには、似合いだな」
会話を拒み、時代に迎合することを拒み、伸ばされた腕も拒み。
すべてにおいて拒み通し、最後は一人で海の底へと消えていった。
意地もそこまで通せば立派過ぎる。おかげで、その根性に惚れた男が毛利を残した。それもすべて計算のうちだと、あの男は言うのだろうか。
広い海で揺蕩う一輪の花。
世界でただ一人戦っていたあの男のようでもある。
であれば、手向けた花は永遠にこの海を漂うのか。
それは寂しすぎると呟けば、波が攫った。一瞬の後、もう水面はただ青が広がるだけである。
思考ですら、関られるのを嫌うか、毛利。
可笑しくて悲しくて、ただ、苦笑がこぼれた。