ロマずきんちゃん
そうしてスペインに片うででだっこされている間に何があったのか、ロマーノは知りません。かすかに聞こえてきた「ちょ、おののえでもそれは…!」とか「分かった謝りますごめんなさい!」とかいう音がなくなって、何か重いものをひきずるような音と家のドアが開け閉めされる音のあと、ようやくスペインは「もうええでー」とロマーノに言いました。ロマーノがおそるおそる目を開けると、すぐ近くにスペインの顔がありました。少々散らかってしまった家の中にフランスのすがたはありませんでしたが、思い出したいことではないので、ロマーノはそれをむししてスペインに聞きました。
「スペイン、お前、かぜひいたって」
「ああ、おれらおたがいフランスにだまされたんやな。おれはイタちゃんとロマーノが病気で大変やって聞いて、飛んでったんや。ちょうど森の中ですれ違ってしまったんかなあ…ロマーノ、どっかでより道したか?」
花をつむために道を変えたことを思い出し、ロマーノはこくりとうなずきました。きっとフランスは、ロマーノに会ったあとにスペインの家に行ったのでしょう。スペインは「そうか」と言ってロマーノの頭をなでながら、すっと心配そうな顔をしました。
「大丈夫?何もされとらん?」
「…大丈夫、だぞ、ちくしょー」
「これからは気を付けなあかんで」
「お前に言われなくても分かってる」
本当は何もないということはなかったのですが、それを言うと、スペインは飛び出していってしまうかもしれません。結果的には助かったのだし、ロマーノはそう言いました。ほっとした様子で「ちょお散らかってしもたなあ」とスペインはつぶやき、家の中を見回しました。そんなスペインの目線がある一点で止まり、続けて身をかがめたのを見て、ロマーノはいぶかしげに「スペイン?」と言いました。スペインがそれに答えず、かがめた身を起こしたしゅんかん、ロマーノは真っ赤になりました。
「おれのためにつんでくれたん?」
床に落ちた花束とおかしの入ったバスケットを拾い上げ、スペインは、それはそれは幸せそうに笑っていました。ロマーノはとっさに言いました。
「ち、ちげーよ!これは、これはなあ!」
「んーふふふ、親分うれしいわあ」
「ちがうっつってんだろはげ!それにおれはバカ弟のおつかいで来たんだからな!」
「イタちゃんの?何?」
「お、おかし持って来た」
「ほないっしょに食べようやー。イタちゃんのおかしやから、きっとうまいなあ」
ロマーノの心がざわりとしました。そして同時に、今のじょうきょうを、ロマーノはやっと思い出しました。だっこ、されているのです。スペインの顔が近いです。そういえば、この所ロマーノはスペインをさけ続けていたので、会話するのも久しぶりでした。
「ロマーノ?どうした?」
心配そうに言うスペインの言葉も耳に入りません。ロマーノのほっぺがさらに赤くなっていきます。
「…お」
「?」
「下ろせこのやろー!!」
「ぐほおっ!」
ロマーノのずつきは、しきんきょりから寸分たがわずスペインのみぞおちをとらえました。
ロマーノが、そのむねを苦しめるどきどきの正体を知るのは、まだほんの少し、先のことのようです。
おしまい。