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学園小話

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未来予想 ……綾部と滝


「お前は、きっと伝説に残る忍になるだろうな」
 宿題の手を止めて、唐突に呟く。そんな滝夜叉丸の顔を、思わずまじまじと見つめ返す。
「夕食で変なもの食べた?」
「……どういう意味だ」
「だって、滝夜叉丸が言う台詞じゃないよ」
 そう、こういうときは「私は将来、伝説に残る忍になるのだ」が正しいものじゃないか。
 そう返してやれば、唇をちょっとだけ突き出して、不満げな顔を見せる。それはこちらの常套手段のはずなのだけど。
「他人のすばらしい部分を認められないほど、私の心は狭くないぞ!」
「はいはい。じゃあなんでそう思ったんだい?」
 筆を置いて文机に肘をついて尋ねれば、行儀が悪いぞと文句を言いつつ、滝夜叉丸も筆を置く。本格的に休憩に入るらしい。

「私の技はもちろん一流だ。我ながら惚れ惚れするほどだ」
 いつもの台詞を、いつもらしくない自嘲の笑みで語って、荒れた指先を伸ばしてくる。
 どんなに手入れをしていても、滝夜叉丸の手先はカサカサしている。忍たまの手はみんな似たようなものだけど、いっぱい傷ついて皮が厚くなった彼の手は特に硬い。
「…だけど喜八朗は、いずれ一人で城を守れるようになる。この手は、非凡だからな」
 掌をくすぐるように撫でる、指先。
 さっきまでやっていた宿題の内容は、罠作りについてだからそんなことを思ったらしい。
「滝夜叉丸の技も悪くないと思うけど?」
「私の代わりになれる忍は、数少なくても他にいる」
 肩を竦めて返せば、これまた珍しい言葉が返ってくる。明日は雪でも降るんじゃないだろうか。

 掌を撫でる指を取ると、口づける。
「どうしたのさ? らしくない」
「……たまには私だって、感傷的になる。努力しても、天賦の才には敵わない」
「おやまあ」
 ずいぶんと可愛らしいことを言う。
 こういう殊勝さが普段からあれば、この男も無駄に嫌われずにすむだろうに。こんなことを言い出したのは宿題のせいだけじゃなく、手首に巻かれた新しい包帯のせいかもしれない。
 それは、この滝夜叉丸の努力の証。
「ありきたりな慰めは必要?」
「必要ない」
 気のきいた言葉など出てこないから素直に聞けば、離せと掌が逃げていく。その手は筆を握ると、再び教本に向き合う。こちらも終わらない宿題を、ため息をついて再開する。

 筆が滑る音の中、教本を捲る彼はもう一度小さく言った。
「……きっと喜八郎は、伝説の忍になる。それは悔しいが、誇らしい」
 複雑な、しかし一応は褒め言葉のそれ。人一倍頑張っている男の言葉に、頬が緩んだ。

作品名:学園小話 作家名:架白ぐら