二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

学園小話

INDEX|9ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

色仕掛け ……2年後体育委員会で次滝的


※滝←次なカプ描写あります。キスしてますよ


「色仕掛けって、僕たちも習うんですね」
 体育委員会の良心ともいえる四郎兵衛の唐突な発言に、三之助が飲みかけの水で派手にむせ返る。そちらに皆の目が向いたことでどうにか面目を保った滝夜叉丸は、慎重に水を飲み干した。
 もっとも話題は即座に四郎兵衛に戻っていたため、三之助とその背を無言でさする滝夜叉丸に後輩たちは気づかないが。

「四年生で習うんですか?」
「うん。この前の授業でね。くの一たちだけだと思ってたから、ちょっとびっくりした」
 金吾が目を剥いて質問し、四郎兵衛は頷きながら返答する。質問内容以外は、なんとものどかな風景ではある。さらに一、二年の忍たまたちまで興味深々で質問し始める。古今東西、この手の話題はどんなときでも盛り上がるものらしい。
「色仕掛けって、誘惑するってことですよね」
「どーやってするんです?」
「まだね、習い始めたばかりだから、よくわからないんだ」
「えー!!」
 聞くな、喋るな、不満を言うな!
 内心でつっこむあたり、俺も成長したな、なんて三之助は一人ごちる。
 昔だったら、自分がまずいの一番に聞いていた。七松先輩あたりは、嬉々として教えてくれただろう。それを滝夜叉丸がぎゃあぎゃあ言いながら遮るに違いない。
 つい懐かしい記憶に逃避していれば、キラキラとした八つの瞳がこちらを見ている。
「なっ、なんだその期待した目は!!」
「次屋先輩は五年生ですから、色仕掛けは学ばれたんですよね」
 物怖じしない金吾が、質問と手を挙げ聞いて来る。
「聞きたいです!」
 四郎兵衛まで手を上げて、チビたちもはいはいと挙手する。どうにかしてくれと助けを求めた視線の先で、滝夜叉丸までもがにやりと笑う。
「教えてやったらどうだ?」
 先輩の許可が出たことで、いよいよ盛り上がる後輩たち。もはや三之助に逃げ場はない。
「………………アンタ、楽しんでるでしょ」
「後輩思いの先輩だろう?」
 口元に手を当て、困っている後輩を笑うとは。本当にいい先輩を持ったものだ。

「あー、つまり、アレだ。人の弱いところを突くんだよ。忍者の三禁ってあるだろ? それは一般人も弱いもんから…」
 どう言えば誤魔化せるかと思いながら語りだせば、案の定、わからないといった顔の後輩たち。一人笑っている滝夜叉丸は、絶対、困っている後輩を楽しんでいる。
「……四郎兵衛には、あとで七松先輩からもらった春画を見せてやる。金吾は来年な」
 頭を掻いてこれまでと切り上げる。えー、と不満の声が上がるが冗談ではない。そもそも四年から閲覧できる性的な本も図書室には置いてあるのだから、それを読めという話だ。
「ってーか、なんでアンタまで不満そうなんすか!」
「滝夜叉丸先輩と呼べ。せっかく後輩の成長を見守ろうという、この心優しい私の配慮がわからないというのか」
 後輩に混じって声を上げている、ひときわ綺麗な男を睨みつける。普段が普段の癖に、こういうときだけ人に押し付けるなんてなんて奴だろう。ぷいと頬を膨らまして見せたって、可愛くもない。プツリとどこかで何かが切れる音がした。
「わかりませんよ。ってか、いつもみたいに自慢げに語ればいーでしょうが。教えてくださいよ、色仕掛けってやつを」
 こうなったら止まらない。次屋先輩と止めるように袖を引かれても、煩いだけ。
 そんな人の気を逆なでするように、いいだろうと滝夜叉丸は笑った。

「私から直々に教えてもらうのだ。耳の穴をかっぽじって聞くといい」
 一度、腰まで伸びた髪を払うと、笑みを崩さぬ男は背を伸ばす。
 化粧をして、口調と言葉さえ改めれば、十分色気仕掛けのできる男だと大抵の人は頷くだろう。黙って見つめられれば、後輩たちもこの性格を知りつつ照れてしまう。それが今の滝夜叉丸の外見なのだから。
 もっとも、喋ればアレなのは相変わらずで、今も四郎兵衛たちは興味津々ながらも顔が微妙に引きつっている。
「色気仕掛けは、喜車の術に似ている。相手の色欲につけこんで、利用するのだ。そのために、仕掛ける側も己を美しく磨く必要がある」
 一度言葉を止めて後輩の顔を見てから、つまりだ、などとため息を吐く。本当に嫌味ったらしい横顔だ。
「ある城の縄張りを調べる任務があり、その城には優秀な忍が多い上、こちらの顔も知られている。そういう場合、潜入するのは困難だ。だから、城勤めのものに取り入って、城の話を聞きだすわけだ。勤め場所によって知りうる情報は限られているから、奥づとめの女中や警備の足軽など、必要な相手を選ぶ必要はあるが」
「でも、それって色仕掛けである必要はないですよね」
 例え話にも首をかしげる金吾が、またはい、と手を上げる。一瞬だけ驚いた顔をした滝夜叉丸は、珍しく困った風に笑って金吾の頭をくしゃりと撫でた。
「特別な相手には、口が軽くなるだろう? それを利用する……というのはお前たちには少し早いか」

 あとは授業で習いなさい。私が完璧に教えてしまっては、先生方の立場がなくなってしまうからな、などと相変わらず偉そうなことを言って解散を命じた体育委員長。その号令に従い、後片付けにそれぞれが散っていく。
 バレーボールを拾い上げる滝夜叉丸の、高い位置で結い上げた髪がさらりと流れ落ち、白いうなじがあらわになる。それを眺めながら、三之助も足元のボールを拾う。
「……まるで仕掛けたことがあるみたいな口ぶりっすね」
 後輩たちに聞こえないように、すぐ傍の人に語りかける。ちらりと三之助を見た滝夜叉丸は、鼻で笑った。答える気はないらしい。
「先輩の夏休みの宿題、『タソガレドキ城の縄張りを盗む』だって言ってましたよね。あの城、善法寺伊作先輩が就職してるって数馬から聞いてるんすよ」
 だから縄張りを調べるだけでもレベルが高くて、六年生の課題になった。そうなんでしょうと問い詰めれば、ボールを手に滝夜叉丸は近づいてくる。
「それで、私が色仕掛けを使って縄張りを盗んだと? 面白い推理だが…」
 なにが楽しいのか、くつくつと笑いながらボールを手渡してくる。憮然とそれを受け取れば、すいと影がさらに寄った。
「ちょっと…っ!」
「黙っていろ。疑り深い男は嫌われるぞ」
 人が両手にボールを持っているのをいいことに、襟首を掴んで引き寄せるとそのまま唇を掠め取る。
 触れる柔らかい温もりと、真傍で笑う男の顔は綺麗なだけあって本当にどうしようもない。
「…………タチ悪ぃ奴」
 風と共に後輩たちのほうへ歩いていく人の背を見ながら、肩口で唇を拭った。


「僕、わかった気がします」
 塹壕近辺の片づけをしていた四郎兵衛は、見回りに来た滝夜叉丸に笑いかける。
「なにがだ?」
「さっきのが、色仕掛けですね」
 確信を持って笑う後輩に、滝夜叉丸も笑い返す。

「そうとも言うな」


作品名:学園小話 作家名:架白ぐら