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りんはるりん詰め合わせ

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ハルの心配



日曜日、正午は過ぎ、しかし夕方にはまだ早い時刻。
買い物に出かけた凛は、その途中で遙に偶然会った。
凛は遙の顔を見つけて驚き、次の瞬間、大きく開いていた眼を不愉快そうに細めた。
「よぉ」
足を止め、凛の正面に立った遙も、わずかのあいだ眼を丸くしていたが、すぐに無表情にもどった。
「ちょうどいい」
遙は落ち着いた声で言う。
「おまえと話したいことがある」
話したいこと。
自分と遙の関係から考えれば、水泳の話に決まっている。
そう凛は思い、承諾を伝えるために軽くうなずいた。
凛と遙は肩を並べて歩く。
自分よりも背が低い。そして、体格はいいほうだが、自分よりは細い。
隣を歩いている遙のことを、いつのまにか、さりげなく観察してしまっている自分がいて、それに気づいて、凛はハッと我に返る。
こ、こ、これは、あくまでも水泳のライバルとしてだからな!
なぜか自分にそう言い訳した。ちょっとのあいだだけだが、歩き方が多少ギクシャクしてしまった。
遙は無表情で黙々と歩いている。
やがて、他の人が遠くにしかいない辺りまできた。
遙が歩く足を止めた。だから、凛も立ち止まる。
頭上には晴れた空が広がり、夏の強い日射しが肌を灼き、Tシャツと背中のあいだを汗が流れ落ちるのを感じる。
けれども、遙は涼しげな顔をしている。
向かい合う形で立っている。
「心配なんだ、おまえが」
ボソッと遙が言った。
遙は無口なタイプで、いつもなにを考えているのかわからない表情をしていて、マイペースで、他人とあまり関わろうとはしない。
その眼がじいっと凛を見ている。
凛はドキッとした。
しかし、その内心の動揺を遙に知られたくなくて、無理矢理に顔を引き締め、厳しい表情を作る。
「はあ? 俺にはおまえに心配されるようなことはねーよ」
ぶっきらぼうに言う。
「それより自分のこと心配しろよ。そのままだったら部の予算獲得できないだろ」
「水泳の話じゃない」
サラリと遙は否定した。
その眼差しは真剣そのものだ。
「俺が心配しているのは、おまえの後輩のことだ。おまえにやたらとつきまとっているアレだ」
「似鳥のことか?」
凛はきょとんとし、首をかしげた。
なぜ遙が似鳥のことを心配するのか……?
理論派の凛だが、考えても理由がまるで思いつかない。
「ああ、そうだ」
遙が重々しくうなずく。
凛を真っ直ぐにとらえている瞳が鋭く光った。
「アイツ、おまえ狙いだろ?」
「は?」
一瞬自分の耳を疑ったぐらい予想外なことを遙は言った。
こいつ、なにを言ってるんだ?
頭をフル稼働させてみてもサッパリわけがわからなくて、凛は混乱する。
そんな凛の様子を遙は観察するようにしばらく眺めたあと、ハァ、とため息をついた。
「やっぱり気づいてなかったか」
「なんだその、あきれてますみたいな感じは!?」
「みたいじゃなくて、あきれているんだ。あれだけハッキリとアピールされていて気づかないなんてな」
「アピール!? はあ!? なんのことだ!?」
言い返しながら凛はこれまでの遙の台詞を頭によみがえらせた。
おまえ狙い。
アピール。
それらが意味するのは、なにか。
頭に、ひらめきを感じた。
遙が言いたいことは。
まさか。
「そんなわけねぇだろ!!!」
似鳥が恋愛的な意味で俺を狙っていて俺にアピールしているとコイツは言いたいのか。
それに気づいて、凛は怒鳴った。全否定した。
大きく開いた手のひらが震えている。
内心の動揺がすっかり表に出てた。抑えようとも隠そうともしない。そんな気持ちはどこかに飛んでいってしまっていた。
だが、遙は凛の怒鳴り声をいつもの無表情で受け止める。
そして、その口をふたたび開く。
「おまえがそんなふうに水泳バカで他のことには鈍感だから心配なんだ」
「水バカのおまえに言われたくねーよッ」
速攻で凛はツッコミを入れた。
その怒鳴り声も遙は平然と受け止める。
「おまえとアレは寮で同室だと聞いた。そのうち寝込みを襲われるかもしれない」
「アレじゃなくて似鳥だ」
寮で同室、の情報源は妹の江だろう。
「だいたい、ありえねーよ!」
「なぜ、ありえない」
落ち着いた声で遙は言う。
「おまえは外見的要素で判断しているのか?」
「えっ……と」
「だが、某業界では襲い受というものも用語として存在しているし、そもそも背が低いほうが背を高いほうを攻めるのもあるようだし、先輩後輩などの立場が逆転した下克上カップリングも人気があるらしいぞ?」
「どこの業界の話だ!?」
「それはともかくとして、俺はおまえを心配している。気をつけるように」
「だから、ねーよ!」
「なぜ、言いきれる?」
「あのな、俺はアイツより身体きたえてんだ。襲われても、撃退できる」
そう言い返してから、どうして似鳥が俺狙い前提で話しているんだとハッとしたが、それについて凛が訂正するまえに遙が口を開く。
「心理的におまえが自分を受け入れるように持って行くかもしれない」
「どんな腹黒!?」
遙の中の似鳥像がひどい気がする。
わけのわからない展開に、凛は勢いで言ってしまう。
「だいたい俺には心に決めた相手がいるんだ!」
「へえ」
無表情だった遙の眉がピクリと動いた。
あ。
ヤバっ……。
凛は自分の失言に気づいた。とんでもない失言をしてしまった。暑さからだけではない汗がだらだらと背中を流れているのを感じる。
「それは初耳だな」
遙は容赦ない。
「その心に決めた相手とは、だれだ?」
「言わねーよ!」
「まさか実の妹……」
「ちげーよッ」
「じゃあ、だれだ?」
「なんで候補が妹だけなんだ!? ってか、言わねーって言ってんだろ!」
凛は話を打ち切りたくて乱暴に言った。怒鳴りすぎて、そろそろ声がかれてきそうだ。
一方、遙はこれまで声を荒げることがまったくなく、表情も驚きで多少揺らした程度でいつもとたいして変わらない。暑いはずなのに涼しげな様子のままで、じっと凛を見ている。
その眼差しを受け、凛はぐぐぐっと歯を食いしばった。
さっきは大きく開いていた手のひらは、今は拳に握っている。
たぶん、今、自分の顔は真っ赤だ。
クソッ。
そう胸の中で吐き捨てる。
幼いころの自分は感情を表に出しすぎてしまうほうだった。
それを今は恥ずかしく思っている。
それなのに。
今。
あのころの自分と変わらないじゃないか。
コイツと出会ったばかりのころと同じじゃないか。
遙は凛を静かに見ている。
もう今さら、勢いで言ってしまっただけ、なんて。
それに。
気づいた。
気づいてしまった。
どうやら、勢いで言ってしまっただけのことではないらしい、と。
水泳バカで他のことには鈍感と言われてもしかたないようだ。
凛は遙から眼をそらした。
しかし、すぐに、その眼を遙に向けた。
「そんなに聞きたければ、自分が話してからにしろよ。おまえはどうなんだよ?」
つきあっている相手はいないはずだ。そんな話は江から聞いていない。
だが、片想いなら、もしかして。
気になった。
「俺か」
自分のことを聞かれて、それでも遙は落ち着いている。
「心に決めている相手なら、いる」
断言した。
凛は眼を大きく開いた。
肯定されることをある程度は予想していた。
でも、まさかこんなにあっさり認めるとは。
作品名:りんはるりん詰め合わせ 作家名:hujio