同じ夢を持つあなたと
プロローグ
―――もし、あなたの力になれるなら―――
―――もしも、あなたのそばにいれるなら―――
―――あなたが私を必要としてくれるのなら―――
―――私は―――
私があなたのことを意識し始めたのは一体いつからだっただろう。よくよく考えれば初めて出会った日から意識はしていたのかもしれない、そう思ってしまう。ただ、最初の印象としては天敵、悩みの種の男だと思っていたのだけれど、、、
実際にあなたと関わるうちに、あなたの言葉を聞くたびに、どんどんと惹かれていったのだと私は思う。
だからこそ、私は…
「今月の月刊小説を一緒に買いに…大賞発表を一緒に…ですか??」
私が言った言葉をそのまま彼はオウム返しのように聞きかえす。私よりも頭一つ分背の高い彼の名は大八木朔。私の…初恋の人だ。彼は私の天敵である明野美星の幼馴染。天文部に所属している二年生だ。真面目で誠実。少し流されやすいところがある彼だが本当にいい人だ。…ひそかにわが高校でも人気があるようで、クラスメイトから後輩、私の学年にも彼を狙っている女生徒がいることは内緒だ…
彼には今まで、何度となく助けてもらってきた。助けを求めるようになっていた。今回もつい彼に助けを求めてしまった。
「えぇ。その…頼めないかしら。い、一緒に見てもらうだけでいいの!…ダメ…かしら…」
つい、図書館にいたことを忘れてしまい少し声が大きくなってしまう。おかげで周りの人たちから「シーッ!」と怒られてしまった。恥ずかしさと申し訳なさで顔が熱くなるのがわかった。きっと顔も赤くなっているだろう。これまた恥ずかしい限りだ。
「もちろん!!イイに決まってますよ!!というか僕なんかでいいんですか…??文学部の子とか…」
まるで嬉しそうに返事をしてくれる。それが私にとっては嬉しいことではあるが、文学部のの名を子を出されると少し寂しさを感じてしまう。だが、そもそもの話、彼女たちには頼めないのだ。私が彼と一緒に、最初に見たいと思っているのだから。
「あなたと…見たいと思うの。あなたは、私の背中を押してくれたから。そのお礼というわけでもないのだけれど…」
―不安があなたといるろ和らぐから―
なんて言葉は恥ずかしすぎて言えない。視線をそらしながらつい言ってしまう。恥ずかしさと嬉しさが私の中で大きく膨らむ。このままでは破裂してしまうのではないか、なんて馬鹿なことを思ってしまうが、少しずつ、別の感情も生まれてくるのを私は感じた。
『明野美星』
きっと彼女ははっきりとした感情としては持っているのだろうが、それがどういったものかを理解できていない。私はそこに付け込んで…彼女から彼を奪おうとしている。別に二人は付き合っているわけでもないのだが、付き合いが長い分、明野が彼のことを異性として意識しているのは容易にわかっていた。だが、明野に嫌われようと疎まれようと私はもう自分の気持ちを止められなくなっているのだった。
「いいですよ。じゃあ…発売日の明後日。学校が終わった後すぐに行きましょう!!」
にっこりとほほ笑み、すぐに予定を決めてくれた。発売日を知っているあたりが彼の本好きを物語っている気がして少し笑ってしまうと同時に、本当に文芸部に入部してくれたらよかったのに、と思ってしまった。そうすれば、もっと…一緒にたくさんの思い出を作れたのに、と後悔をしてしまう。
「…ありがとう。じゃぁ明後日。放課後、校門前で待ってるわね。」
これが学校終わりで助かったと安堵の息をつく。もしこれが休日だったら私服にしなければならなくなる。そんなことをすれば、対象発表の前に別の意味で緊張をしてしまう。言い過ぎかもしれないが、ただでさえ異性とこういった交流がない私にとっては大問題なのだ。そして気付く。これは完全に、、、
『で、デートになるのかしらね…』
「そうですね。楽しみにしてますね。」
「はいっ!!??」
思わず声を出してしまった。おかげでまた注意を受けてしまった。反省しなければいけないが、それにしてもおかしい。さっきのは声に出していないはずだった。気付かぬうちに無意識で口走ってしまったのかと一気に恥ずかしさが湧き出る。また顔が赤くなるのを感じ、慌ててしまう。逆に彼はどうしたんだろう、といった様子で不思議そうに首を傾げながらこちらを見ていた。つまり、今のは私の頭の中で考えていたことと、彼の明後日のこととが偶然に合致したのだとようやく理解した。
「あ、な、なんでもないわ!!それより、あなたはまだ図書館にいるの??」
「そうですね…、実は久々に時間が空いたので息抜きって感じだったので特には。」
「そう。なら、少し話さないかしら?ゆっくりお茶でも飲みながら。あなたの小説も気になることだし。」
すこし意地悪かとも思ったが彼の小説の話を振ってみる。思った通り彼は慌てふためく。どうやらあれから色々と自分なりにはやっていることが伺えるが、上手くいっていないのか返事があやふやだ。
「小説はまだまだお見せできる状態ではないというか!もう少しでまとまった形にはなるんですけど…ははは…」
恥ずかしさから彼は顔を赤らめ、手を振りながら答える。意地悪してもなんだし、小説の話はここで一区切りにして私たちは近くの喫茶店に向かうことにした。喫茶店につくまでの数分だが彼と並んで歩く。二人の間にはまだまだ距離があって、当然なのだけれどそれが少しもどかしい。ふと会話は休日にはどんなことをしているかという話題になった。
「私は…特にこれといったことはしてないわね。家事の手伝いとか勉強とか、読書ばかりかしら。」
「そうなんですか??僕は本ばっかり…といいたいんですけど事あることに部活があったりで。でも最近は美星や先輩の合格発表が気になって…まるで自分のことみたいに気になって仕方ないです。」
あらためて心臓が跳ね上がるような感覚になる。合格発表というのは彼にとって大学と、この大賞の発表のことなのだろうが、どちらにしても私はまだまだ不安だ。しかし、彼が傍にいて、声を聴くことができるだけでこんなにも落ち着いた気持ちでいられるのは彼のおかげなのだと思う。それにしても悉く彼とは話が合った。好きな文学誌、著者、ジャンル。喫茶店に着いても話は詰まることなく、スラスラとまるで思った通りに文章が書けるように言葉も出てくる。こんな感覚はいままで何回感じたことがあるだろう。注文したアイスコーヒーの氷がカランと音を立てて崩れる。それほどまでに彼との会話に夢中になっていた。
「本当に本が好きなのね。あなたの話を聞いているとよくわかるわ。」
「ははは。まぁ幼いころからの習慣でもあるんですけど、なんだか本を読んでいると自分の知らなかった知識とか、感情とか。文字だとわかりにくいっていう人もやっぱりいるんですけど、僕にはそれが頭の中ですごく膨らんで、とても楽しいんですよね。…上手く伝えられないのが自分のボキャブラリーの無さを物語ってるんですけどね。」
作品名:同じ夢を持つあなたと 作家名:はるかす