同じ夢を持つあなたと
少し自虐的に言う彼だが、少なくともボキャブラリーの少なさ、文章の拙さ、物語を描くのに必要な技術を身に着けようと努力しているのはわかる。
「そうだ、今度は琴塚先輩のも読ませてくださいよ!!」
「えっ!?わ、私の??」
不意に自分の小説を見せてほしいと言われ、慌ててしまう。もう投稿はしたし結果発表を待っている現状を考えると見せてもいいとも思えてしまうのだが、どうも気恥ずかしい。かといってここまで力になってくれている彼に見せないのも失礼ではないか、と感じてしまう。それに加え、ここまでこれた成果を彼に見てほしい、感想を聞きたい。
「け…結果発表が終わった後なら…読んでもいいわ。というか読んで頂戴。」
「やった!!ありがとうございます!!楽しみにしてますね。」
「…っ。ええ。でも、あまり過度な期待はしないでね。緊張してしまうから。」
彼の満面の笑みは本当にズルい。いろんな感情を私から引き出して溢れさせる。だが、言葉に詰まるのはほんの一瞬で。
こんなに心穏やかな気分にしてくれる。
きっと今、私は、
――――自分でも気づかないくらいに自然に頬が緩んでしまっているのだろうな――――
「それじゃあ、明後日。今日はごめんなさいね。こんなに遅くまで。」
「あ、いえ!!むしろ僕のほうこそ…ありがとうございます。では明後日に。」
結局、日が暮れるまでずっと話し込んでしまった。気づけばわざわざ私の最寄りの駅まで送ってもらっていた。本心を言うと彼と少しでも一緒にいたいという気持ちが大きいのだけれど。まるで自分が自分でないような感覚に陥ってしまう。彼が帰る姿を見たくて、つい振り向いてしまう。すると彼も同じようにこちらを振り向き大きく手を振ってくれた。嬉しさと恥ずかしさと、帰ってしまうという寂しさがまざってしまいぎこちない手の振り方になってしまった。これについては恥ずかしかった。
「…ほんとに、私じゃないみたいね。こんなところ文芸部の子たちには見せられないわね。」
ふふっ、とつい笑ってしまう。
夜空を見上げると町明りで少し見にくいが星たちが輝いている。彼が教えてくれた世界の一片。こんなにも素晴らしいものでこんなにも私のなかで大きくなるとは自分でも思ってもいなかったのだった。
作品名:同じ夢を持つあなたと 作家名:はるかす