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こらぼでほすと 風邪5

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やっぱり、懐かしい味という感覚はなかった。こんなものだったんだなあ、と、いうのが正直な感想だ。記憶の映像には残っているのだ。子供の頃、母親が風邪を引いた自分に、これを用意してくれた。それを飲んで、おいしいと思った記憶もある。だのに、味だけは、ぽっかりと記憶がない。まあ、それは以前から気付いていた。どうも、自分は、母親が作った料理の味を記憶の底に沈めてしまったらしい。家庭の味というものを全部、封印したのは、なぜなのか、自分にもわからない。もう二度と触れられないものだから、諦めるためだったのか、それとも、そんなものがない世界へ行くために決別したのか、その当時のことは覚えていないのだ。
 いつか、ライルに食べさせて、こういうものだったのか確認してみようとは思った。



 食後のコーヒーを飲み終わった頃に、ハイネが戻って来た。プライベートで丸一日留守をしていた。年少組は、三時頃、集合の予定らしい。それまでは、一時休憩だと、のんびりしていたので、ニールが、ハイネの出迎えに立ち上がる。
「ママニャン、俺にも、なんかメシ食わせて。それが終わったら、おまえ、栄養剤諸々の点滴して昼寝な?・・・・マリューお姉さまの手料理でもいいんだけど? 」
「残り物でよかったら、スープはあるわよ。」
 残りは、全部、悟空が消費してしまったので、本当に残っていない。マリューも予想して、かなり多めに作っていたのだが、それでも足りなかったのだ。ということで、マリューも立ち上がる。ニールは、すでに野菜炒めを製作中だ。
「ニール、そのスープ、味がおかしかったの? あなた、それを飲んで、おかしな顔をしてたわよ?」
 そう、マリューが指摘して、ティースプーンで件のスープを味見している。だが、まずくはない。シンプルにイモスープだ。

・・・・あー見られたか・・・・

 ニールは、苦笑するだけだ。母の味が、どうだったのかわからない自分が寂しいと思っただけなのだが、それを説明するのも気が引けるし、つらつらと、それをメモに書くのも躊躇われた。
「おいしいけど? 何かある? 」
 こくこくと頷いて微笑むニールは、そっと目を伏せた。何かあるのだろうが、話したくはないらしい。
「これ以上には、ツッコミしないけど・・・・まあ、辛いことがあるなら言いなさいよ? これでも一応、あなたの姉のつもりでもあるから。」
 その言葉に、嬉しそうに笑って頷くので、それ以上にはマリューも追求はしない。『吉祥富貴』の関係者に、普通のものはいない。それなりに、いろいろあって、あそこに関係している。だから、当人が言いたくないことは暴かないのが、基本だ。
「今夜、餃子パーティーの片付けが終わったら帰るけど、大丈夫? なんなら、もう一日、手伝いましょうか? 」
 土日はマリューも休みだ。金曜は有給を使ったので、もう一日、休みは残っている。具合が良くないなら、もう一日ぐらいボランティアをしてもいいつもりはしていた。
「・・・・十分です・・・」
 ちょっとしゃがれた声で、ニールが返事する。出ないことはないが、少し痛みがある。喋らないと、声も出にくくなるらしく、ニールも自分の声に驚いた。
「喋るな。」
 マリューからスパーンと手刀が、ニールの頭に落ちてくる。ここの関係者は手が早い。背後にへばりついていたリジェネもマスクの上から、ニールの口元を塞いでいる。いててて・・・と、頭を押さえたら、爆弾発言も投下された。
「もう一日、邪魔することにします。」
 はい? と、ニールがフライパンを煽る手を止めた。もう十分、楽させてもらったと言いたかったのだが、意味が逆に取られた。いえいえ、と、片手を横に振っているが、マリューも聞く耳を持たない。
「専業主夫でも、休みは必要なの。今から、何もしなくてよろしい。どうせ、レイたちも来るんだから、手伝いはたくさんあるし。いいわね? 」
 いや、そうじゃなくて・・・と、手を横に振るのだが、むんずと、その手首をつかまれて、フライパンの火が止められた。
「ハイネ、悪いけど先に、うちの子、寝かせてきてくれないかしら? 」
「了解、マリューお姉さま。」
「それから、ムウ、私、もう一泊、この不出来な弟の代わりをするわ。あなた、どうする? 」
「じゃあ、俺も、ここんちでゆっくりさせてもらうよ。」
 ああ、なんかやらかしたな、と、鷹は引っ立てられて行くニールを眺めて笑っている。
「それから、三蔵さん。居間と台所は、これから騒がしくなるので仕事をしたいなら、ニールのところでやってくれる? 」
「わかった。」
 女は強し、を、地で行くマリューの態度に、坊主も異論を唱えない。で、大人しく書類と共に立ち上がった。逆らっても、絶対にきつい反論が来るからだ。



 脇部屋に引き立てられるにあたって、何がいけなかったんだろう、と、ニールは考えるのだが思い浮かばない。スープのことを言わなかったのは、違う気がするのだが、あれでキレられたのか、と、考えている。だが、キレる意味がわからない。うーん、と考えていたら、あっという間に脇部屋だ。リジェネがストーヴを点けて脇部屋を温める。その間に、パジャマに着替えろ、と、ハイネが命じる。
 はあ? と、ニールの目が抗議しているのは、ハイネでもわかる。
「だって、マリューさん、何もするなって叱っただろ? あれで、おまえさん、昼寝終わって、ノコノコと居間に顔出したら、確実に説教だぞ? 」
「・・・・・」
「どうせ、年少組が来て騒がしくすんだしさ。それに付き合ってたら疲れるだろ? 」
 マリューも先の大戦では、AAの艦長を勤めていた女傑だ。何かしら、ニールがおかしいのは気付いたのだろう。インフルエンザを患ってから喋っていないから、ストレスも溜まっているのかもしれない。そういうことなら、ここらで、休養しておくべきだ。ハイネも、それが気になったから、ドクターのところから点滴一式を運んできたのだ。軽い安定剤も薬剤には含ませてある。崩れるよりは寝かせておくほうが安全だ。
 そこへ坊主が書類と共に入ってきた。追い出されたらしい。どかっと文机に座ると仕事を始める。
「ほら、マリューさんには誰も逆らえないんだよ。だから、着替えろ。」
 強引に命じて、ハイネも輸液のセットを開始する。で、寺の女房は、亭主の背中を眺めてハタと気付いた。メモに『灰皿』と書いてリジェネに見せる。この部屋には、灰皿はない。うん、と、頷いてリジェネが取りに走る。ほらほら、と、ハイネが急かすのでパジャマに着替えた。布団は、ほぼ万年床状態だから、電気毛布も入った状態で敷かれている。そこに入ると、ほっと息を吐く。ハイネが首筋の包帯の中に手を入れて乾き具合の確認をする。乾いているから、朝から変えていないと判明すると、先に、そちらを取り替えて、点滴をセットした。午後のクスリの成分も、きちんと混入されている。いつものように何度か失敗してセットできると、輸液の調節をして立ち上がる。
「メシ食ったら、また様子見に来るけど、寝てろ。」
 輸液が落ち終わるまで小一時間はかかる。回収するのもハイネの担当だ。リジェネが入れ替わるように戻って来て、文机に灰皿を置いた。坊主は、それを見て、着物の袖からタバコを取り出す。
作品名:こらぼでほすと 風邪5 作家名:篠義