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こらぼでほすと 風邪5

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「あんまり吸わないでよ? さんぞーさん。」
「うるせぇー、俺が居るのがわかって、そいつは安心すんだよ。テレビつけてもいいぞ? 」
 すでに、スパーって紫煙を吐き出している。それを横目にして寺の女房も微笑んでいたりする。


 予定時刻に現れたのは、レイが一番だった。三時前にやってきて、鷹夫婦に挨拶するより先に、脇部屋にすっ飛んでいった。次に、シンだが、こちらも、レイと同様だ。三時きっちりに虎夫婦が現れた。こちらは、居間にやってくる。
「あら、アンディも一緒なの? ちょうどいいわ。アイシャを明日一日、貸してくれない? 」
「別に構わんが? なんだ? 」
「ちょっと、ニールの様子がお疲れさんなので、ボランティアを一日延長しようと思うの。それで、アイシャにも手伝って欲しいなと思いまして。」
 さすがに、悟空の食欲に対応するのは、マリュー一人では無理だ。ふたりなら、どうにかなると算段した。
「アラ、ニールはダウンなの? マリュー。」
「うーん、ダウンっていうのとは、ちょっと違うけど壊れかけ? って感じなので賑やかに騒ごうかと思うの。」
 一瞬だったので、マリューだけが気付いた。スープを飲んで悲しそうな顔をしていたので、かなり気になった。鷹からも聞いているから、あれは危険信号だと判断したのだ。
「アンディ、ワタシ、手伝いたいワ。」
「そういうことなら、アイシャも手伝ってやれ。・・・・じゃあ、俺はラボにでも出勤するとしよう。鷹さん、あんたは? 」
「俺は、こっちでママの相手をするよ。ハイネも、明日はラボだしな。」
 ラボは、常時、交代で誰かが居座っている。何かしらの情報が入ったら、即連絡を回して対応するための最低限の配置だ。三大大国は、トップが総入れ替えになったので、勝手に牛耳るところまで力が出ない。だから、穏便に新しい連邦の創生は始まっているところだ。
「黒チビはミッション中で急がせるわけにはいかんしな。・・・・とりあえず、紫もどきと、うちの連中で我慢してもらうしかないか。」
「そんなとこだな。トダカさんにも連絡しておいたほうがいいかな。」
「いや、今日、顔を出すだろう。カウセリングは、お父さんに任せるとしよう。」
 ニールが落ち込みそうになったら、トダカか三蔵が引き上げることになっている。そこまで、虎も手は出さない。
 ハイネが点滴セットを回収して戻って来た。明日の予定を告げると、そのほうがいいな、と、こちらも頷く。
「声を出せないって、結構、ストレス溜まるみたいだ。それじゃないかな。」
「うーん、そういうものなのかしら。なんていうか、ものすごく悲しそうな顔したのよね。それも、故郷のスープを飲んで。」
 普通、故郷のものを味わったら、懐かしいというしみじみとした顔になると思うのだが、ニールは、へぇーという顔をして暗い目をしたのだ。
「それは、マズイ兆候だ、マリューお姉さま。気付いてくれてありがと。俺も、気になってさ。安定剤をぶちこみに戻ったんだ。」
「やっぱり、そうなのね。」
「病気の時って気弱になるもんだしな。返してやっても、あっちは誰もいないし。」
 ただのホームシックなら現地へ戻してやればいいのだが、生憎とアイルランドに戻してやるには体力的に問題がある。ついでに、家族も残っていないから、余計に落ち込みそうで、ハイネも怖い。
「言葉を発するって、ストレス発散にはなるよな? 」
「とはいえ、今は喋らしたらいかんのだろ? ・・・とりあえず、回復させるのが先決だな。」
「火曜にドクターのとこへ連れて行く予定だ。あんまり酷いなら医療ポッドに叩き込んで、せつニャン来るまで寝かせておく。」
「とりあえず、準備シナイ? マリュー。」
「そうね、そろそろ、全員揃いそうだしね。アンディ、ムウ、あなたたち、タネをこねてちょうだいよ? 」
「おいおい、俺らまでボランティアかよ? 俺は昼寝がしたいんだが? 」
「まあまあ、虎さん。たまには、奥方たちとスキンシップしろよ。昼寝なら、俺がしといてやるからさ。」
 さて、動くか、と、大人組も立ち上がる。包むのは、人手が必要だが、タネを作るのは、大人組で事足りる。フードプロセッサーを活用して、さくさくと野菜を微塵にしていくところからだ。ハイネは、ちょっとドクターと相談と、携帯端末を持って外へ出た。ニールの現状を報告して、薬剤の追加がないか確認するらしい。



 脇部屋のほうは、ちょこんとリジェネがママの手を握って座っている。その隣りには、レイとシンも鎮座している。点滴を終えたのに、目が覚めないのは、ちょっとマズイ兆候だ。ハイネからは安定剤を混入してある、と、説明はされたが、それでも心配なのは心配だ。坊主は、レイたちが現れた時点で、書類を文机の上に纏めると出かけた。シンとレイがいれば、付き添いはいらないだろうと、いつものごとくパチンコに遠征した。
 悟空は、墓地の片付けをしている。お彼岸シーズンの墓参り客が終わったので、腐りそうなものや萎れた花を、ちまちまと回収している最中だ。
「俺、墓地のほう手伝ってくるよ、レイ。あとで、父さんが来ると思う。」
「わかった。俺が看てる。」
 とはいっても、やることはないから、レイは携帯端末でニュースパックを眺めたり、資料を読んだり、と、のんびりしたものだ。インフルエンザ自体は抗生物質で治療されているから、問題はない。声帯の傷が深いらしいから、それは気になった。こればかりは完治させるのに十日ばかりかかるとのことで、再生槽にでも入らなければ時間短縮は望めない。再生槽に入ると最低ても二週間は入りっぱなしになるので、そのほうが時間がかかる。ついでに、さらに体力も落とす結果になるから、こういう治療法になったとハイネは説明していた。

・・・・連れ回しすぎたのもあるんだろうな・・・・

 治療が終わったから、と、シンとレイも外出を誘ったし、リジェネもママと二人で出かけていた。それらが積み重なって疲れもあったからのインフルエンザだ。浮かれていて、そこいらのことを忘れたのは、レイたちの失態だ。
「レイ、なんか怒ってる? 」
 レイが難しい顔をしているので、リジェネが声をかけた。リジェネもインフルエンザを罹患させたのは自分だと反省はしている。
「いや、自分に怒ってるんだ。おまえだけの責任じゃない。」
「僕も、ママは治ったからって外へ出かけてて・・・ごめん、僕も悪い。」
「その前に、俺たちが連れ出していたんだ。だから、おまえだけが悪いんじゃない。気をつけてるつもりだったんだけど。」
 自分たちのママは、本当に困った人だ。子供たちが誘ったら、ニコニコと出かけてくれる。疲れていても今日は、ちょっと控えたい、とは言わない。誘ってくれることが嬉しいから、と、ちょっとぐらいなら無理して付き合ってくれるのだ。レイにしてもリジェネにしても、その温かいものは嬉しいのだが、ちょっとは自分の体調も考慮してくれないか、と、思ってしまう。
「難しいよね? 僕、ママがダウンして喋らなくなったのは初めてでさ。怖くなって、何も出来なかったんだ。悟空に声をかければいいのに、それも思いつかなくてさ。・・・・・ティエリアが来てくれなかったら、どうなってたか怖いよ。」
作品名:こらぼでほすと 風邪5 作家名:篠義