こらぼでほすと 風邪5
リジェネはパニック状態でティエリアが、リジェネの身体を乗っ取って連絡を取ったと聞いている。まあ、そうなるんだろうな、と、レイも苦笑する。ママがダウンして喋らないぐらい具合が悪いと、レイでも怖いからだ。
「それは、俺も同じだ。俺は、ザフトで救急処置も学んでいるし、実際、そういう場面にも軍で出食わしているから経験がある。・・・・でも、俺も怖いよ? リジェネ。ママには元気でいてもらわないと。」
「うん、僕も。」
「なんでだろうな? 俺には肉親の情なんてないのに、ママだけは、それを感じるんだ。・・・・だからな・・・」
最後は、ママに看取って欲しいと願っている。きっと、泣いてくれるだろう。惜しまれて消えていけるのは幸せな気がする。遺していくことになるママのことは心配だが、刹那たちがいれば、ママは大丈夫だ、と、思えるから、それは謝るだけだ。愛しいという気持ちをくれたのは、ママだ。恋情ではなくて、愛情だけ傾けてくれるママがレイは大好きだ。これといって何もないのだが、ただ、温かいものがレイに溢れてくる。この気持ちが好きだ。
「ママって、そういうものなんでしょ? レイ、きみはパパもママもなくしたの? 」
リジェネでも、レイの出生の秘密までは知らない。普通、人間は両親があって、その遺伝子情報から生まれてくる。現在は、人工羊水で育てられる個体もあることはあるが、それでも両親は必要だ。
「なくしたんじゃない。最初からいないんだ。・・・だから、俺にはママはママだけだ。」
「え? 」
少し屈みこんで、ママの呼吸を確認する。眠っているとは言われているが、まだ聞かせたくない話だから、リジェネの耳元で小声で話すことにした。
「おまえなら調べられるだろうから、話しておくが、誰にも言わないでくれ。これは、プラントのトップシークレットだ。」
「うん。」
リジェネは電脳空間なら、なんでもござれなイノベイドだ。疑問を持たれたら調べられるだろうから、隠しても意味が無い。
「俺は、元の細胞をコーディネートよって強化されたクローンだ。だから、俺には両親はない。」
「レイ? それって・・・ものすごく禁止条項に抵触してない? 人間から人間のクローンを作るのは、どこでも禁止されているはずだよ? きみ、どうやって作られたのさ? 」
「この世界には、それを金を出してやりたいという人間は多いんだ。キラさんにも、その技術は生かされている。あの人のコーディネートが特殊なのは、クローン技術も転用されているからだ。」
キラの実の両親はコーディネートの研究者だった。その資金を補うために、資産家たちからの依頼を受けていた。その中に、フラガ家の先代も居たのだ。その先代の細胞を元にしてクローニングされたのは、二体。もう一体は、すでに滅んでいる。鷹も、その事実は知っている。キラのことはリジェネも知っているから、レイの言うことは理解できる。キラのコーディネートは、かなり特殊なもので、イノベイドと同じように寿命も普通の人間よりは幾分か長いらしいし、完全に種割れしてしまうと鬼神も真っ青な残酷さを発揮する。ただし、キラは子供が作れない。遺伝子を異常なほどコーディネートされていて、それに適合できる卵子がないのだ。一代限りのスーパーコーディネーターは、キラが死ねば、続くものはない。レイも然りだ。生殖行為自体は、普通にできるが、それで受精することはない。どちらも一代限りの徒花だ。
「レイ、それって・・・元の細胞の年齢は? 」
「五十前だったらしい。」
「・・・そう・・・わかった。」
「まだ、しばらくはクスリで引き延ばせる。」
「・・うん・・・何か必要なら、僕に言って? 用意できると思う。」
「ああ、頼む。」
リジェネも知識としてクローンは理解している。イノベイドもある意味、クローニング技術で作られている。細胞の劣化を抑えたり、ヴェーダにリンクしたり、と、コーディネーター以上のコーディネイトをされた身体だ。だから、レイの抱えている問題も、すぐにわかった。何かしら、こちらの技術が転用できるなら、力は貸したい。だって、ママはレイを、とても可愛がっているから。きっと、ママは悲しむだろう。そういうことは、最大限、先に引き延ばしたい。
「ママ、泣くと思うんだよね。レイのこと、大事にしてるから。」
「俺は、それが何よりの手向けなんだ。」
「僕はママを見送るのが、とても怖いよ。僕、そうなったら、しばらくはヴェーダで眠ってしまいそうだ。」
イノベイドの寿命は、平均三百年だ。リジェネは、まだ五十年も生きていないから、どう考えてもママをなくしてしまう。それが、ずっと先であって欲しいし、できれば、イノベーターになってくれないかな、と、考えている。脳量子波の因子がないか、今度、調べてみようと思っているところだ。
「ママのことは頼む。俺には付き合えない。」
「うーん、まあ、ティエリアと刹那もいるから、なんとかする。・・・ああ、レイ。きみの遺伝子情報が欲しいんだけど、いい? 」
そういえば、と、歌姫からは許可を貰ったが、あれから、ヴェーダに戻っていたので、まだ誰にも許可は貰っていなかった。レイではないが、レイと似た性質のイノベイドを作ることは可能だ。関係者が全員、この世界から消えてからの話だから、先は長いので慌ててはいないが、レイの時間が限られているのなら、それは保存しておきたい。
「俺の遺伝子情報? 別に構わないが。」
「直接、クローニングするわけじゃないからテロメアの問題はないんだ。塩基パターンをコピーするだけだから。百年先ぐらいに、みんなの遺伝子情報を載せたイノベイドを作ろうかなって思いついたんだ。ラクスからは許可を貰ったから、レイもね。」
「そういうことなら好きにしてくれ。」
「ありがとう。なんか、きみたちの顔にも愛着が出て来たんだ。だから、同じ顔のイノベイドがいたら寂しくないかなってさ。」
「じゃあ、ママのも許可をもらって、俺と親子にしてくれないか?」
「いいよ。」
自分ではないが、自分の顔をした子供をママが育てているのを想像したら楽しくなった。ママの優しさは、生来のものだろうから、きっと愛情一杯に育ててくれるはずだ。そう思うと、なんだか楽しい。
「あ、ママの塩基パターンを変更して、本当にママになってもらおう。そのほうがいいよね? 」
「さあ、どうなんだろう。それは、お任せだな。」
ふたりして声を出して笑ってしまった。自分ではないが、自分と同じ顔の子供を、ママではないが、ママと同じ顔のママが育てるというのを想像すると、かなり笑える代物だ。
・・・・その時は、本当に・・・・・
レイは、その自分ではない自分に願う。本当に、最初からママに甘えて、ママを愛して欲しい、と。時間の制限も過去の柵もなく、ただ純粋に生きて欲しい、と、思った。
作品名:こらぼでほすと 風邪5 作家名:篠義