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怪我の功名にはならないという例

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冬ももうすぐ終わる。朝のテレビのお天気おねーさんも最近は機嫌良さそうに、もうすぐ春ですねえと言っていたのに。自分は今ふうふうと息を吐きながらベッドに寝ている。久しぶりに二人の休みが重なったと喜んでいた先週の自分を思い出して、今この状況と比べてみればため息の一つや二つ付きたくなるものだ。熱のおかげでそれすら億劫でもあるが。

「馬鹿ですか」
「…げほっ」
「思うに、なんとかは風邪は引かないって言いますけれどね、僕はそれ間違っていると思うんですよ。"ひかない"じゃなくて"ひいても判らない"」
「…………ごほっ」
「大体春が近いといってもまだ気温的には冬ですし、ことさら夜は寒いってわかっててコートも着ずに出かけて、そして帰りに通り雨にやられて面倒くさがって濡れたまま寝るとか」

すう、と息を一度吸い込む音が聞こえた。
「馬鹿ですか、あなたは」
「お前は看病しに来たのか嫌味言いにきただけなのかはっきりしろ!」
「挙げ句の果てに、デートの待ち合わせ場所で彼女と会った途端倒れる人に何言われても痛くも痒くもないです」
「…ぐ…」
ぐぅの音も出ないとはまさにこのことだ。さっきから骸が捲し上げたことは殆ど本当のことだし、今思い返せば馬鹿だと言われても仕方がない。でも俺にだって言い分はあるのだ。昨日の夜、洗面台に使い捨てのカミソリがないことに気づいて(元来自分は髭があまり生えないたちであるので使い捨てで十分なのだ。それもまた悲しい。)、いつもならまあいいかと放置するところを明日のために買いに行こうと慌てたからコートを着ることを失念していたのであり、普段はそうはならないし、朝起きたときも身体がだるいなあ暑いなあぐらいでまさか倒れるほどひどいとは思わなかったのだ。だってだって大切な人と会う日にちょっとだるいくらいでドタキャンする方がひどいだろ!と早口でまくし立ててみるものの、今のは心の声だ。言いたくとも喉が痛くて少ししゃべるために声を出すのも嫌だし、第一骸の目の前で喧嘩売るような言い訳をするほど無鉄砲な年でもない。経験上言っておく。

「彼女、心配してましたよ本当に」
「…わるかったよ…」
「久しぶりにクロームの涙を見たんですが、殴って良いですか」
「ちょっ 病人にやめろ…!…げほげほ!」
にこにこと笑いながら拳をあげている骸をみて本気でびびる。本気の目をしていた。付き合いだすときも"彼女を泣かしたら巡らせますよ"、なんて彼独特の脅し文句とクフフ笑いをしていたときと同じ目だった。確かに泣かせた原因は俺にあるのだけれど、それはそのとき言った意味での泣かせとは違うだろ、確かにあのときは了承して頷いたけれど、今はご遠慮願いたい。
結局激しく咳き込んだ俺をみて、骸は戦意をそがれたのか手を下ろしてくれた。

倒れた後、クロームはかなりびっくりしながら俺の家に電話したらしい。そしてたまたま留守番をしていた骸がその電話を受け取って車を山本から借りて迎えに来てくれたと言っていた。周りが救急車を呼ぼうか、と言っていたらしいがクロームはそれをガンとして断っていた。確かに俺は曲がりなりにもマフィアのボス候補で、まああの状況下では知っているやつも居なかっただろうが、信頼できる医者の元に運んでくれないと相当ややこしいことになるのを判っていたんだろう。電話して20分後ぐらいに俺は車に乗せられて、かかりつけのシャマル医師の所へ搬送された。そして今、その医者が管轄している小さな病院のベッドに寝せられているというわけだ。当の医者が居ないのは一通り看たからであってまあ心配ないだろただの風邪だと言うや否や回診というなの出奔したのに違いない。いつものことだ。

「クローム、は…?」
「彼女ならずっと付き添ってくれてたんですけど、ついさっき赤ん坊に呼ばれていきました」
「むくろ、お前」
「そして今手が空いてるのは僕だけなんで、不本意ですが病人の一番近くでボスの護衛です」
「…スイマセンねえ…」
さっき嫌味を言い終えたかと思いきやまだ出てくる。こいつの言動は皮肉と嫌味で出来て居るんだろうか。言い返したかったがそろそろまた意識がまどろみ始めている。身体が熱さで支配されていて頭がよりぼーっとしてきた。
「な…」
「もう寝てください。だいぶ眠そうだしこれ以上起きていて悪化されても困ります。起きたら何か食べたいものあります?」
「……ゼリー食べたい」
骸の最後の言葉を聞かずに俺は意識が急降下した。暗くなる。暗転。