こらぼでほすと 風邪6
夕方、トダカが顔を出すと居間と台所は戦場さながらの騒ぎになっていた。餃子を包むもの、他の料理をしているもの、出来上がった料理をツマミ食いしているもの、それを防御しているものなどなど、とりあえず総出で遊んでいるらしい。声だけかけて、脇部屋に顔を出したら、トダカさんの娘は起きていた。障子を静かに開けると、微笑んで横になったまま頭を下げた。
「動けないね? 」
布団の両側に、リジェネとレイが転がっていて、トダカさんの娘の手を片手ずつが握っている。両手を拘束されているようなものだから、トダカの娘さんも動けなくて、じっとしていたらしい。
レイもリジェネもトダカの声で目を覚ました。レイは、はっと飛び起きたが、リジェネはうにゅうにゅと目を擦りつつ、のろのろと起き上がる。誰かが様子を見に来てくれたのか、レイとリジェネにも毛布がかけてあった。
「なんだか、あっちは騒がしいことになってるよ。」
そーでしょうねーとニールも布団に起き上がって座る。年少組も呼び出して餃子パーティーをすると、マリューは言ったから、大騒ぎで準備しているのだろう。それはそれで、ストレス発散になるから、ニールも良いとは思う。
「亭主はパチンコかい? 」
坊主の姿がない。こういう場合、坊主は外出するのが常だから、居場所は、そんなところだ。トダカさんの娘は首を傾げている。どうやら、寝ている間にいなくなったらしい。
「ママ、目が覚めたんなら水分補給してください。」
レイが、すかさずポカリのペットボトルを差し出している。はいはい、と、ママも、それを手にして飲んでいる。少し飲んで、それから、うにょうにょと纏わりついているリジェネにも飲ませている。最後に、レイの手元に戻ったので、飲み残しをごくごくと平らげた。
「レイ、ここに来ることは止めないが、あまり無理はしちゃいけないよ? ここのところ、実習で忙しかったんだろ? 」
シンとレイは同じアカデミーに通学しているが、選択したカリキュラムの違いで、ここのところ、シンですら行き違いになっていたと聞いている。珍しくレイが昼寝なんかしていたので、トダカも、そう注意する。身体を休めることも必要なことだ。無理して寺まで遠征してくるのは、ニールも心配する。
無論、トダカの言葉に、ママはレイのほうへ顔を向けた。心配そうな顔だ。寝ていて乱れたレイの髪を梳いている。
「大丈夫ですよ、ママ。少し忙しいですが、俺がやりたくてやっていることなので充実しています。今夜、ママを補充すれば、また来週も頑張れます。」
本当に? と、視線が問うてくる。はい、と、レイが大きく頷くと、ママはレイの頭を撫でた。この年で、この扱いは子供扱いすぎるのだが、レイも微笑んでいる。
「顔色は悪くないね? 亭主にこき使われてるんじゃないかと心配してたんだが。」
昼寝にしては長時間、横になっていたようだが、ニールの顔色は悪くない。適度に刺激があるほうが、ニールには良いらしいので、トダカも里帰りは諦めていたが、回復しているなら、そろそろ里帰りさせようかな、なんて考えている。
「熱もないし脈拍も正常ですよ、トダカさん。」
レイが携帯端末で、ニールの数値を告げてくれる。え? と、ニールのほうは驚いている。ほら、と、レイがニールの左手を持ち上げて、バイタルサインを常時チェックするベルトを見せている。ニールが眠ってから、ハイネが取り付けて行ったらしい。
そのやりとりで寝ている間に、いろいろやられていたらしい、と、トダカも気付いて大笑いしている。
「娘さんの間男は、細やかな看護をしてくれるから安心だね。」
「そうですね。ハイネが寺を留守していたから、ママはダウンしたんだろうし。役に立っているようです。」
別にハイネが悪いわけではないのだが、今回のダウンはハイネがいなくて、風邪の症状を理解できない面々しか残っていなかったのが原因だ。もう、と、ニールは左腕のベルトを見上げて呆れているが、それぐらいしておくのが得策だ。
「レイ、テレビでもつけてくれ。たまには、みんなでゴロゴロしていよう。」
「いいですね。」
どっこいせ、と、トダカも畳に寝転がる。食事になったら呼んでくれるだろうから、それまで、ゆっくりしていることにした。全員が転がっているなら、ニールも横になっているしかない。
「ママも横になって。」
リジェネにせがまれて、ニールも横になる。手伝いたいのだが、たぶん、出向いたらマリューに叱られるので、ニールもしょうがない、と、諦めた。
専業主夫というものは、年がら年中、休みがないのだから休みは作らなければいけないのだ、と、昼からも説教を食らった。そうはいっても、ニールの場合、里帰りすることも多いし、具合が悪ければ本宅へ軟禁されているから休んでいるようなものだ。と、メモに書いたら容赦なく拳骨された。
「それは休みではありません。具合が悪いのは論外。その貧乏性を治せ、とは言わないけど、たまには家事を休むのも必要です。」
そう言われても、ニールとしては家事だけやってるぐらいだと、かなり緩い生活だ。以前が休む暇がなくて忙しかったから、動いていないと罪悪感がある。とはいうものの、以前のような体力はないので、マリューの言うことも理解はしているのだが、気持ちが治まらないのは、ニール当人もしょうがない。こうやって無理矢理にでも休ませてくれるのも甘やかされているのだと感謝はしている。
そんなことを考えていたら、トダカが声をかけてきた。それで、そちらに意識が向く。
「来週には桜も開花するらしいよ? 娘さん。桜前線が北上をしている。特区の西で、そろそろ開花だそうだ。」
ほら、と、テレビをトダカが指差した。確かに特区の西のほうでは、ちらほらと桜が咲いたというニュースだ。
「ママ、刹那の誕生日祝いは服でしょ? 明日にでも、少し探しに行きますか? 俺がアッシーしますから。」
レイが、そう言うと、「レイ、それは来週、うちへ娘さんを拉致して、みんなで出かけないか? その頃には娘さんも回復しているだろうからさ。」 と、トダカの意見だ。
「いいですね。来週なら、実習も終わっているから、トダカさんちに泊れます。シンの予定も確認しておきましょう。」
「娘さん、そろそろ、お父さんは里帰りを希望するよ? たまには、亭主ではなくて、父親の相手もしてくれないと。お父さん、拗ねて出勤拒否するよ? 」
ニールが反論する前に、トダカが冗談な脅しをかけている。かなり本気だからね、と、追い討ちをかけて笑っている。確かに、トダカが出勤拒否なんかやると、店は大変なことになる。以前、トダカの魔女の一撃事件の時は、他のスタッフだけで店を切り盛りすることになって、大変、苦労したのだ。
「わかったね? 娘さん。来週は里帰りだよ? 」
念を押すように言われて、はいはい、と、ニールも頷く。どうあっても、トダカは里帰りを敢行させるつもりなら逆らっても連れて帰られることは確定している。
「僕も一緒に帰るよ? トダカさん。」
「もちろんだよ、リジェネくん。」
「動けないね? 」
布団の両側に、リジェネとレイが転がっていて、トダカさんの娘の手を片手ずつが握っている。両手を拘束されているようなものだから、トダカの娘さんも動けなくて、じっとしていたらしい。
レイもリジェネもトダカの声で目を覚ました。レイは、はっと飛び起きたが、リジェネはうにゅうにゅと目を擦りつつ、のろのろと起き上がる。誰かが様子を見に来てくれたのか、レイとリジェネにも毛布がかけてあった。
「なんだか、あっちは騒がしいことになってるよ。」
そーでしょうねーとニールも布団に起き上がって座る。年少組も呼び出して餃子パーティーをすると、マリューは言ったから、大騒ぎで準備しているのだろう。それはそれで、ストレス発散になるから、ニールも良いとは思う。
「亭主はパチンコかい? 」
坊主の姿がない。こういう場合、坊主は外出するのが常だから、居場所は、そんなところだ。トダカさんの娘は首を傾げている。どうやら、寝ている間にいなくなったらしい。
「ママ、目が覚めたんなら水分補給してください。」
レイが、すかさずポカリのペットボトルを差し出している。はいはい、と、ママも、それを手にして飲んでいる。少し飲んで、それから、うにょうにょと纏わりついているリジェネにも飲ませている。最後に、レイの手元に戻ったので、飲み残しをごくごくと平らげた。
「レイ、ここに来ることは止めないが、あまり無理はしちゃいけないよ? ここのところ、実習で忙しかったんだろ? 」
シンとレイは同じアカデミーに通学しているが、選択したカリキュラムの違いで、ここのところ、シンですら行き違いになっていたと聞いている。珍しくレイが昼寝なんかしていたので、トダカも、そう注意する。身体を休めることも必要なことだ。無理して寺まで遠征してくるのは、ニールも心配する。
無論、トダカの言葉に、ママはレイのほうへ顔を向けた。心配そうな顔だ。寝ていて乱れたレイの髪を梳いている。
「大丈夫ですよ、ママ。少し忙しいですが、俺がやりたくてやっていることなので充実しています。今夜、ママを補充すれば、また来週も頑張れます。」
本当に? と、視線が問うてくる。はい、と、レイが大きく頷くと、ママはレイの頭を撫でた。この年で、この扱いは子供扱いすぎるのだが、レイも微笑んでいる。
「顔色は悪くないね? 亭主にこき使われてるんじゃないかと心配してたんだが。」
昼寝にしては長時間、横になっていたようだが、ニールの顔色は悪くない。適度に刺激があるほうが、ニールには良いらしいので、トダカも里帰りは諦めていたが、回復しているなら、そろそろ里帰りさせようかな、なんて考えている。
「熱もないし脈拍も正常ですよ、トダカさん。」
レイが携帯端末で、ニールの数値を告げてくれる。え? と、ニールのほうは驚いている。ほら、と、レイがニールの左手を持ち上げて、バイタルサインを常時チェックするベルトを見せている。ニールが眠ってから、ハイネが取り付けて行ったらしい。
そのやりとりで寝ている間に、いろいろやられていたらしい、と、トダカも気付いて大笑いしている。
「娘さんの間男は、細やかな看護をしてくれるから安心だね。」
「そうですね。ハイネが寺を留守していたから、ママはダウンしたんだろうし。役に立っているようです。」
別にハイネが悪いわけではないのだが、今回のダウンはハイネがいなくて、風邪の症状を理解できない面々しか残っていなかったのが原因だ。もう、と、ニールは左腕のベルトを見上げて呆れているが、それぐらいしておくのが得策だ。
「レイ、テレビでもつけてくれ。たまには、みんなでゴロゴロしていよう。」
「いいですね。」
どっこいせ、と、トダカも畳に寝転がる。食事になったら呼んでくれるだろうから、それまで、ゆっくりしていることにした。全員が転がっているなら、ニールも横になっているしかない。
「ママも横になって。」
リジェネにせがまれて、ニールも横になる。手伝いたいのだが、たぶん、出向いたらマリューに叱られるので、ニールもしょうがない、と、諦めた。
専業主夫というものは、年がら年中、休みがないのだから休みは作らなければいけないのだ、と、昼からも説教を食らった。そうはいっても、ニールの場合、里帰りすることも多いし、具合が悪ければ本宅へ軟禁されているから休んでいるようなものだ。と、メモに書いたら容赦なく拳骨された。
「それは休みではありません。具合が悪いのは論外。その貧乏性を治せ、とは言わないけど、たまには家事を休むのも必要です。」
そう言われても、ニールとしては家事だけやってるぐらいだと、かなり緩い生活だ。以前が休む暇がなくて忙しかったから、動いていないと罪悪感がある。とはいうものの、以前のような体力はないので、マリューの言うことも理解はしているのだが、気持ちが治まらないのは、ニール当人もしょうがない。こうやって無理矢理にでも休ませてくれるのも甘やかされているのだと感謝はしている。
そんなことを考えていたら、トダカが声をかけてきた。それで、そちらに意識が向く。
「来週には桜も開花するらしいよ? 娘さん。桜前線が北上をしている。特区の西で、そろそろ開花だそうだ。」
ほら、と、テレビをトダカが指差した。確かに特区の西のほうでは、ちらほらと桜が咲いたというニュースだ。
「ママ、刹那の誕生日祝いは服でしょ? 明日にでも、少し探しに行きますか? 俺がアッシーしますから。」
レイが、そう言うと、「レイ、それは来週、うちへ娘さんを拉致して、みんなで出かけないか? その頃には娘さんも回復しているだろうからさ。」 と、トダカの意見だ。
「いいですね。来週なら、実習も終わっているから、トダカさんちに泊れます。シンの予定も確認しておきましょう。」
「娘さん、そろそろ、お父さんは里帰りを希望するよ? たまには、亭主ではなくて、父親の相手もしてくれないと。お父さん、拗ねて出勤拒否するよ? 」
ニールが反論する前に、トダカが冗談な脅しをかけている。かなり本気だからね、と、追い討ちをかけて笑っている。確かに、トダカが出勤拒否なんかやると、店は大変なことになる。以前、トダカの魔女の一撃事件の時は、他のスタッフだけで店を切り盛りすることになって、大変、苦労したのだ。
「わかったね? 娘さん。来週は里帰りだよ? 」
念を押すように言われて、はいはい、と、ニールも頷く。どうあっても、トダカは里帰りを敢行させるつもりなら逆らっても連れて帰られることは確定している。
「僕も一緒に帰るよ? トダカさん。」
「もちろんだよ、リジェネくん。」
作品名:こらぼでほすと 風邪6 作家名:篠義