こらぼでほすと 風邪6
そんな他愛もない話をしていたら、障子が開いた。やって来たのは八戒だ。手に何も持っていないのを、すかさず確認して、ニールは内心でほっとする。ダウンすると漢方薬を配達される可能性が高いからだ。
「あははは・・・ニール。漢方薬はありませんから安心してください。トダカさん、一家でゆっくりされてるみたいですが、ご一緒させていただいてもよろしいですか? 」
「どうぞどうぞ。きみの亭主は? 」
「宿六は、台所で強制労働です。今日は、おかんは休みなんだそうで、僕も追い出されました。」
あなたも、たまには休みなさいよ、と、マリューが八戒も追い出した。寺で他に行くところといえば、脇部屋しかない。
「ニールのお陰で、僕も楽させてもらえます。じゃあ、失礼して。」
みんながゴロゴロしているので、八戒も適当なところへ転がる。ストーブがあるから、畳に直に転がっても寒くはない。そこいらに転がっている雑誌を手にして八戒ものんびりモードだ。
そろそろ帰って来い、というメールがサルから届いたので、坊主も暇つぶしのパチンコをやめて帰途に着く。女房が換金せずお菓子に換えてこい、と、命じたのだが、換えられるだけのものはなかった。休日のパチンコ屋なんてものは、玉が出ないように調整されているから遊ぶぐらいが関の山だ。ということで、手ぶらでスクーターに乗って、さくさくと帰る。
日が暮れるのが早いから、すでに夜という暗さだ。山門を越えて家のほうへ入ったら、賑やかな声が聞こえている。
玄関を開けたら女房が廊下に顔を出した。『おかえりなさい。』と、口だけが動いている。
「換金したから荷物はない。」
一応、坊主もスッカラカンとは言いたくないから見栄を張る。女房は目を細めて、はいはいと頷いている。コートを脱がせてもらいつつ居間に入ったら、すでに宴会状態だ。ふたつのホットプレートでは、じぶじぶと餃子が焼かれているし、大きな鍋では水餃子が煮えている。他にも出来合いの惣菜やらサラダなんかが用意されている。
「休めたのか? 」
振り返って女房に尋ねると、にこにこと微笑みつつ、はいはいと頷いている。マスクを外して、『何もさせてもらえませんでした。』と、口パクするので、それならいいか、と、トダカの横辺りに座る。
襖を外して客間までテーブルを繋いである。餃子を焼いているのは、居間のほうで客間付近には、トダカと虎、鷹、ハイネ、沙・猪家夫夫あたりが陣取って酒盛りになっている。
「三蔵さんが戻ってきたから、もう一回、カンパイやるぞっっ。」
シンが音頭をとって、飲み物を回している。坊主には、リジェネが缶ビールを配達している。全員が飲み物を持ち上げると、キラが、「ママの風邪を餃子でぶっ飛ばせっっ、カンパーイッッ。」 と、派手に手を挙げた。おーと全員が声をあげて、飲み物を飲む。それが終わるとバトル再会だ。種類別の餃子はシャッフルされていて、どんな味が当たるかわからない闇鍋状態だ。たまに、ジャムが入っていたり、アイシャのカレーが入っていたりで、その度に、誰かが転がっている。それを肴に、大人組は酒を煽っている。
坊主の横は女房の席だ。そこには、おじやだとか玉子豆腐だとか柔らかい流動食が並んでいる。マリューが、ニールの前に新しい器を置く。ちゃんと、ニールでも食べられるブツだ。
「餃子スープよ? ノーマルだから。三蔵さん、ニールが動こうとしたら止めてね。今日は、何もさせないつもりだから。」
おかんは休め、と、ばかりに八戒とニールは、何もさせてもらえない。料理は、年少組が運んでくれるし、酒もなくなれば、じじいーずが注いでくれるという至れり尽くせりなことになっている。
「うわぁーなんじゃ、これっっ。キムチオンリーかよっっ。」
何やら引き当てたらしいシンが食べて、暴れている。キムチがぎゅうぎゅうに詰め込まれていたらしい。
「あれ? その程度なんだ。うーん、もっと火を噴いて欲しかったんだけどなあ。」
どうやら、作成者はキラらしい。当人は激辛にしたつもりだったが、激辛好きのシンでは軽く暴れる程度だった。闇鍋餃子の闇部分は、各人が、これというものを作った。だから、何が出てくるかはわからない。食べられる範囲で、と、限定はしたものの、とんでもないものが出てくる。
「これ、意外と美味いなあ。誰だ? リンゴ詰めたの? これ、美味いぞ? 」
アスランはヒットしたものの、意外とデザートみたいでおいしいらしい。
「リンゴはダメなのか。」
製作者はレイだったらしい。うーん、と、首を傾げている。レイにしてみたら、リンゴを酢醤油に浸したらインパクトがあるはずと予想していた。
坊主も配達された餃子を摘んだが、明らかに匂いがおかしい。おい、と、女房の口に投げ入れる。いつものことだから、女房も何気なく口にして、ぐふっと噎せた。
「チョコだろ? 」
しれっと坊主は正解を言い当てた。それを見て、ハイネが慌てているし、年少組も飛んで来た。水を飲ませようとサルがコップを運んで来る。
「何、やらかしてんだよっっ、三蔵っっ。ママにハズレを食わせるなっっ。」
ドスッッと容赦なく蹴りも入る。ちなみにチョコもキラの作だ。ホットプレートから直接ではないので、それほど熱くはない。とはいえ、想像していなかったから、ニールも慌てている。
「まあ、サンゾーさん。」
ほほほほ・・・と、アイシャが笑いつつ、無理矢理に坊主の口に新しい餃子を叩き込む。それは、アイシャのカレーだが、特に辛さを増量したブツだった。元々が激辛のブツに、さらに一味だの山椒だのをトッピングしたお仕置きバージョンだ。さすがに、なんでも食べる坊主でも、それには暴れている。うわぁーと寺の女房が慌てて、自分が飲んでいた水を渡している。
「ひやっははははは・・・いいなあ、アイシャさん。三蔵さんを瞬殺するってカッコイー。」
ハイネが拍手して褒め称えている。大概、坊主は動じないから、こういうのは珍しい。
「惚れ直すぞ、アイシャ。」
虎も、口笛を交えて拍手だ。そりゃもう、坊主の七転八倒なんてものは珍しいイベントだ。アイシャのほうは、亭主とハイネに投げキッスしている。で、ケケケケケと笑っていたキラが、シンの激甘餃子に噎せていたりする。
「あまぁー、なに? これっっ。」
「ノーマルの具にハチミツと砂糖のトッピング。いやったあーキラさんをダウンさせたぜっっ。」
今度はシンがガッツポーズだ。その隙に、寺の女房はマヨネーズを運んで来た。これに、水餃子を取り出してマヨと共に、亭主の口に放り込む。大丈夫ですか? と、様子を見ながら新しいのを準備しているが、亭主は一個で立ち直った。
「おい、それ、もうちょっと作れ。」
おいしかったらしい。皿の上の餃子に、こんもりとマヨがトッピングされているのを箸で食べている。
「あ、マヨ入りっていうのもあったんだ。思い浮かばなかったな。」
普通の人には、闇になりそうなものだ。アスランが、残念がっている。アスランは、あまり危険物ばかりもマズイだろうと、ポテトサラダを詰めたものやら、漬物を詰めたものという、至ってシンプルなものにした。
「てか、ママ? 三蔵さんの世話もしなくていいんだよ? 」
作品名:こらぼでほすと 風邪6 作家名:篠義