FATE×Dies Irae3話―4
慎二を背後にかばったまま、ライダーが言う。
「そもそもこの戦いは、彼女にあなたの力を見せつけるために仕掛けたもの。
あなたが優秀であり、有能であり、有益な存在であると知らしめるために。
で、あるならば、その目的はもう十分に達せられたはずです。
敗れはしたものの、私たちの力が戦力足り得ることは彼女も痛感したことでしょう。
それに十全とはいきませんでしたが、魔力も相当量集まりました。
これだけの蓄えがあれば、向こう一週間は今のステータスを維持できます。
何より、ここはまだ命を賭けるべき局面ではありません。
僭越ながら、私も彼女同様、撤退を進言します」
「くっ……!」
怒りと屈辱によるものだろう。
慎二はわなわなと頬を引き攣らせながらも、懸命にそれを呑み込み、
「ふ、ふん! まあそうだね。戦いの熱気に当てられてついつい熱くなっちゃったけど、もともとこっちは遠坂を斃したかったわけじゃないしね。今日のところは遠坂の顔を立てて、大人しく退くことにするよ」
凛に告げるというよりは自身に言い聞かせるように言い放ち、慎二は結界の解除を命じるべく口を開きかけた――その時。
「慎二!」
慎二の背後。
階段に続く曲がり角の向こうから、士郎とセイバーが遅れ馳せながら馳せ参じた。
「あら士郎。遅かったわね。手出しは無用よ。もう話はついたから」
状況は変わった。
アーチャーとセイバーの二人がかりなら、ライダーを瞬殺するのは容易いだろう。
だが、たとえ相手が敵であろうと、凛は一度結んだ約定を違えるつもりはなかった。
結界を解くなら見逃すと言った。
その言をこちらの都合で一方的に反故にするのは、遠坂凛の美感に反する。
「衛宮……! どうしてお前がサーバントを……!?」
慎二は驚いた様子で士郎を振り返っている。
「あら慎二。遊佐のことは知ってたのに士郎のことは知らなかったの? 見てのとおり、彼もマスターの一人よ。それに、私たちの同盟者でもあるわ」
「なん、だって……?」
慎二の表情が罅割れる。
「なっ……! バカ、凛!」
「えっ?」
狂気をはらんだ慎二の形相。
失策を責めるようなアーチャーの叱声。
凛には二人の反応の意味が分からない。
だが、自分が何かとんでもない地雷を踏んづけてしまったことだけは理解した。
「――れ、ライダー……」
地の底から響くような、昏く煮えたぎった声。
「やれ! ライダー! 衛宮とそのサーバントをぶっ殺せ!」
「…………」
主の命を受け、漆黒のサーバントは無言で双剣を振るう。
その切っ先を、己が首筋へと。
『なっ……!?』
常軌を逸したライダーの行動と、眼前で噴き上がるおびただしい血飛沫に、誰もが絶句し、凍りつく。
「バカな……自害だと……?」
「いや、違う!」
呆然と呟くセイバーの言を、アーチャーが鋭く否定した、その瞬間。
純白の閃光が、世界を一色に染め抜いた。
作品名:FATE×Dies Irae3話―4 作家名:真砂