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魔法少女まどか★マギカ~マギカ★parallel~ 第5話

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魔法少女まどか★マギカ〜マギカ★parallel〜

第5話「戦う覚悟」

午前5時、目覚まし時計も兼ねている携帯電話が机の上でけたたましい音を発し始めた。リッカは布団から這い出すと、うるさそうに携帯電話を黙らせた。とても静かだった。小鳥のさえずりと、車が走り去っていく音が時折響くくらいだ。

「そうか・・・パパもママもいないんだっけ・・・。」
リッカはひとり呟く。リッカの父親の出張に母親がついていくことになり、リッカはしばらく一人でお留守番だった。目覚ましの時間を1時間早めていたのもそのためだった。

リッカは自分の手を見る。左手の中指には銀色の指輪がはめられていた。指輪に埋め込まれた空色の石が薄暗がりの中で淡い光を放っていた。
指輪は何かの力でリッカの指にはめられている様であり、外せないようになっていた。しかし、着け心地は非常によく、指を締め付けられているような感覚はまったくなかった。まるで何もつけていない時と変わらなかった。

「・・・やっぱり・・・夢じゃないのね・・・。」
リッカはため息をついた。朝起きたら、何もかも元通りになっているかもしれない、などとという幼稚な期待は実に簡単に裏切られた。リッカは布団から這い出すと、いつも通りに学校に行く準備を始めた。顔を洗い、髪を整え、制服を着る。そして階下のキッチンに降り、コーンフレークに牛乳をかけて食べる。使った皿を洗い、歯を磨く・・・。

とにかく何かしていないと落ち着かなかった。余計なことを考えたくはなかった。心にぽっかりと穴が開いてしまったような気がした。
ほむらには「やる」と言ったものの、やっぱり怖かったのだ。できれば現実を受け入れたくはなかったのだ。
早く起きて黙々と動いたせいか、いつもよりかなり早く朝食やその他を終えてしまい、あとは学校に行くだけとなった。
リッカが日ごろ登校する時間よりも1時間も早かった。

リッカは学校に向かった。いつもよりも1時間も早い登校だった。通学路にはまだ人気は少なく、時折体育会系のクラブに所属しているらしい生徒が足早に通り過ぎていくくらいだった。リッカの足は自然と通学路から少し外れたところにある小さな公園に向いていた。この公園はリッカが幼いころから、辛いことがあるとよく来ていた場所だった。住宅街の中にあるこの小さな公園には、小さな池と大きな桜の木があった。

リッカがアメリカから見滝原にやってきたのは彼女が9歳、小学校3年生の時だった。異国の地からいきなりやってきた金髪碧眼の、まるで西洋人形のような女の子は、外国人慣れしていないクラスメイトから驚きと戸惑いを持って迎えられた。心無いいじめに会うことも少なくなかった。今と違ってそのころのリッカは気弱で非常におとなしい、あまり口数の少ない、まさに「お人形さん」のような女の子だった。両親や先生を心配させたくなかったので、辛いことがある度、リッカはこの公園にやってきては、目に涙をいっぱい浮かべて、池に石を投げ込んでいた。そんな辛いことが続いていたある日、いつものようにひとり池に石を投げ込んでいるリッカに声をかけたのは近所に住んでいた同級生の朝倉姫乃と秋山さらだった。この2人の親友との出会いがリッカを変えたのだった。次第にリッカは今のような明朗活発で親しみやすい性格になっていった。また、リッカはスポーツと勉強に誰よりも一生懸命に打ち込むようになった。リッカは気弱な自分が嫌いだった。そんな自分を変えて、自分に自信を着けたいと思ったからだ。努力を重ねるうちに勉強もスポーツも、人並み以上の域に達した。もちろんリッカに才能がなかった訳ではないが、リッカを成長させたのは彼女自身のたゆまぬ努力だった。それはリッカに自信を与え、何事からも逃げない、逆境にも敢えて立ち向かっていく勇気と負けん気の強さも与えたのだった。リッカは2年ちょっとでいじめを完全に克服した。それどころか、今や文武両道しかも容姿端麗。明朗活発で親しみやすい性格の彼女を悪く言うものはどこにもいなかった。去年、憧れの風見ヶ丘学園中学校に親友の姫乃とさらと一緒に合格した時には3人で抱き合って大泣きした。リッカの学校生活は順風満帆だった。

閑話休題、ともあれリッカは少し昔のことを思い出していた。自然と目には涙がにじんでいた。

「やっぱりここにいたのね。芳野リッカさん」
いきなり後ろから響いた声に、リッカは驚いて顔を上げた。声の主は姫乃だった。そこには2人の親友、朝倉姫乃と秋山さらがいた。

「いつもの場所に来ないから、もしかしたらここかな、って思ったけど。やっぱりここだったのね。何かあったの?」
さらはリッカの隣に座った。

「い、いや、何でもないわ。ちょ・・・ちょっとね・・・。」
リッカは慌てて笑顔を取り繕った。

「バカね。あたしたちが何年あなたを見て来たと思ってるのよ?何でもないのにあなたがここで石投げをやってるわけないでしょ?」
姫乃はリッカをまっすぐ見据えて言った。

「そうやって一人で何でも抱え込もうとするところ、リッカの悪いところだよ。私たちがいるんだから、私たちでよかったら何でも相談にのるよ?」
さらはリッカを優しく諭すように言う。

自分をいたわってくれる2人の親友の親友の存在に、リッカは心から感謝し、そして感激した。でも、どうしても昨日の出来事を二人に話すわけにはいかなかった。
まるでアニメか映画の中の出来事のような昨日のムチャクチャな出来事でも、この2人なら信じてくれるだろう。いや、リッカが目の前で変身して見せれば、誰だってリッカの話を信じざるを得ないかもしれないが。だが、昨日の迷い込んだ結界、魔女、そして魔女と戦う魔法少女の姿のことを考えると、こんな恐ろしいことに自分の誰よりも大切な親友を巻き込みたくはなかった。

「・・・実は昨日の夜、本当に嫌な夢を見ちゃって・・・、それで少し昔のことを思い出しちゃったの・・・。それで・・・なんか辛くなっちゃって・・・」
それは半分嘘で、半分本当だった。昨日の出来事はリッカにとっては嫌な夢の中のような出来事だったからだ。

姫乃はリッカの隣に座り、リッカの肩を叩いて笑いながら言った。
「へぇ。リッカでもそういうことってあるんだ?大丈夫だって。どういう夢かは知らないけど、夢は夢でしょ?そんなもん気にしてどうなるのよ?」

「疲れてるのよ、リッカ。ここのところ忙しかったもんね。頑張るのはいいけど、まだ新学期が始まったばっかりよ?そんなんじゃもたないわよ。」
さらも言う。

友人に嘘をついた罪悪感もあったが、それは友人を面倒に巻き込みたくない一心でもあった。リッカはベンチから立ち上がった。
「姫乃、さら、本当にごめんね!心配かけて・・・私・・・何してたのかな?ホント、私らしくもない!ありがとう二人とも、元気が出て来たよ。」
嘘ではなかった。二人の親友はリッカに元気と気力を取り戻させてくれたのだった。切り替えの早さはリッカの長所の一つだった。

「そう?ならよかった。何かあったら相談してよね?私たちでよければ、さ?早くいこ、遅れるよ!。」
「まったく、リッカといると本当に退屈しないわ・・・。」
2人の親友は立ち上がって、学校へ向かった。