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Following the dream

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砂の王国、アラバスタを出てからどれくらい経った時だったか。
まだ続いていた一人旅の途中、海の真中で見付けてしまった一隻の船。
もしやと思い、炎を消し小さな船を止めて双眼鏡を取り出す。
頭の上でギラギラと輝き、次第に夕日の赤味を帯びてきた太陽を反射させないように注意しながら、レンズを遠い船へ向ける。
この距離であの大きさ。割とデカイ。
見える白い帆には、思った通りのカモメの印。
間違いない、あれは――あの男の母船。
見慣れないもう一隻のカモメ印の海軍船もその後方に見える。
船に見える人影に目を凝らすと、――いた。

白猟のスモーカー。

相変わらず葉巻を纏めて二本も銜えながら、偉そうにふんぞり返ってやがる。


「…なーんでこう言う時に見付けちまうかねぇ…。って、どう言う時だっつーの」


思わず洩れた呟きに、思わず自分でツッコミを入れる。
別に、淋しかった訳じゃない。
淋しいなんて思う筈もない。
目的はどうであれ、一人旅も悪くはないもんだ。
だから別に、会いたいとか思った訳じゃない。
当然だ。相手は海兵。自分は海賊。
会いたい訳がない。
ただ少し、あの砂の国からちょっと気になっていた。
それだけだ。

何だか自分に言い訳してるみたいに考え巡らせながら再び双眼鏡を覗き込むと、あの男に近付く細い影が一つ。
あの男と同じ様に背中に「正義」の二文字を背負った、鮮やかなピンクの長い髪。
の、随分な美人が、あの男と仲良さげに話してる。
とは言え、オッサンの仏頂面は変わらなかったけど。
直ぐにピンク髪の美女は離れ、視界から消えた。
やがて後方の海軍船がゆっくりと遠ざかり始めた頃、今度は違う細い影が男に近付いた。
今度は男が呼び寄せたらしい。黒髪ボブヘアで眼鏡の、割と可愛い子。
あれは確か…あの男の部下だった筈だ。


「…って、だからさ…何で俺はデバガメみてぇな事してるんだよ…」


双眼鏡覗き込みながらツッコミ入れたって、説得力も何もないのは解ってる。
けど、久し振りのあのオッサンから、目が離せなかった。
呼び寄せられた黒髪眼鏡ちゃんは、男に敬礼すると颯爽と甲板から姿を消した。
それを見送ってた男が、不意に。
振り返ったんだ。
こっちを。
双眼鏡越しに、目が合った。
ような、気がした。
から、驚いて双眼鏡を外した。
改めて遠い船を見て、双眼鏡を覗いていた目を瞬かせる。


「まさか…なぁ? いくら何でも、この距離で見える訳…」


ある筈ない。
双眼鏡が光ったか?
それにしたって。
目が合った、と思うほどピンポイントなんて、有り得ない。
心臓が、止まるかと思った。一瞬。
小さな船の、狭い操縦席に力が抜けたように座り込む。
気付かれただろうか。
全く、心臓に悪いオッサンだ。
気付けば太陽は海にその姿を隠し始めていた。





日が暮れて、夜の凪。
静かな月が真上に来るまで待った。
昼間見た海軍船は今も動かずそこに停泊している。
それを伺うような小さな船もまた動いていない。
波の音すら静かになった頃、小さな炎を灯して小さな船は動き始めた。
暗闇の中、その炎が目立たないように注意しながら。
大きな母船の真下まで到着すればもうこっちのもの。
灯台下暗しってのは、この事だ。
真下に船を着ければ、大方見付かる事はない。
真下ってのは、一番見難いから。
船を固定させてから真上の人の気配を探り、人気がなくなってから一気に母船に飛び移る。
案の定、辺りに人影はない。
後はまた気配を感じ取りながら、ただの勘。
内部は面倒だから、外壁から一番上の開け放たれた窓を目指した。
マストの上の見張りに見付からなきゃいいんだが。


「…っよ、と」

「矢張り来やがったな、珍客が」


…驚いた。
このオッサンに驚かされるのは、今日二度目だ。


「気付いてた?」

「お前だとは思わなかったがな、ポートガス。…いや、来るならお前しかいねぇ、か。何しに来やがった?」


ここはもう敵の懐。
乗り込んどいて今更ジタバタしても仕方ない。
窓縁に乗ったままテンガロンハットの縁を押し上げて、薄暗い部屋の奥のベッドに座る姿にニッと笑って見せた。


「たまたま母船を見付けたんで、ちょっとご挨拶に?」

「ご挨拶…か。お前がそんなタマか? 自首でもしに来たのかと思ったぞ」

「まさか。そりゃゴメンだって、前にも言ったろ?」

「じゃあご挨拶ついでに、大人しく捕まっていけ」

「……海軍に? それとも、海軍大佐のアンタ個人に?」

「今は准将だ。…そんな所にいると見付かるぞ。来い…エース」

「そりゃ失礼、准将。………」








作品名:Following the dream 作家名:瑞樹