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夢と夢の間

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全員の視線が、四人の男に向けられていた。
その場に座り込み、佇み、自らも傷だらけで血に塗れていてもそれを拭おうともせず、ほんの僅かな一瞬でも目を逸らさないように。全てを見届けるために。
そうだ。俺たちは見届けなくてはいけない。
その義務がある。
今まで関わった全ての人たち。
例え敵であろうと、俺たちが傷付けてきた者たちのためにも。

俺たちと肩を並べ、同じ船で旅をし、苦楽を共にした仲間が、世界一の称号を手に入れる瞬間を。
俺たちが命を預け、守り、共に戦ってきたキャプテンが、この世の全てを手に入れる瞬間を。

どれ程の時間、こうして戦い続ける男たちを見詰めただろうか。
もう既に数日が経った気もするし、まだたった数時間しか過ぎていないような気もする。
しかしそれは急に訪れた。
波は静まり、風も止み、辺りが急に静まり返る。
鳥や獣の声も気配も、風が梢を揺らす音すら聞こえない。
耳鳴りすら感じるような静寂の中、全てはその一瞬で終った。
俺たちが見詰める先に最後に立ったのは、麦わら帽子を被った男と刀を三本持った男の二人。
その瞬間、刀を持った男は世界一の称号を、麦わら帽子を被った男はこの世の全てを手に入れた。
見守り続けた俺たちは、次の瞬間彼らの名を叫んで走り出した。
自らの傷から来る痛みなど微塵も感じない。
ただ彼らの名を叫んで、今にも倒れそうな彼らに走りより、その身体を支えてやる。
多量に血を流し、息が上がる彼らを俺たちは必死に抱き止めた。
『おめでとう』も『やったな』も何もいらない。
ただ、『お疲れさん』だけを込めて、彼らの身体を抱き締めて労ってやる。
それが長年連れ添った仲間への最大級の祝辞である事を、この場の誰もが知っている。
傷の痛みと流血、空腹と疲労。その中で誰もがただ嬉しそうに笑うだけだった。

傷付いた互いの身体を支え合い、俺たちは俺たちの船を停泊させているのとは反対側の入り江を目指してゆっくりと歩いた。
さっき感じた静寂は止み、今は爽やかな風が木々を揺らし、島を囲う海から波の音が聞こえる。
この波の音がいつでも海で暮らした俺たちのBGMだ。
時には悲しく、時には怒りを。そして今は最高の喜びと労りと祝いを告げてくれているようだ。
そんな波の音を懐かしく感じたりしながら、俺たちはやがて小高い丘の上に出る。
そこはほぼ島の中央のようで、後ろを振り返ればこれまた懐かしく感じる俺たちの船が小さく見えた。
そして正面を向いて眼下に広がる海を見た時、俺は息を飲んだ。

何と言う、蒼――。

今まで見た事もない青が目の前に広がっていた。
ノースブルー、イーストブルー、そしてグランドライン。
そのどれとも似ていて非なる青。
こんな色の海などあったのか…いや、有り得るのか。
グランドラインの果ての果てであるこの場所が何なのか、俺には直ぐに解った。


「…オールブルー…」


辿り着いた。
命を預けた船長が、この世の全てを手に入れたその時に。
共に戦った大事な仲間が、世界一の称号を手に入れたその時に。
俺もまた、俺の夢を叶えたんだ。
世界中の海と繋がって、世界中の海の魚が集まる、オールブルー。
誰に聞いて確かめなくても、俺には解る。
この場所こそが、俺の捜し求めていた――…。

その海を呆然と見詰めていた俺に、肩を貸していた『世界一』の男が笑いかけた。
血塗れのその顔で。
剣士ではない、俺しか知らないあの顔で。





 ◇◇◇◇◇





「なぁ、ジジィ。俺、海賊になってオールブルー見付ける夢見たんだぜ!」

朝起きて、コックコートに着替えた俺は帽子も被らず厨房にいるクソジジィの元へ走った。
既に仕込みを始めているジジィに、俺は飛び付くような勢いでさっきまで見ていた夢の話を自慢気にしてやった。
俺は絶対見付けてやるんだ、オールブルーを!
海賊…になるかどうかは解んねぇけど。
絶対にあの夢を正夢にしてやるんだ!
…海賊…は…やっぱり解んねぇけど。

「海賊だぁ? テメェが海賊なんざ百万年早ぇ。下らねぇ事言ってねぇで、さっさとそこのジャガイモの皮でも剥きやがれ」

ジジィはしゃがれた声でいつものように俺を一睨みすると、床に置かれたザル篭に山積みされたジャガイモを顎で示した。
まるで取り合ってくれない。
クソジジィめ。
テメェだって海賊だったクセに。
テメェだってオールブルーを探してたクセに。
今だって、きっとオールブルーを探しに行きたいと思ってるクセに…。
その夢を、俺が奪った。
だから俺がジジィの代わりに、オールブルーを探してやりたいのに。
いつか見付けたら、バラティエの二号店を開いてジジィを招待してやりてぇのに。

「…百万年も待ってたらテメェがくたばるじゃねぇか、モウロクジジィ」

背を向けて鍋のスープを掻き混ぜるジジィに向って、俺は小さく悪態を吐く。
それでもモソモソと手に持っていたコック帽を被ると、俺は自分の包丁を取ってジャガイモの山の隣に座り込む。
いつまで経っても調理の下準備しかさせてくれないジジィに心の中で舌を出し、ジャガイモを一つ手に取ってスルスルと皮を剥いていく。
自分の手元を見下ろしながら、夢の中で見た美しい青を思い出していた。
あんな海が、この世のどこかにきっとあるんだ。
世界中の海と繋がっていて、世界中の魚が集まる夢の海。
あの場所を見付けて、あの場所で店を開いて、世界中の魚で世界中の料理を作るんだ。
コックなら誰でも一度は夢見る海。
そしてある筈がないと絶望する夢。
でも俺は、絶対に諦めたりしねぇんだ!
あの海は、俺の夢の中だけにあるんじゃねぇ。
絶対にこの世のどこかにあるんだ。
あの海を俺は絶対に見付けてみせる。
…俺一人じゃ、見付けられないんだろうって思うけど。
夢に出てきたみてぇなあんな仲間がいたら、きっと見付けられる。
だってあの『この世の全て』を手に入れた船長と、『世界一』を手に入れた男は物凄く強かった。
あんな仲間がいたら、どんな海でもきっと渡っていける。
…も、もちろん俺だって強ぇけどな!!
あんなやつらに負けねぇくらい、俺だってこれから強くなるけどな!!
そしたらジジィだって認めてくれるんだ。
その頃には料理だって一流の腕で、ジジィより強くて、そんでオールブルーを見付けるんだ。
でも…本当に探しに行けるのかな。
あんな仲間に出会えるのかな。
目が覚める直前に見た、剣士の男が見せたみてぇな、あんな風に笑ってくれる仲間と、俺は出会えるのかな…?





 ◇◇◇◇◇





「…ンガッ」

急に直ぐ隣で…と言うより耳元で聞こえた鼾に、俺はビクリと身体を震わせて目が覚めた。
音の方を向いて見ると、ゾロが盛大に鼾を掻いて寝ている。
その顔は振り返った俺の直ぐ真横にあって、寝起きの俺はその近さに少し驚きながら起き上がろうとする。
が、重いものがそれを邪魔している。
見れば太いゾロの腕が俺の腰に巻き付いていて、身じろげばその腕は俺を離すまいとするように力が込められてしまう。
普段はスカした顔してやがるクセに、寝入ると途端に甘えたモードだ。
ずっと寝てりゃ可愛気もあるのに。
いやいや、それより何より重てぇだろ。
作品名:夢と夢の間 作家名:瑞樹