夢と夢の間
ずっとこんなされてたら、俺が身動き取れねぇっての。
腰に巻きついてるゾロの腕を無理矢理どかせて、俺は起き上がった。
たぶんまだ真夜中。妙な時間に目が覚めちまった。
いや、いつも起きる時間より早めに部屋を出てシャワーを浴びないとマズイから、早めに目が覚めて良かったのか?
一先ず一服しようと、傍らに脱ぎ捨てられている服に手を伸ばして引き寄せる。
ポケットの定位置に入れられている煙草を探り出し、白筒を唇に挟む。
寝ている間、ゾロの高い体温が隣にくっついていたから気付かなかったが、ゾロと離れて起き上がると船室内とは言え裸のままでは少し肌寒い。
互いの身体に掛けていたブランケットをゾロの肩に掛け直してやり、俺は俺のシャツを肩に羽織った。
火をつけた煙草の煙が静かに立ち昇り、暗闇に浮かぶ紫煙をぼんやりと眺める。
何だか懐かしい夢を見ていたような気がする。
バラティエの…ジジィの夢だったか。
でもそれだけじゃないような気もする。
もっと懐かしい…でも俺の中にずっと大切に仕舞いこんでいた、何か。
オールブルーの夢と一緒に大切にしてきた、何か。
ジリジリと白筒が燃える微かな音と漂う紫煙を感じながら、俺は今見ていた夢を思い返してみる。
断片的にしか出てこないそれは、記憶に強く残るバラティエの厨房とジジィの姿。
俺はまだガキで、調理もまともにさせてもらえてなくて…。
そうだ、ジジィにオールブルーの事を話したんだ。
でもジジィは取り合ってくれなくて。
百万年早ぇ、とか言われたんだ。
クソジジィ、あれからもう百万年経ったのかよ?
…て、何が百万年早ぇって言われたんだっけ?
オールブルーを探すのが、か?
いや、何か…もっと違う事…。
もっと違う事に対してそう言われたんだろうけど、夢の中のガキの俺はジジィが言うのともまた違う何かに対して憧れみてぇなモンを感じたんじゃなかったか?
考えてみてもそれがなんだったのか、思い出せない。
いつの間にか短くなって灰ばかりを穂先に溜めた煙草を、俺は床で乱暴に揉み消した。
クソ、思い出せねぇ。
思い出せねぇとなると、余計に気になる。
だんだんとイライラしてきた。
「…ンゴ…」
また聞こえた鼾。
隣を見下ろすと裸で太平楽に寝てやがるゾロがいる。
不意に。
その寝顔と何かが重なった。
重なったそれは、今よりずっと大人びて精悍で、でも血塗れで。
それでも俺に向けた目だけは酷く優しげな…コイツの笑った顔だった。
今から何年後の事か解らない。
夢を見たガキの俺が、あれから何年後にコイツらと出会ったかも解らない。
でも確かに俺の中に、オールブルーの夢と共に大切に仕舞ってきたもの。
「…テメェ、昔も今も勝手に人の夢に出てくんじゃねぇよ」
小さく呟いた悪態は、笑いに震えた。
ゾロの頭の横に手を付いて、真上からゾロを見下ろす。
相変わらず、気持ち良さそうに寝てやがる。
その唇に、そっと自分のそれを重ね合わせた。
END