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FATE×Dies Irae3話―6

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「見事――実に見事。流石は流石、謳われし伝説に恥じぬ、まこと華々しい歌劇だった。ああ、魅せられたとも。胸震わせたとも。そうだろ諸君? 獣の爪牙たちよ。ならば我らも応えねばなるまい。偉大なる先達たちが、かくも鮮烈に魅せてくれたのだ。ゆえに、今ここに開幕を告げよう。ここより先は、我らがグランギニョル(恐怖劇)だ」
 

      ◆◆◆


「ひゃ――っ!?」
 慎二は、にわかに火に包まれた魔道書を慌てて投げ捨てた。
 偽臣の書が燃え落ちる。その意味するところを察した慎二の顔が、愕然と蒼褪める。
「そんな……!? 負けたって言うのか、ライダーが……!?」
 訳が分からない。
 一体どうしてこうなった?
 ついさっきまで、確かにライダーはセイバーを圧倒していたのだ。
 後はとどめを刺すだけというところまで追い込んでいたのだ。
 それがなぜ、こんなことに……?
 勝利の絶頂から敗北の奈落へといきなり突き落とされた慎二は、ただ呆然とその場に立ち尽くし――


「――見つけた」


 冷ややかな怒気を孕んだ少女の声に、びくりと、ようやく我に返る。
「――っ!? 遠坂……!」
「ライダーが天馬を解放してから私たちがその姿を確認するまで、タイムラグはかなり短かったからそう遠くには下ろしていないだろうと思ってたけど、まさかこんな近くに潜んでいたとわね。おかげで探す手間が省けたわ」
 通いなれた校舎の屋上で、二人のマスターが対峙する。
「遠坂……! さっきのアレはお前の仕業か!?」
 黒衣のサーバントがセイバーにとどめを刺そうとしたまさにその瞬間、突如噴き上がった炎がライダーを呑み込み、彼女の姿を忽然と校庭から消し去ったのだ。
 直後に動揺の気配を見せたことから、セイバーの仕業とは考えられない。
 だとしたら、答えは一つ――
「ええ、あれはアーチャーがやったのよ。それにしても驚いたわ。あいつの宝具が、まさか固有結界だったなんて。ほんと、何者なのかしら、あいつ」
「遠坂……!」
 慎二の顔が赤黒く染まる。
 込み上げる怒気と憎悪が、敗北の絶望を塗り潰す。
「卑怯じゃないか!? あれは僕と衛宮の決闘だったんだぞ! なのに二対一でかかってくるなんて……!」
「あら、何を言ってるのよ慎二? もともと闘ってたのは私とあんたのはずよ? それをそっちが勝手に矛先を士郎に変えただけじゃない。それに言ったわよね? 大人しく引き下がるなら、この場は見逃してあげるって? 引き下がらなかった以上、私があんたをどうするかなんて、そんなの分かりきってたはずでしょ? さて――」
 ガント(魔力)を湛えた凛の指先が、すっと慎二へと向けられる。
「ひっ……!」
「無駄話はここまでよ慎二。さあ、さっさとこの結――」
「ま、待て! やめろ遠坂! ライダーは死んだ! もう決着はついたはずだろ!? なのにまだ、僕を攻撃しようって言うのか!?」
「えっ……?」
 凛の顔色が変わった。
 慎二へと向けられていた指先が、かすかに揺らぐ。
 命乞いが功を奏した――わけではない。
「慎二……あんた今、何て言ったの?」
「ひっ……! だ、だから! もう決着はついたって――!」
「その前よ! ライダーは死んだ? そう言ったわよね?」
「あ、ああ! そうさ! それがどうしたって言うんだ!?」
 凛は、いよいよ深刻げに眉間をしかめ、


「だったら、この結界は何なのよ?」


「えっ……?」
 指摘を受けて、ようやく気づく。
 辺りは未だ血の色に染まったまま、魂喰いの結界は今この時も学校の敷地を覆っていた。
 けれど、それはあり得ない。
 結界はライダーが張ったものだ。
 ライダーが死んだ以上、解けて消えるのが道理である。
 ならばライダーは健在なのか?
 否、それもあり得ない。偽臣の書の焼失が、はっきりとサーバントの死を物語っていた。
 だが、そんなこと、凛が知るよしもなく――
「……下手な芝居はそこまでにしなさい。あくまでライダーに結界を解かせる気が無いって言うんだったら、この場であんたの命を奪わせてもらうわ」
「や、やめろ! 本当だ! 本当にライダーは死んだんだ! 僕は知らない! こんな結界! 分からないんだよ、本当に! だから――!」
 

「ああ……うるせえな」


「がっ……!?」
 必死の懇願は、胸郭を貫く、焼けるような激痛に遮られた。
 がくりと俯いた慎二の目に、背後から己の心臓を串刺しにしたものの姿が飛び込む。
 杭。真っ赤な杭だ。
「久方ぶりのシャバだっつーのに、まっさきに耳に飛び込んできたのがみじめったらしい野郎の悲鳴じゃ、テンション下がるだろうが。黙れよカスが」
 杭がズルリと引き抜かれる。
 支えを失った慎二の身体は、力無く崩れ落ち――
「――――」
 ありえないほど巨大に迫った真っ赤な満月が、仰向けに倒れ伏す慎二の視界に映り込む。
 それが、死に際に間桐慎二が見た、最後の光景だった。
作品名:FATE×Dies Irae3話―6 作家名:真砂