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りんはるちゃんアラビアンパロ

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顔はあいかわらず見えない。
見えないというよりも、見せないのだ。
見られたくないのだろう。
ハルカはさっきと変わらない声で言う。
「顔をあげろ」
「嫌だ」
「顔をあげろと言っている」
「だから、嫌だって言ってんだろ」
乱暴な口調で断られた。
ハルカの目つきが鋭くなった。
そして。
リンの顔のほうに手をやった。
実力行使に出ることにした。
「おい……!」
リンが声をあげた。
それを無視して、ハルカはリンの顔を上向かせる。
やっと、顔が見えた。
予想していたとおりだ。
揺れる瞳。
その眼は潤んでいる。
頬には涙のあとがあった。
泣き顔、だ。
「バカだな、おまえ」
つい、そんな言葉がハルカの口から出た。
この宮殿を訪れたとき、しばらくして、身分の高そうな者があらわれて、国王は友人の処刑を見届けたあと私室に行ったとハルカに伝えた。
さらに、国王を頼むと言った。
商家の娘でしかないハルカに頼んだのだ。
宮殿内の他の者たちも協力的だった。
「おまえはバカだ」
自分がどれほどまわりから心配されているのか、わかっているのだろうか。
「それに、大きな夢を語るロマンチストだ」
どれほどまわりから愛されているのか、わかっているのだろうか。
「それから、泣き虫だ」
リンが反乱を鎮圧するために自ら軍を率いて出陣したのは、信頼を裏切られたことに対する怒りと報復のためではなかったのだろう。
まわりの者たちはリンを気遣い、この件になるべく関わらせないようにしようとした。
だからこそ、リンは友人を討ちに行った。
事態から眼をそむけて、逃げれば、国王としての示しがつかないからだ。
だが、その結果、今、こんなふうに泣いている。
本当にバカだ。
「うっせぇよ!」
そう断ち切るようにリンは言うと眼をそらした。
これが、この国の王の顔。
情けないように思う。
でも。
ハルカはその顔のほうへ自分の顔を近づけていく。
間近まで行って一瞬ためらう気持ちが胸にわいたが、それを押しきって、相手の唇に自分のそれを落とした。
それから、すぐに離れた。
やってみると、結構、いや、かなり恥ずかしかった。
ハルカはリンの顔を見ないようにして、言う。
「おまえの心が痛んでいるのなら、その痛みに触れさせてほしい」
口下手な自分の言える最大限の言葉。
「その痛みをわけてほしい」
苦しんでいるなら、悩んでいるなら、話してほしい。話さなくてもいいから、黙っていてもいいから、自分を頼ってほしい。
泣き顔を隠してもいいが、それを受け止めさせてほしい。
どうしてそんなふうに思うのか、わからない。
いや、本当は、もうわかっている。
リンの手が顔のほうに伸ばされてきた。
近づいてくる。
顔。
「眼、閉じてくれ」
低い声。
その声が妙に耳に甘く響いた。
もう相手の呼吸を感じる距離だ。
自分の鼓動も相手に伝わっているかもしれない。
唇に重ねられる。
やわらかな感触。
さっき自分がした、ぎこちないのとはぜんぜん違う、キス。
体温が上昇する。
熱くなるのは好きじゃない。
だが、止めなかった。
舌が口内に入ってきたときには驚いて身をひきかけたが、リンが逃がさなかった。
結局、奥まで侵入をゆるした。
身体が熱い。それなのに、気持ち良く感じる。
頭がくらくらする。
ようやくリンが少し離れたとき、逆にハルカは身体を押しつけた。正確には、もたれかかった。
みっともないことだが、腰が抜けたようになっていた。
リンの手が背中にまわされた。
抱きしめられる。
それを優しく感じた。
少しして、リンが動いた。
ハルカを抱いて、立ちあがる。
きたえているからだろう、軽々と運んでいる。
ハルカは戸惑う。
なにが起きている。
なにが起きる。
運ばれた先は、広々とした寝台だった。
やわらかな場所にあおむけに置かれて、見あげると、そこにリンの顔があった。
迫ってくる。
ふたたびキスされる。
まだ体温がさがりきっていない身体がまた熱くなってくる。
キスのあと、それでもリンの顔が近くにあった。
「ハルカ」
低くて、甘い声。
名を呼ばれただけなのに、首筋がぞくりとした。
眼をぎゅっと閉じる。
服の下からリンの手が入ってきたのを感じた。
ふだんは見せない場所にある肌に触れる男の手のひら。
ビクッとした。
思わず、ハルカの手が動いた。
リンの手を止めていた。
すると、リンは固まったように動かなくなった。
それからしばらくして、リンはため息をついた。
「………………わかった、これ以上はしねぇよ」
そう言われて、ハルカは正直ほっとした。
認めたくないが、なんとなく恐かったのだ。
「今は、だけどな」
リンが不満そうに付け足すのを聞きつつ、ハルカはリンの手を離した。
「それと、今日はここに泊まっていけ」
リンが命じる。
「それぐらい、いいだろ」
それぐらいと言っていいことだろうかとハルカは考えたが、この状況で止めた自分に少しは非があるような気がしたので、リンの要求に応じることにする。
リンがハルカの隣に身を横たえた。
広々とした寝台なので、二人が寝ていてもまだ余裕がある。
余裕はあるのだが、ハルカは身体の向きを変え、リンに背を向ける。
すると、リンの腕が身体の上にまわされてきた。
背中から抱かれる格好になる。
「あー…」
リンが妙な前置きをしてから、言う。
「大丈夫だ。大切にするから」
それを聞いて、ハルカはまぶたを閉じた。

朝が来たのを感じて、目覚めた。
隣にリンがいるのに気づき、ハルカは昨日のことを思い出した。
リンも眼をさましていた。
声をかけてくる。
「おはよう」
「……おはよう」
それから、ふたりそろって寝台から起きた。
ハルカはお腹が空いているのを感じた。
そういえば、昨日、夕飯を食べなかった。あの状況だから、食べそびれてしまった。なにか食べたい。
そんなことをハルカが思っていると、リンが伸びをしながら言う。
「あー、腹へった」
自分と同じくリンも夜なにも食べていない。従って、自分と同じ状態で、自分と同じことを思っているらしい。
部屋の外に出る。
朝陽を浴びた中庭が美しい。
リンと肩を並べて、回廊を歩く。
宮殿で働いている女性と出会った。
その女性はぱっと顔を輝かせた。
「おめでとうございます!」
「?」
なぜ祝福されるのか理解できず、ハルカは小首をかしげた。
なにかわかるかと思ってリンのほうを見る。
しかし、リンは気にしていない様子で歩いている。
それから行く先々で出会うひとびとから、祝福の声をかけられた。
ひとびとの笑顔がまぶしい。
この光景をどこかで見たことがある。
どこだったか。
ああ。
ハルカは思い出した。
結婚式だ。
自分が呼ばれたときなどに見た、新郎新婦に対する周囲の様子がこんなふうだった。
ハルカは立ち止まり、隣にいるリンに硬い瞳を向ける。
「……まさか、おまえ、これを狙ったのか?」
そう問いかけた。
宮殿のひとびとは勘違いしている。
リンがハルカにキス以上のことはしていないとは思っていないようだ。
無理もない。一晩、同じ部屋で過ごしたのだから。
こんな状況になったのは、リンが泊まるよう言ったからだ。
あの時点で、リンはこうなることを計算していたのではないか。