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あなたの惚気が世界を救う

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二次会の会場はしゃれたレストランだった。幹事の知り合いがオーナーを
しているそうで、今日は貸し切りだと言う。皆思い思いの席に陣取り、
好きな酒を飲んでいた。
カウンターに座り、マリクはウィスキーを頼んだ。酒はじっくりと楽しむ物だと言うのが、
マリクの持論だ。

「アルシャイフ、隣いいか?」
「ああ。久しぶりだな」

隣に座ったのは、元クラスメートの男だった。特に親しくつき合っていたというわけでは
ないが、彼も静かに飲みたいだけなのだろう。もうとっくに出来上がっている奴がいる
らしく、部屋の向こう側で笑い声と歓声が上がった。

「・・・なあ、今なにしてるんだ」
「何って・・・会社勤めだ。マシャフに勤めている。お前は?」
「俺も会社勤めだよ。毎日疲れるよな」
「・・・ああ、そうだな」
「恋人がいるってアッバスに聞いたんだが・・・本当か?」

アッバスを心の中で激しく罵りながらマリクは顔で平静さを保ちつつ答えた。

「ああ、本当だ」
「・・・どんな女だ?」

マリクは嘘をつく事にした。頭の中でアルタイルを女性に仕立て上げる。

「どんなって・・・そうだな・・・結構無口だが・・・積極的だ」
「スタイルは?」
「結構、引き締まっているな・・・美人かもしれん」
「かもしれんって、自分の恋人なのにわからないのか?」
「他に比較対象がいないんだ。心から愛しているのは・・・そのう、彼女だけだから」
「そうか・・・なんかこう、欠点はあるのか?」
「欠点?欠点はそうだな・・・時々、あまりに積極的すぎて退くな。しかし、
俺の事を愛しているからだと言われると何も言えなくなるな」
「そのスーツ似合うな。彼女の見立てか?」
「ああ。俺が結婚式に出ると聞いてどこかから出して来たんだ。・・・気にしなくて
いいのに。収入は俺より上だけど、大学生の弟が二人もいるんだし・・・・・・。
後な、時々俺に関してはわがままになるんだ。今日だってせっかくの休みなのに
一緒に過ごせないなんてとふくれていた。明日埋め合わせはすると約束したが」
「・・・そうか。幸せそうだな」
「まあな。色々あったが、彼女を愛している事に気づいてからは・・・世界が
もっと暖かくなった気がする」

アルタイルはちゃんと夕飯を食べただろうか。トイレに行ったら携帯にかけてみようと
マリクは思った。それとも、さっさと切り上げて帰るのもいいかもしれない。
気がついたら、三杯目のグラスが空になっていた。

「俺が飲み過ぎると怒るんだ。体に気をつけてくれって。俺だってちゃんと
管理はしているつもりなのにな」
「・・・そうか」
「・・・・・・・まあ、なんだかんだ言ってあいつは・・・俺にとっての奇跡で、天使なんだ」
「・・・そうか・・・俺はそろそろ帰るよ。彼女によろしくな」

男の背中にドーンと落ちている縦線には気づかず、ほろ酔い気分のマリクは、
男が出て行くのを見送った。入れ違いにアッバスが、ニヤニヤしながら
マリクの隣に腰掛ける。

「よう、ノロケ男」
「うるさい」
「アルタイルはその場にいなくてもお前の護衛が出来るのか。
あいつ、お前の事を口説こうとしてたんだぞ」
「・・・そうなのか、わからなかった」

アルタイルには黙っておいた方が良さそうだとマリクは思った。きっと怒られる。

「俺にとっての奇跡だの天使だの、世界が暖かくなっただの・・・あいつが聞いたら
なんて言うだろうな」
「多分、同じような事を倍にして俺に対して言うだろう」

そうして彼は微笑むのだろう。
獲物に対しての非情な笑みではなく、世界を嘲笑うあの笑みでもなく、
彼にしか向けないあの笑い方で。

「そろそろ帰る。アルタイルが心配する」
「気をつけてな」

中身の無い袖が、夜風にひらひらと揺れる。
俺の守護天使のところに帰ろう、そうマリクは考えた。




ああ、酔っている。酒ではなく、彼に対する思いに。