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『唯人』

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外套が翻る。その黒に城内の灯りが映り
斬り、斬り合い、打ち、打たれ。
本来は白であっただろう粗末な着衣を、乾いた赤茶や濡れた赤に変色させた青年が、どうと倒れる男に跳び掛かる。
男……七尺程はあるその大柄な体に蛙の様に跳ね、圧し掛かった。
ぐっと、男に跨った両足と腰に体重をかけ、出して戦いを続けたままであった彼の武器……刃長二尺に満たぬ小太刀“真阿”、“真吽”の片方を右拳で強く握る。
この間、倒れた男は青年を除けようとせず。
青年の白服の色を変えた、どちらのものともつかぬ赤からも分かるように、眼前の男がこうして倒れるまで……つまり、片側の敗北が決まるまでに互いに斬り合った事で、青年の武器の刃先から刃にかけ、男の肉の脂肪がとろとろと流れ落ちていた。最早武器は使えたものではなく、相手は倒れ崩れたが、青年にも余力は残っていない。
彼が出来た事は、倒すべき黒マントの男が倒れたのを目で見た瞬間、矢のような速さで跳び掛かり、力など碌に入らなくなった体を動かし、太刀だけはしっかりと握りしめた右拳を男の体に振り下ろす事であった。

“俺にはもう力はない”
(勝敗生死が確定する今の今まではこのぼろぼろの体でも力が膨れ上がっていたと言うのに。)
一撃で、一撃でこの男を殺害しなければ。
目で追うより脳が、全身を鎧で防御した男への攻撃手段を探し、認めた。その感覚であった。
鎧に守られた黒マントの男の長身故の面長の顔と首の間の露出した肌色に右拳を下ろす。
小太刀の切先が男の皮膚に呑まれ、そのまま二寸程喰い込む。
切らなければ切らなければ切らなければ……俺は、
がつりと、男の体内に入り込んだ刃が音を立て、思考の中をさ迷っていた青年は我に返る。骨に当たったのだ。ならば太い血の管も最早切っている。
思った通り断ったそこから脈に合わせ血が噴き出る様を見て、青年は自らの全てが冷え切っていく事を感じた。

男の首から規則的に噴き出していたそれは勢いを失くし、徐々に大人しくなった。
見えているのかいないのか、分からぬが、中空に視線を預けていた男は意識が失せる間まで数度、何かを呟いていた。
何を呟いていたかは、青年は分かっている。
そして青年しか知らぬ男の最期となり、それは直ぐに誰も知らぬ一連の出来事となる。

凶明十五年の今に甦り尚悪鬼よ諸悪の根源よと呼ばれた男……覇王。
青年……サスケと同様に両手に武器を持ち、しかし約五尺八寸のサスケを遥かに凌ぐ巨躯である覇王の長い腕と、その充実した体による攻撃は重く、遠間からでもサスケを追い、重装備と体格に反し想像以上に迅かった。
浅手を負い肉を深く貫かれ、ならば顔等の鎧に覆われていない奴の急所に……と真阿・真吽を収め近付けば、片腕で十七貫程はある体を持ち上げられ、強かに殴られる。
足が地から浮き、恐怖を覚えたその咄嗟に、瞬きよりも短い間の猶予だっただろう、心臓を捕えていた拳の一撃を避けたが、鳩尾に当たる。
息が出来ぬ。その苦しみも、腹に穴を空けられた様な衝撃で飛びかけた意識により曖昧なものとなったが、動けなくなった所を続け様に斬られ……浅手と深手と打撲。サスケの体はあらゆる怪我と自らと覇王の血にまみれている。
打たれた腹は頭に響く程までに痛みを持ち、筋が腫れ上がり熱を持っている。
覇王は倒れ自らは生きているが、サスケ自身も立ち上がり、歩く事は困難であった。
止血帯による蘇芳染めの忍び装束の頭巾で血の流れを抑え、この日の為に……若しくはその前に覇王以外の何者かとの戦いにより重傷を負わされる事に備え携行していた薬類を用い、今すぐに適切で然るべき処置を施し、体が動くようになり次第、速やかにここ……黄金城内から出る。
それが彼が当然として取るべき行動であった。
動けぬ程の重傷、年少の頃から毎日鍛え続けていた忍の身でなければまず命はなかった。今、城内に倒れているのは覇王であるが、自分がそうなっても全くおかしくなかった。サスケが一流の忍として……いや、本能としてはとりあえずの手当てを行い、何とか生きて城内を出よう、そう思う事が常であろう。
(……よく生き残ったな。)
まるで他人事の様にサスケは思う。
そう思ったまま、自らの体の重傷に目もくれなかった。
眩む様な腹の痛みも、未だ血の垂れる体も深手も、全て放っている。
抜け忍として追われその疲労は溜まってはいるだろうが、十二分に鍛えた若い肉体である。
手当てをしよう ここを出よう、……生きよう。
持ち合わせの今の思考を総動員しても彼はそうは思えなかった。

サスケの宿命は終わった。
彼のものか覇王のものか、もうどちらかは分からぬが、鈍くなった目で確認出来るだけでも床のあちこちに散らばる赤い塊やその点々をぼおっと見ながら、城内の柱を背もたれとし、転がるようにサスケは座り込む。
一丈程の近くには、動かなくなった仰向けの覇王。

油は入っていない。黄金城の力で火が付き燃えているのだろうか……
得体の知れぬ灯りにどうでも良い思いを向ける。
そして今迄の過程を思い起こす。
作品名:『唯人』 作家名:シノ